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ウインドウォーター王国の商店街2

 リンゴ一個で、しかもサービスで頂いたとはいえ、他人の物を盗むのは犯罪だ。

 なので、俺は貴族風の美少年を追いかけた。

 しかし人を縫うように走る美少年は、戦闘モードではない俺では追いかけるのは困難だった。


 戦闘モードになれば簡単に捕まえることが出来るのだが、人を縫うように走のは危険を伴うので、どうしても壁伝いに爆走する少女になってしまう。

 そんな少女を見た住人が騎士達に通報するかもしれないし、容姿が変わって別人に見えるとしても騎士長達に見つかり、呼び止められ事情を話した時に声音であの時の幼女だと気づかれるかも知れない。


 それに戦闘モードでない俺が走っても、小さな子が追いかけっこをしている風にしか見えないので住人達は騎士達を呼ぶほどの騒ぎにはしないだろう。

 なので、戦闘モードで追いかける事をしなかったのだ。

 しかし、あの泥棒美少年の足は速すぎる。



「もぉー! さっきの子は、誰よ? 人のリンゴを、取るなんて!」



 商店がある小島から別の小島に渡る橋の上で立ち止まると、北東から風が吹いてきた。

 俺は諦めて、橋の上で橋の手すりに腰をかけ座っていると心を癒やすように気持ちの良い風が吹いてくる。



「風が、凄く心地ちいいわ」



 水面(ミナモ)に映る色鮮やかな家が、光りと交わりまるで虹の様に見えた。

 フォレストムーン王国の町並みとは、まるで違う風景でここが異国であると分かる綺麗な景色だ。



「色味が不思議だけれど、凄く綺麗ね」



 その情景を見ていると、急に突風が吹きスカートを捲(メク)り上げられたので思わす手で押さえるとバランスを崩し水路に落ちかけた。



「ひゃっ」



 すると、先ほどリンゴを盗んだ貴族風の美少年がどこからともなく現れたかと思うと、俺は手を持たれ助けられた。



「お嬢さん、そんな所に腰掛けていると危ないよ?」



 貴族風の美少年は、ヒラリと俺を橋の手すりから降ろしたので俺はその手を掴(ツカ)む。



「あっ! リンゴ泥棒さん、見つけた!」



 リンゴ泥棒の手を掴んでいると、偉丈夫な男が走って来た。



「おい、そこの娘! ウィリディスム様に、無礼だぞ!」



 この泥棒美少年、ウィリディスムって言うんだ。

 そう思っていると



『「リリー様、この者はこの国の第三王子のようです。それに、先ほどリリー様のリンゴを取ったのはリリー様の身を案じて行ったようです」』



 と、ユグドラシルから『心情』が伝わって来た。

 どうやら先ほどの商店で買い物をする前から、ごろつきが俺を狙っていたようだ。

 なので、あの場所から遠ざける為にあのような行いをしたらしい。

 しかも護衛も付けずに暢気(ノンキ)に果物を沢山買っていたので、ごろつきからは異国のお嬢様だと思われ、誘拐も計画されごろつきが集まっていてかなり危うかったらしい。



『「なら、ユグちゃんもっと早く言ってよ」』



 と『心情』でユグドラシルを怒った。

 でも、ユグドラシルとしてはその様な状態になっても対処可能なので放置していたとの事だ。

 まあ、俺から出来るだけ人を傷つけない様に言われているので、やむをえない場合を除いては放置が一番いいかもしれない。

 なので、



『「ユグちゃん、怒りすぎたからごめんね」』



 と言ってユグドラシルに謝っておいた。



「良いんだ、グラジオラス。事情を知らない子からすれば、僕はこの子のリンゴを盗んだ泥棒だからね」



 えっと、事情はユグドラシルから心情で聞いたので分かりました。

 だからと言って、理由は言うべきだと思うよ。

 だって俺のように人の心が読める、優秀な聖霊がいる人なんて滅多にいないと思うしね。



「ですが、ウィリディスム様……」



 第三王子が偉丈夫な男に手を向けて、意思を示す。



「ごめんね、お嬢さん。先ほどの行いは、お嬢さんの身を案じて行ったんだ。でも護衛も付けずに一人でいると、ごろつきの的になるよ? ……んっ? もしかして、君はパープルちゃんかい?」



 パープル? パープル……聞いたことあるよな? 

 あっ! もしかして、スミレちゃんのこと? 

 確かに今の装いは姫ロリ服セット(薄紫色)で、見た目は王女に見えなくはないと思うけれど普通見間違えるかな? 


 スミレちゃんと顔や髪の色、全然違うよ? 

 俺の方が背も低いし、声音も違うよね? 

 それに王族がお忍びで来たとしても、普通護衛が密かにいる筈なので人違いって気づかないのかな? 

