選抜試験の前日6 【カトレアSIDE4】
コンコン
ノックがしたので、返事をすると受付の人に連れられてウインドウォーター王国の先生が書類を持って入ってきた。
「初めまして、私はウインドウォーター王国にある冒険者学校で専属の戦闘教育を行っているルバーブと申します。今日は我が国で行う交流試合の必要書類を持ってきました」
こんな時期に来るなんて、毎年行われているから選抜試験の時期も予想しての事でしょうね。
ウインドウォーター王国は、元国王である王妃様のお父様がいらっしゃった国ですからね。
それにより、今でもフォレストムーン王国とウインドウォーター王国は友好国とされているわ。
だから、その為の交流試合なのだけどね……だけど、私の前任の校長とウインドウォーター王国の校長はあまり仲は良くなかった。
前任者は一言も言ってなかったですし、私この話最近教えてもらったのよね。
しかも、厨房のおばさまから。
恐らく、前任者が口止めをしていたのだろうけれど……。
だって、
「あんた、それは前学長から言っちゃ駄目って言われていたでしょ!」
「カトレア校長先生、私が言ったことはご内密に……」
「だから、カトレア校長先生に言ったら駄目って言われていたでしょ!」
「あっ……」
と言うような厨房でのやり取りが有ったので間違いないわ。
と言うか、そのおばさま態と教えてくれたみたい。
だって、食堂管理長が
「私は、前校長から何も聞いていない。だから、言ってはならないと禁止されている事も何も無い! それに、この快適な環境にしてくれたのはカトレア校長先生よ。感謝以外、私達に隠すものは何も無いわ。そうでしょ? 貴女達!」
「「「「「はい」」」」」
と、そう言ってくれたのですもの。これも、リリーちゃんのお陰ね。
「初めまして、私は今年からフォレストムーン王国の冒険者学校で校長に就任させて頂いたカトレアと申します。ルバーブ先生、本日は遠方よりお越し頂き有り難うございます。本日はお疲れでしょうから、我が校でゆっくりしていって下さい」
「カトレア校長、有り難うございます。おおー! もしかして、戦闘訓練中ですかな?」
ルバーブ先生、わざとらしいわね。
「はい。よければ、そちらの席にどうぞ」
「有り難うございます」
私がルバーブ先生を腰掛けさせたと同時に、闘技場内の話し声が聞こえてきた。
「リリーちゃん、ブルメリア先に良いですか? 補助魔法も既に切れてしまっているので、片手戦斧が重くて……」
ブルメリアちゃんの片手戦斧、そんなにも重くなったのね?
確かに、90%も能力減少すると筋力だけでなく様々な事が低下するけれど……。
「うん、良いよ」
でも、あんな状態で技が発動出来るのかしら?
本当に90%も能力が減少したのなら、龍種でさえも弱くなってしまうわ。
その対象が、人で有るならなおさら……。
「では、行きます! 【アース クエイク!】」
ドガァ!
ブルメリアちゃんが地面に両手で片手戦斧を打ち下ろすと、さっきとは打って変わって地面に戦斧が突き刺さり少し地面が隆起しただけだった。
技は発動出来たようだけれど、こんなにも差が出るなんて……。
リリーちゃん、能力低下90%って減させすぎじゃない?
「ブルメリアの技が……」
まあ、そう思うわよね。
私も自身の思いが詰まった技が、あんなにも低下したら悲しくなるもの。
「ブルメリアちゃん、私が行きます。まだ、補助魔法の効果が有るので」
そうよね。ブルメリアちゃんには凄い補助魔法がかかっているわ。
でも……この状態で、どこまで低下させられているかが問題よ。
「うん……」
ブルメリアちゃんが、不安な声で返事したわ。
「リリーちゃん行くよ! 【コメット バスター!】」
一本の矢が十本に分裂したかと思うと、リリーちゃんに素手で全部捕まれた。
「アザレア……ショックです」
「アザレアちゃん、ブルメリアもそうだったので……」
「うん……」
あら、アザレアちゃんもなのね……あれだけの補助魔法かかってて結果がこれとは普通思わないわよね。
「スミレちゃん、本当はブルメリアちゃんと一緒に模範試合したかったのですが無理そうです」
「ブルメリアも……もう腕が、上がらないです」
「ありