幼女リリーと猫さん
他の子猫も俺に戯れて来たので地べたに女の子座りをして、子猫の柔らかい毛をフニフニ撫でていると路地裏に血相変えて男が駆け込んできた。
路地裏に血相変えて駆け込んできたのは、冒険者ギルドのフロックスギルドマスターだった。
「はぁー……なんだ、リリーちゃんじゃないか」
「フロックスギルドマスター? そんなに慌てて、どうしたのですか?」
「いや商店街の奴らがな、聖女のような装いの美しい獣人の子供が隙間に入っていったっきり出てこないと冒険者ギルドに駆け込んできたんだ」
そう言えば今日は、スミレちゃんの希望で修道ロリ服セット(赤・白色)を纏っている。
それに、髪は銀髪で狼のケモミミ尻尾を付けている十五歳の容姿だった。
でも、今は隙間に入るために五歳の容姿にしたのだけれどね。
あれ? 可笑しいな?
俺の中のギルドマスターのイメージは、冒険者ギルドの執務室から出てくるものだ。
でも、今回は違っていた。
ロベリアさん若しくは酔っ払っている冒険者が来そうな気がするのだけれど、普通ギルドマスター自ら来るかな?
そう言えば、リカステさんが飲んだくれるのを止めて冒険者学校の教師になってから、他の飲んだくれ仲間の冒険者達も、今は大洞窟や南の森にいそいそと狩りに行くようになった。
もしかすると飲んだくれていた他の冒険者達も、冒険者学校の教師という定職につけるかもしれないと思ったのかな?
でも今回、リカステさんが冒険者学校に採用されたのにはスミレちゃんが大きく関わっている。
実は、スミレちゃんがリカステさんの事を高く評価し国王陛下に報告した事で採用となったのだ。
リカステさんは南の森で、氷獄の悪魔ドッペルゲンガーとの戦いの時に出来る限りカトレア先生に被害が及ばぬよう立ち回っていたらしい。
カトレア先生が決めた二つ名が、豪腕の強面紳士の意味が分かる気がした。
確かにリカステさんは、女性や子供に紳士的な行いをしてくれる。
俺が、冒険者ギルドに初めて訪れた時もそうだったからね。
「私は、猫さんの子猫達と一緒に戯れていたのです」
「リリーちゃん、驚かさないでくれよ。また、獣人の子供達の誘拐かと思ったぞ」
そう言えば、冒険者ギルド近くにある大きな宿屋で起こった誘拐事件はまだ記憶として新しい。
ギルドマスターが、慌ててきたことは分かった気がする。
「それに、今朝ロベリアが急にカトレアと一緒にウインドウォーター王国まで行くことになったとか言い出してだな、俺は今忙しいんだ」
「えっ? ロベリアさんカトレア先生とウインドウォーター王国に行ったの?」
カトレア先生、金欠じゃなかったの?
でも、ユグドラシルは人の心情が読めるのでカトレア先生が金欠なのは間違いないはずだ。
まさか、カトレア先生が作った人形を売りに出したとは思えないし……
「ああ。それに、聞いた話だと旅費と食事代はリカステ持ちなんだと」
「そうなんですか」
成る程、納得した。
あら、結局リカステさんは自腹を切ることになったんだ。
でも、カトレア先生の自腹を切らせないところがリカステさん紳士だね。
リカステさん、強面じゃなかったら良かったのにね。
それだけ紳士な所貫いていれば、女性は恋心を抱くと思うよ。
ホントに、強面な所が残念でならないね……リカステさん、ごめんなさい。
言い過ぎました。
「ただ、気になるロベリアの癖があるんだ」
ギルドマスターが知っている、ロベリアさんの癖?
語尾を伸ばして、ゆったり話すことは知っているけれど何かな?
「リリーちゃん、実はな。ロベリアが【エヘヘー】って言っている時は要注意なんだ。そういう時は、何か良からぬ事を考えている時の癖なんだよ。はー……ロベリア、またカトレアに悪戯するんじゃないだろうな? カトレアに謝るのは、いつも俺なんだぞ! 全く、あの小悪魔は困ったもんだ!」
ロベリアさんの【エヘヘー】は、知らなかった。
だけど、困ったものだと言っておきながらギルドマスターそこまで困った顔をしていないよね?
ロベリアさんきっと、常習犯だろうけれど可愛い悪戯なのかな?
えっ? でも縫いぐるみ人形の機能が付いたアクセサリーを渡す前に、ロベリアさんがカトレア先生と一緒に?
あらら。カトレア先生、ロベリアさんに脱がされちゃうかもしれないな。
……もしかして、これが悪戯?
まあ、女性同士だからね。
俺は、何も言えないよ。
それに、もう出立しちゃったから今更だしね。
でも、ギルドマスターにはロベリアさんの悪戯をそれとなく伝えておこうかな?