 まあでも、俺も人のことは言えないか……。


 高校生の時、小学生以来久しぶりに会った女の子が、まるで別人になっていた事に驚いたからね。

 だって髪の色と形はウィックで違うし、付け睫毛にカラコン付けて、綺麗にメイクして、装いがアニメの可愛いコスチュームだよ? 

 コスプレして声かけられても、分かるわけないやん。

 今の俺、人のこと言えないけれどね……。



「人(・)違(・)い(・)で(・)す(・)……」



 そう第三王子に伝えてみたが、潤んだ双眸で見つめられ両手を握られた。

 ん? 何この展開? 

 いや、普通人違いですって言われたら素直に謝って立ち去るよね? 

 俺がそう勘考していると



『「リリー様、人(・)違(・)い(・)で(・)す(・)は逆効果だったようです。益々スミレ様と勘違いされています」』



 と、ユグドラシルから『心情』が伝わって来た。

 どうやら、スミレちゃんが幼少の頃に第三王子と会うと「人(・)違(・)い(・)で(・)す(・)」と口癖のように言っていたらしい。

 恐らく、第三王子の優しそうな双眸で見つめられる事に慣れていなかったのかもしれない。

 そういう俺も、今まさに第三王子のその双眸で見つめられている最中だ。



「ふにゃ?」



 顔が近いよ。それに、両手を握られて逃げられない。



「パープルちゃん、久しぶり。六年ぶりだね」



 第三王子に両手を握られていると、偉丈夫な男が騎士の礼をした。



「これは、失礼致しました。まさか、パープル様とは……パープル様の護衛は一体何をしている?」



 偉丈夫な男が周りを見渡すと、ごろつきが六名やって来た。



「「「「「ハー、ハー、ハー」」」」」



 ごろつき達が、両手を両膝に付けて肩で息をしていると、その中の一人であるスキンヘッドの男が鉈を右手に持ち替えた。



「やっと金蔓を見つけたと思ったら、何だこいつら? 護衛か?」



 そして、六名のごろつきの後ろから大男が現れた。

 大男が指を鳴らすと、前に出る。



「兄弟、俺に任せろ。こんな奴ら、一捻りだぜ」



 えっと、そう言う言葉を使う人は初めに倒される役だと思うのですが……。

 それに悪そうな人って、どうしてそう言う言葉を使かうのかな? 

 自身でそう思ってはみたものの、この大男は鉈も持っていないし見た目からして筋肉隆々なので、やはり余程の力自慢なのだろう。

 けれど大抵のアニメや小説では、しゃしゃり出てきた者程、瞬時に倒される場面が多い。

 さて、現実はどうだろう? やはり、大男の方が強いのか? 

 もし大男の方が強ければ、俺が見えない早さで倒せば……。

 大男が不敵な笑みを浮かべると、第三王子が俺に笑顔を向ける。



「パープルちゃん、物陰に隠れていて」

「だから――――」



 だから、人違いですよ! と第三王子に心から突っ込みたいが寸前の所で、



『「リリー様、人違いですと言ってしまうと、第三王子の勘違いか止まらなくなります」』



 と『心情』で言われたのだ。

 なので、あえて展開が読める言葉を使わずに無言に徹した。

 しかし、第三王子の勘違いは止まらないようだ。

 ユグドラシルから、



『「リリー様、無言に徹しましたがやはり第三王子の勘違いが止まりません!」』



 と『心情』で伝わってきた。

 なら、どうしろと? 

 第三王子が前に出ると、偉丈夫な男が第三王子の横に立つ。



「ウィリディスム様、このような輩にお手を煩わせる訳には……」

「グラジオラス、分かるよね?」



 いや、分からないよ? それに、キラキラしている笑顔を向けてこないで下さい。

 エレモフィラ君やバレリアン君と違って、本物の王子様の笑顔が眩しすぎるから。



「はっ!」



 偉丈夫な男が第三王子の命令に従い、少し下がった。

 俺は物陰に隠れると、マウスLV2を使用し瞬間移動して建物の上に移動すると、そこから様子を窺った。

 この方が、全てを見下ろせて状況が判断しやすいし、例え第三王子達が不利な状況になったとしても助け出せる事が出来る。


 それに第三王子達には悪いが、第三王子達がごろつきに勝利した後、逃げ出すことが容易なのだ。

 だって、何度「人違いです」と言おうと逆に勘違いされるのが分かっていて、あの場にいること何て出来ないからね。

 俺の場合、ユグドラシルがいるので、その事が手に取るように分かるのだ。


 それに、勘違いさせたままスミレちゃんに会わせるわけにはいかないからね。

 でも、どうしよう? 



「私の顔を、よく見て下さい。パープルちゃんとは、全然違います。ですので、人違いです」



 と言った方が、良いかな? 

