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選抜試験の前日7 【リリーSIDE3】

 先ほどの戦闘訓練から考えて、スミレちゃんとの能力差がまだまだ有りすぎる。

 一度この闘技場の機能を使って能力を低下させ、俺自身で受けて釣り合いが取れるか確認した方が無難だろう。

 それに、この闘技場はドラシルシステムと合わせることで様々な事が出来るようになる。

 その一つが能力減少だが、他にもユグドラシルの眷属達が見てきた魔物を創造させる事、重力操作、闘技場内の時間の加速減速、攻撃や補助にその他魔法の体験など様々な事ができる。

 つまり、この世界における全てに近い想定で、様々な魔物とも戦闘訓練が出来るようになるのだ。

 しかし俺が倒した、澱みの魔獣キメラや澱みの巨大ゴーレムは創造できないようだ。


 ドラシルシステムは他にも、俺が校舎を創るときに断念したものを増築するために必要だからね。

 スノーの言っていた禁則事項もある程度理解できたし、禁則事項に触れない範囲で密かに増築をしてみようと考えている。

 まあ、それも【神級全モノ作り師】を新たに創造したお陰でも有るから、それはカトレア先生のお陰でも有るわけで……複雑な気持ちである。

 ともあれ、ノアの箱舟のように多くの人が乗れないものは避けたい。

 創るのなら、最低でもこの国にいる人々が全て乗れるモノだ。

 俺がそう厨二病心を満載して勘考していると、監視モニター室でカトレア先生が受け付けと繋がっている拡声器が有る方に行っているのが見えた。


 もしかして、来客かな? 

 ならば、カトレア先生がいるうちに監視モニター室でシルちゃんを操作してもらわないと俺が男子三人組がいる所に行かなくてはならなくなる。

 ここのように広い場所でさえ三人組の恋する男子の行動は激しかった。

 もし監視モニター室のような狭い所に行けば、男子三人組の恋の波状攻撃をされるもしれない。

 特にバレリアン君の行動が、予想できない。

 そういう事も考え、俺はカトレア先生に合図をした。

 俺がカトレア先生に合図をしていると、先生が気づいたようで拡声器から音が鳴った。



 ブゥーン! 



「リリーちゃん、何かな?」



 先生が聞いてきたので、俺はシルちゃんの説明と身体能力減少機能の事を伝えた。

 カトレア先生がその機能を入れた瞬間、皆の雰囲気が変わった。

 明らかに身体能力が減少しているようで、ブルメリアちゃんとアザレアちゃんが少し辛そうだ。

 でも、これ位しないとスミレちゃんの能力が抑えきれないのだ。

 アザレアちゃんとブルメリアちゃんのがスミレちゃんと戦えるか判断するために攻撃を放ってもらったが先ほどまでとは違い威力が段違いに落ちていた。

 やはり全ての能力を90%減少させると、技が発動したとしても威力が激減するようだ。

 それに、体力や魔法力自体もかなり減少しているようで肩で息をしだしてアザレアちゃんがブルメリアちゃんの様子を見て模範試合の中止を申し出てきた。


 恐らく、技が発動したとはいえ、その技に多くの魔力などを持って行かれて魔力切れや体力減少を引き起こしているのだろう。

 俺は、二人に魔力と体力が回復する魔法を無詠唱でかけて椅子に腰掛けさせた。

 ならば、スミレちゃんはどうだろう? 

 スミレちゃんも、全ての能力が減少しているはずだ。

 ただ、スミレちゃんは既に基本的な能力数値が大きいようでアザレアちゃんとブルメリアちゃんよりは増しなよう? いや、やせ我慢か? 

 でも、アザレアちゃんとブルメリアちゃんは、スミレちゃんの本気の能力を見たかった。

 ならば、全ての能力が90%減少した状態で放つスミレちゃんの力を見せて上げた方が二人とも納得するだろう。



「スミレちゃん、本気でね」

「うん……」



 スミレちゃんは、自信の魔力を集中させているようだ。

 成る程、この前見せてくれた、この世界でも強い象徴である龍の技を見せるつもりだな。

 スミレちゃんは双眸を見開いたかと思うと、上段から剣を振り下ろした。



「【水龍(スイリユウ)花筏(ハナイカダ)】」



 ギュルゥ ギュルゥ ギュルゥ ギュルゥ ギュルゥ ギュルゥ! 


 ゴォォォォォォ! 


 【パーン!】


 ザバーン! 



 俺は水龍と化したスミレちゃんの技を、両手を叩いて一瞬で打ち消した。

 やはり、スミレちゃんの【水龍(スイリユウ)花筏(ハナイカダ)】も威力が激減していた。

 しかし俺は、能力が減少する感覚が全く無い。

 恐らく、勇者の能力すらも90%減少させるドラシルシステムの機能を、初めから受け付けなかったのだろう。

 そう言えばユグドラシルが



「リリー様は、この闘技場の攻撃、防御、回復、重力、時間、補助魔法、攻撃魔法など全て効果が無いようなので、自身で障壁や補助魔法などをかけて下さい」



 と言っていたっけ? 

 忘れていたわけでは無かったのだが、スミレちゃんと戦闘訓練する時は自身で障壁を張って受けてばかりだったからね。

 実際にこの減少機能は、今日初めて使ったので知らなかったのだ。

 俺が勘考している間にも、先ほどからずっとカトレア先生達と誰かのやり取りがずっと聞こえている。

 カトレア先生、拡声器の機能を入れたまま切り忘れているよ? 

 でも、そのお陰で何となく相手が誰だか分かった。

 スミレちゃんが『個人使徒テレパシー』で



『「リリーちゃん、ウインドウォーター王国の国王陛下は私のお母様の兄なのですが、お父様と仲が良いので、お父様にいってあの教師をどうにかするように言ってもらいましょうか? 聞いていると、私もカトレア先生のように腹が立ってきました」』



 と言ってきた。

 いやいや、スミレちゃん? 

 幾ら仲が良いと言っても、他国の教師をフォレストムーン王国の国王陛下がどうにするなんて簡単にはできないよ? 

 それに、模範試合の中止を言い渡す事が出来ると言うことは、それなりの地位にいる貴族だと言うことだよ? 

 もしかしたら、公爵かもしれないよ? 



『「スミレちゃん、少し落ち着いてね」』

『「でも、リリーちゃん?」』

『「この様子からして、アザレアちゃんとブルメリアちゃんの実力をあの教師は見ていないと思うの。それに、男の子達の実力もね。だから、今回はアザレアちゃん達に任せようよ。私達が出たら、あの先生が言うように試合にならないと思うからね」』

『「はい……分かりました。リリーちゃんにお任せ致します」』



 スミレちゃんの返事が、いつものようにうん(・・)とか子供(・・)っ(・)ぽ(・)い(・)返事ではなくなっているよな? 

 これは、頭にきて本来の王女様の顔が表に出てきたのかも知れない。

 俺の使徒となった事で、年齢相応の子供っぽい言葉使いや表情が最近多かったけれど、本来は今の引き締まった顔が第三王女としての顔だ。

 第三王女としては良い事なんだけれど、俺としては年齢相応のスミレちゃんが良い。

 でも、第三王女の顔を出すならもっと冷静になってね。

 恐らく、俺の代表選手入りも解消になった事で冷静では無くなっているのかもしれない。 けれど、他国間との問題は俺の知っている知識では戦争に繋がることが多いからね。



『「スミレちゃん、ありがと」』



 俺が笑顔を向けてお礼を言った事で、スミレちゃんは年齢相応の穏やかな顔になった。

 今まで色々な人と接してきて、一つ分かった事がある。

 それは、俺の使徒・絆と信仰心の強い信者・信仰心の強い信者となった者は例え王族であろうと年相応の子のようになったり、親しい親戚や家族のような間柄になると言うことだ。

 つまり、俺がそうあって欲しいと願(・)う(・)心(・)に、俺の信者達の心が作用してしまうのか? 


 もし俺が、王族や人々は小説やアニメの様に一般的な王族や人々であると心で強く願えば本来の状態に戻るのかもしれない。

 まだ完全に確定は出来ないが、滅び行く国々や戦乱の渦巻く国々などを絶対に思い描かないようにしなくてはならない。俺は、そう心に誓った。

 そして、俺とスミレちゃんは代表選手を辞退した。

 その日の夜に、カトレア先生とリカステさんが自宅に謝りに来た。

 俺は未だに、リカステ先生ではなくてリカステさんと呼ぶ方が多い。

 先生と言うより、飲んだくれていた強面リカステさんの方が印象が強すぎるんだもん。

 仕方がないよね。うんうん。

 自身で言って、自身で納得しちゃったけれど実際にリカステさんを見れば分かるよ。ホントに。



「リリーちゃん、スミレちゃん、私が腑甲斐ないばっかりに……本当に、ごめんなさいね」

「リリーちゃん、スミレちゃん、スマン。俺がついていながら……本当に、すまなかった」

「カトレア先生、リカステさん、もう気にしてないからね」

「そうですよ。リリーちゃんが気にしないなら、スミレも気にしません」



 俺とスミレちゃんで、カトレア先生達と玄関で話をしていると



「スミレ、リリーちゃん、ライムちゃんがデザートを作ってくれたわよ?」

「「――――!」」

「あっ……!」



 俺がカトレア先生達の異変に気付いたときは、もう遅かった。



「お母様、中に戻って下さい!」

「えっ? スミレ、良いじゃない。リリーちゃんの、自宅ですし安全よ?」

「お母様、そういう意味では……」



 迂闊だった。王妃が、カトレア先生達の前に顔を出してしまった。

 まさか、玄関に顔を出すなんて思いもしなかった。

 親戚や親しい近所のおばちゃんじゃ無いのだから……もしかして、これも俺が思い描いた王妃の姿なのか? 

 いや、まさか……ね? 