「フロックスギルドマスター、もしかするとカトレア先生、ロベリアさんの悪戯でついにポロリしちゃうかも?」
「リリーちゃん、何だよそれ」
「クスッ。秘密です」
俺とフロックスギルドマスターが話していると、母猫がお礼をするように俺のことを何度も振り返って子猫と一緒にどこかに行った。
可愛い親子の猫達の姿を見ていると、ギルドマスターが下に指をさした。
「リリーちゃん? 母猫が、一匹残してどこかに行ったぞ」
「えっ?」
ギルドマスターに指摘されて足下を見ると、先ほど傷を治した幼い子猫のようだった。
「子猫さん、ママの所に行かないの?」
子猫に質問するが、猫が話せるわけがない。
しかも、俺がトコトコ歩くと一緒についてくる。
フニャー……この子猫可愛いよー。
スノーの手足も幼虎にしては、かなり小さい。
けれど、やはり虎なのでしっかりしている。
でも、この子猫の手足は小っちゃい。
尻尾も細いので、俺の足に巻きつけてくるのがまた愛らしい。
でもシルクに、
「リリー、また拾ってきたの? 角兎の次は、子猫?」
と、怒られそうだ。
だがしかし、ついてくるものは仕方がない。
うんそう、仕方がないのだ。
俺は自信にそう言い聞かせ、プンスカ起こっているシルクの幻影を振り払う。
それに、母猫もどこかに行ってしまったしね。
しかし、シルクに駄目って言われた時のことを考えると……あっ! そうだ。
冒険者ギルドの、看板猫はどうかな?
ギルドマスターに、ちょっと聞いてみよう。
「フロックスギルドマスタ-は、動物が好きですか?」
「リリーちゃん? そんなことを言われても、俺はその子猫を飼えないぞ?」
「でしたら、冒険者ギルドは駄目ですか?」
ギルドマスターを見上げて、潤んだ双眸で訴えかけたが
「飲食亭があるから、動物は衛生上無理なんだ」
と言ってきた。
クッ、幼女の潤んだ双眸作戦失敗。
やはり冒険者ギルドでも、飼うのは難しいようだ。
「あとな、リリーちゃん? もう、フロックスギルドマスターと言わずに、フロックスで良いぞ」
と言ってきた。
そう言えばギルドマスターとのやり取りは、冒険者ギルドの受付や執務室だけでは無く、冒険者学校で行われた選抜試験本番の時もそうだったからね。
選抜試験中にロベリアさんがカトレア先生に話をしている時、俺にギルドマスターが
「リリーちゃん、申し訳ないがトイレはどこだ?」
と、話しかけてきた。
なので
「私が案内しますよ」
と言って案内した。
案内するとギルドマスターが男子トイレの中に入ったので、俺も昔の癖で一緒に入るとギルドマスターが【えっ?】という顔をしていたのが笑えた。
けれど、自身の身体の事を思い出して女子トイレに駆け込んだ事を思い出した。
つまり、俺の中でギルドマスターはもう連れ○○ん仲間なんだ。
色々と突っ込まれそうだが、分かる人には分かる。
と、言っておこう。
「はい、フロックスさん」
仕方がないので、自宅に子猫を連れて戻ることにした。
フロックスさんと別れ、歩いているとホテルの前でスノーが掃除しているのが見えた。
なので、俺はスノーに手を振ってかけ出すと途中で転んだ。
「ふにゃ!」
「ミィー!」
五歳の容姿ならではの、お約束である。
子猫も心配して、声をかけてくれた。
俺が転んだのを見ると、スノーが走って来て助け起こしてくれた。
「リリー様、お怪我はありませんかぅにゃん? それに、珍しい物がついて来たようですねぅにゃん」
「えっ? 珍しい物? もしかして、子猫さん?」
俺が子猫に小首を傾げると、子猫も小首を傾げた。
「ミィー?」
どういう事?
この子、子猫じゃ無いの?
こんなに、小さくて可愛いのに?
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「リリーって、犬派? 猫派? どっち?」
リリー「私はモフモフしている子は、みーんな大好き! だからモフモフ
派かな?」
シルク「そんな派は、無いわよ。私は、どちらかと言えば犬派ね」
リリー 確かに、アイビーは犬派か猫派かと問われれば犬派になるよね。
だけど
リリー「私、シルクは狼派だと思ったよ?」
シルク「……確かに、そうかもしれないわね」
頬と耳を朱色に染めるシルクは可愛かった。
しかし、
アイビー『シルク? ライムさんが、新作のお菓子持ってきてくれたよ?』
シルク「行くー!」
お菓子が来ると、全て台無しになるシルクであった。