 でもそうすると、またキラキラしている笑顔を向けて来られる事になるでしょ? 

 あの笑顔で見られると、変な気分になるんだよね。

 何て説明すれば良い分からないけれど、あれって【美少年】という固有スキルじゃないかな? 


 異世界だし、そう言うスキルが有ったとしてもおかしくないよね? 

 俺が様々な思いを巡らせていると、どうやら偉丈夫な男の方は俺がいなくなった事に気づいたようだ。

 視線を、気づかれないように左右に振って俺を探している。


 第三王子はと言うと、腰にある剣を鞘に入れた状態でごろつきの大男の前に行くと、瞬時に大男の鳩尾に剣の柄頭を突き刺し、悶絶する大男の首に鞘に入れたままの剣で打ち付け意識を経った。

 それを見たごろつき達は、大男を引きずり逃げていった。

 大男は、見掛け倒しだったのかな? 

 でも、第三王子の剣の腕前は確かだったよな? 

 美少年だけど、王族だけあって剣の修練をしっかりとしているんだな。

 俺の、このプニプニの腕と大違いだよ。

 力を入れた瞬間、服の上から分かるほど第三王子の筋肉が盛り上がったからね。

 まあそうでないと、あの動きは出来ない。

 俺は、いつでも飛び出せるように戦闘モードで準備をしていたから、手に取るようにわかったよ。

 そして、



「パープルちゃん、もう安心だよ?」



 と言って第三王子が振り向くが、偉丈夫な男しかいないことに気がついた。



「グラジオラス、パープルちゃんはどうした?」

「それが、ウィリディスム様が戦う寸前でいなくなりました。恐らく、私より格上の護衛がパープル様を連れてお逃げになったのかと……」

「そうか、この国の第三騎士団長が見失う程の護衛が付いているのなら、パープルちゃんの心配は無用だったようだね」



 第三王子は、笑顔でそう言った。

 この王子様、性格も悪くないよ……身を隠したのは、不味かったかな? 

 でも俺は中身が女の子じゃないし、ああいった場合の対処方法が分からないんだよね。



「恐れながら」



 偉丈夫な男が第三王子の前に跪いていると、励ますように第三王子が肩を叩いた。



「心配するな、グラジオラス。パープルちゃんがこの国に来ていると言うことは、交流試合をフォレストムーン王と視察に来たのだろう。だから、また会えるはずだよ」



 そう言って第三王子達は去って行った。

 臣下を思いやるこの性格も、悪くはない……もし、スミレちゃんが第三王子の事が好きなら応援してあげようかな? 

 なぜか、複雑な心境だ。

 そう言えば、交流試合をカトレア先生と見に行くことになっている。



「ユグちゃん、どうしよう?」

「リリー様、スミレ様と相談するしかありません」



 やってしまった。少し違うかもしれないが、まさに定番の物語の様な展開? 

 水路に落ちかけた所を美少年に助けられ、ごろつきに襲われそうになり再び助けられ、その正体が実は王子様なんてベタすぎるよ。


 まあ俺のように相手の心情が分からなければ、パープルちゃんだとか言われても意味不明だと思うし、美少年の正体が第三王子だとかも分からないのだけれどね。

 それに相手の心情がわかるとしても、中身が純粋な女の子ならベタで定番でもドキドキする展開かもしれない。


 だけど俺は、スミレちゃんとは変な三角関係になんてなりたくないからね。

 俺の思考回路は、モフモフな子=モフモフな獣人の子=スミレちゃんや使徒達・眷属達・従者達・召喚聖霊、精霊達>女の子達=カトレア先生達や女性=信者達>男の子達や男性だからね。



「だよねー?」



 こうして俺とユグドラシルは、建物と建物の上を飛び人目を避ける様にして第二の自宅に戻るのだった。

 でも途中の商店で、山の幸や鮮魚やお肉が沢山売っていたので大人買いしたよ。

 そしてごろつきはと言うと、帰り道に見つけたのでユグドラシルが蔦でグルグル巻きにして、騎士達がいる所に放り出しておいた。

 ちゃんと



「この人達は、幼気(イタイケ)な少女を襲おうとした悪い人達です。ウィリディスム殿下、助けて頂きありがとうございました」



 と言うメッセージは添えておいたよ。

 これで、危険な目にあう子が少なくなるのなら良い事だからね。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シルク「リリー、王子様は格好良かったの?」

リリー「美少年だったよ。それに、正義感があって、剣の腕も確かで、親切で、

    笑うと可愛くて、双眸で見つめられると恋に落ちる子が多いと思うよ」

シルク「でも、スミレちゃんと間違われたのでしょ?」

リリー「うん……」

シルク「そこが、残念だよね」

リリー「――――」

    もとの世界で、同じような勘違いをした覚えがあるリリーは、何も

    言い訳が出来ないのであった。

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