 まあでも、王妃もかなりお酒を飲んでいるからね。

 王城と違って、俺の自宅では王族も箍が外れてしまうようだ。

 うん、そう思うことにしよう。

 それに、明日の選抜試験を前に学校に最も近く安全面も考慮すると、俺の自宅の裏口から学校校舎に行くのが一番最適なのだ。

 そういう訳で、夕方自宅に戻るとキノットさん達と王達がいた。



「リリーちゃん、この人達二人とも立ったまま気絶しているわよ?」



 王妃は頬を少し桃色に染め、ドレスの胸元が少しはだけていた。

 そう言えば、今日の王妃の化粧は自然な感じで幼く可愛く見える。

 王妃の化粧は、王妃の化粧専属メイドが王室に合った自然で凜とした姿に仕上げる。

 しかし、今日の王妃の化粧は違う。

 恐らく、ライムお姉さんに大浴場のパウダールームで化粧してもらったのだろう。



「でしょうね」



 カトレア先生達が、気絶したのは何となく分かる。

 カトレア先生達が迂闊だった事もあり、俺とスミレちゃんの交流試合の代表選手入りは無くなってしまった。

 スミレちゃんは第三王女であり、それだけでも代表選手入りが無くなった事はカトレア先生達にとってかなりの重圧だ。

 それに加え、予想できない王妃との対面。

 一気に、重圧がカトレア先生達に襲いかかったのだろう。

 それにしても、白目向いているリカステさん怖すぎ。

 俺は自宅の中に向かって声をかけて救援を呼ぶことにした。



「スノー、葵、クレマチスちゃん、カトレア先生とリカステさんを二階の客室に寝かすから手伝ってー。スミレちゃんも良い?」

「うん。リカステさんの顔が怖いけれど……頑張る。お母様は、中に戻って下さい。二人が眼を覚ましたら、また気絶しますので」

「せっかく、ライムちゃんのデザートが出来たから呼びに来たのにぃー。いいわよ。スミレの分まで私が食べるわ」



 そう言って、王妃は戻っていった。

 うーん。大阪の居酒屋で会った、どこかのお姉さんみたいだ……。



「王妃様、結構酔っていたね」

「うん。お母様、酔っ払いすぎです」



 俺とスミレちゃんは、人型のスノー達に手伝ってもらってカトレア先生とリカステさんを自宅の二階客室ベットにそれぞれ寝かした。

 それぞれ個室に寝かしたので、問題は無いだろう。

 騎士とメイド達は、城に戻って明日の朝に王達を迎えに来る。

 俺の自宅ということで、どうやら騎士達も安心しているようだ。

 次の日、早朝普通にカトレア先生とリカステさんと一階の台所で挨拶したが、王と王妃が二階の大部屋で休んでいることも知らないようだ。

 第二王女は、今スミレちゃんとスノーと葵と一緒にお風呂に入っている。

 そして、朝食も食べずにカトレア先生とリカステさんは大慌てで冒険者学校に走って行った。

 暫くすると、王と王妃がくっ付いて一階に降りてきた。

 まるで、王と王妃の様子がホテルから出てきた夫婦のようだ。

 ……何も聞かないことにしよう。っていうか、俺の家は○○ホテルじゃないよ? 

 第二王女とスミレちゃんとスノー達が大浴場から出てきたので、スミレちゃんに



「もしかしたら、そのうち弟か妹ができるかもね」



 と言うと、スミレちゃんは首を傾げていたが王妃の顔が赤くなっていた。

 その日予定通り選抜試験が開催され、最後まで勝ち進んだのはルビナス君とエレモフィラ君とバレリアン君だった。

 そして、残り二枠の選手はルビナス君が自ら辞退した事でエレモフィラ君とバレリアン君となった。

 その日の夜、またカトレア先生とリカステさんが俺の自宅に尋ねてきた。

 今度は、どうしたんだろう? 

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ロベリア「ねえねえ、カトレアちゃーん。私もー、そのアクセサリー欲しいなー」

カトレア「ギクッ! ロベリアちゃん、これはね私の好きな子から貰ったのよ」

ロベリア「エヘヘー。リリーちゃんでしょー?」

カトレア「――――」

     なぜ、分かったのよ? はっ! もしかして、リカステのあまりの

     怖い顔に、リリーちゃんの縫いぐるみ人形にしちゃったから

     気づいたの? 

ロベリア「エヘヘー。私の分も、リリーちゃんに頼んでくれるかなー?」

カトレア「うんうん。分かったから、服を引っ張るのは止めて。脱げちゃう

     から。脱げちゃうから」

ロベリア「エヘヘー。ポロリ」

カトレア「してないわよ!」

     斯くして私は、ロベリアちゃんのアクセサリーの件をリリーちゃん

     に縋るように頼み込むのであった。

     だってロベリアちゃんが、

ロベリア「アクセサリーはー、まだがーまだがー」

     と言って、私の服を脱がせようと引っ張って来るようになった

     んだもん。

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