果物屋のおじさんと兎獣人の女の子1
ウインドウォーター王国は、朝方に山の方から強い風が吹いてくる。
なので、朝方はあまり人通りが多くはない。
しかし、商店の人達は逆にその風を利用し、水路に船を浮かばせて山の幸などの商品を一気にこの商店街に運ぶ。
そして、夕方過ぎになると一定時間だけ海からの風が少し強まるので、その風で水路に船を浮かばせ荷物等を山に運んでいるのだ。
小冊子に、この事も書いてあった。
恐らく、遠方から観光に来ている人達も俺と同じように小冊子を読んでいるのだろう。
地元住民らしき人しか、強めの風が吹くこの商店街に人影は無かった。
昨日の果物屋のおじさんと、初めて見る兎獣人の女の子が果物を運んでいた。
なので俺は、約束通りおじさんの元に行った。
「おじさん、おはようございます」
「ん? お嬢ちゃん一人か? 悪いな、まだ準備中なんだよ。もう少し、待ってくれるかな?」
俺は返事の代わりに頷くと、おじさんはまた作業準備に入った。
そう言えば今日は、昨日と姿や髪の色、形、それに服装も全然違う。
おじさんが、昨日と同じ人物だと分かるはずがないか。
でも、声音は変えていないから一緒なんだけれどね。
それに、幼いので親と離れた子供とでも思われたのだろうか?
少しすると、バナナを一本もらった。
俺は、貰ったバナナをモシャモシャ食べてその様子を窺った。
「杏! お前の所のリンゴの箱、奥に積んでくれるか? 昨日のお嬢ちゃんが、今日も来てくれる筈だから売れるかもしれないぞ!」
「はっはっ、はい」
もしかして、この子が美味しいリンゴを卸ている果樹園さんなのかな?
でも、少し臆病そうだ。
大きな耳が特徴的な、可愛らしい兎獣人の少女だ。
腕も足も細いのに、大きな果物の箱を軽々と持っている。
獣人の女の子って、見た目は細くて筋肉が無さそうに見えても力は強いんだな。
クマ獣人の女の子、ブルメリアちゃんも筋肉が無くて細めなのに力は強いからね。
男性の獣人の人が、遠くで野菜の箱を持ち上げているけれど筋肉隆々なので種族特有なのかもしれない。
兎獣人の少女は、おじさんが声を大きくする度にビクビクしている。
おじさん声は大きいけれど、リカステさんみたいに強面じゃないよ?
……リカステさん、例えてしまってごめんなさい。
「杏? ソロソロ、俺に慣れてくれよ!」
おじさん? そんなに、大きな声を出すとその子脅えるよ。
まあ、商売しているので声が大きいのは仕方がないと思うけれどね。
「ひゃー! はっはぃ」
兎獣人の子は、耳が大きいので余計に大く聞こえるかもしれない。
大きな耳が頻りに左や右に向いて辺りの音を拾っていた。
「はー……俺が悪かった。今日は、他にも果樹園から商品持ってきたんだろ?」
「はっ、はい」
それにしても、あの大きい耳が世話しなく動いているけれど耳のフワフワしている毛を触ってみたい。
尻尾もフワッとしているので、触り心地がよさそうだ。
恐らく、動物の兎のように兎獣人の子も臆病で警戒心が強いのかもしれない。
動物の兎は、男の子より女の子の方が警戒心が強くて性格かきつい子が多いって聞くけれど兎獣人の女の子はどうなのかな?
「あのー、おじさん?」
「ん? どうしたんだ、お嬢ちゃん? また、バナナが欲しいのか? ママは、見つかったか? もう少し待ってくれたら、商店の預かり所に聞きに言ってやるぞ?」
「違いますよ」
確かに幼い子にしか見えないと思うけれど、十歳だよ?
周りで手伝っている子は、十歳らしき子もちらほらいるよ?
基本的に、俺より大きいけれどね。
仕方がない。話を、切り出そうか。
「昨日は、沢山の果物をありがとうございます」
「……えっ? もしかして、昨日のお嬢ちゃんのお連れさんかい?」
おじさん、やっぱりこの姿だと気づかないよね?
まあ、この国の第三王子や騎士長に気づかれないよう態とこの姿なのだけれどね。
「えっと……はい」
「いやー、昨日はありがとな! 沢山果物を、買ってくれて。昨日のお嬢ちゃんに、お礼言っておいてくれよ! おっ! もし良かったら、梨食うかい? これ、めっちゃ上手いぞ! だけどな、リンゴと同じで形が変だからって誰も買わないんだ。それにこの梨は、昨日のリンゴと同じ果樹園の梨だぞ!」
同じ果樹園の梨だと、期待できる。
だって昨日のリンゴは、形が変なだけで他のリンゴより格段と美味しかったからね。
美味しくても、やはり売りに出すには見た目が重要なのだろう。
他にも果物屋が有ったが、形の良い果物しか置いていなかった。
「おじさん、頂きます」
俺が昨日、色々な果物を箱買いしたのが相当嬉しいのだろうな。
今日は笑顔が絶えないようで、喋る喋る喋りすぎる。
兎獣人の子は、俺の事が気になるようで先ほどからチラチラと見ている。
耳をこちらに傾けているので、俺とおじさんの会話を聞いているのだろうな。
「おう!」
食べてみると、リンゴとは違った食感で柔らかさと甘さが口の中いっぱいに広がる。
これ、西洋梨だ!
歪な形だからそうだと思っていたけれど、この西洋梨も美味しすぎる。
この西洋梨やリンゴを扱っている果樹園さんは、やはり当たりの果樹園さんだ。
「美味しい!」
と、自然と口から言葉が出た。
俺の言葉を聞いた兎獣人の子も、なんだか嬉しそうだ。
果物の箱を置いて、ソワソワしている。
「だろ? お嬢ちゃん! 何個か、買っていくかい?」
兎獣人の子が、嬉しそうに飛び跳ねているよ。
凄く可愛い。可愛い獣人の子が、喜ぶ姿をもっと見たい。
「おじしゃん、何箱有ると?」
「おっ! 昨日のお嬢ちゃんみたいに、箱で買ってくれるのかい? だけど、持てないだろ?」
当然、この件になるよね?
ウインドウォーター王国にいる間は、どうせ毎日のように来る事になるので、おじさんには大きくなったり小さくなったり髪や眉の色を変化出来ることを、伝えておいた方が面倒臭くなくて良いよね?
なので、おじさんに伝える事にした。
初めおじさんは驚いていたけれど「そういう魔法が有るの」と伝え、物陰に隠れて五歳から十五歳の容姿に変わると納得してくれた。
聞き耳を立ててその様子を見ていた兎獣人の子も、おじさんと同じ驚き方をしていたので、態々同じ内容を話さなくても良いだろう。
と言うわけで、俺はおじさんの近くで兎獣人の子が驚かないように伝える。
「おじさん、杏ちゃんの持ってきた果物全部箱でください。良いよね? 杏ちゃん?」
「はい!」
俺が遠くから話したからかもしれないが、兎獣人の子は驚かなかった。
それに、俺の近くまで全部の箱を持ってきてくれた。
やっぱり、おじさんの声が大きすぎるのでいつも杏ちゃんが脅えちゃうんだよ。
「おじさん? 杏ちゃんと話す時は、もう少し声を小さくしてあげてね」
「お嬢ちゃん、俺も何となく分かってはいたけど、商売気質だから仕方がないんだよ」
「ですよねー」
俺は西洋梨の他に、昨日と同じリンゴ、さくらんぼ、ブルーベリー、葡萄も一緒に箱で購入した。
杏ちゃんは凄く嬉しいようで、俺に抱きついて来た。
恐らく、俺の方が杏ちゃんより小さい事もあって警戒心が薄れたのだろう。
俺も、杏ちゃんに応えるように……どさくさに紛れてとも言うが、兎のケモミミ尻尾を触った。
これは、低身長少女の特権だね。うふふふ。
杏ちゃんに果樹園の場所を教えてもらったので、今度行こうと思っている。
俺の名前をおじさんと杏ちゃんに伝えたので、今度からは少々容姿が変わっても問題はないだろう。
卸作業が終わったので、杏ちゃんとおじさんの三人で後ろの木箱の上に腰掛け、俺が創ったアップル ミルフィーユ モンブランを食べていると店先で呼び鈴が鳴った。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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リリー「シルク? アクセサリーの機能を使って、兎のケモミミ尻尾を付ける
のは良いのだけれど、なぜ下着姿なの?」
シルク「何言っているのよ? リリーが寝言で言っていたメイド喫茶でも着る
事があるバニースーツよ?」
リリー「それ、違う店の事も混じっているよ?」
シルク「でも、接客するなら同じでしょ?」
リリー「いや、普通のお店は下着で接客しないから」
シルク「じゃー、リリーの寝言で言っていたお店は何なのよ?」
リリー「――――」
だって男上司に「良いところに連れて行ってやる」と言われ、連れて
行かれた所がそういうお店だったと、シルクに言い訳をする事が
出来なかったリリーであった。




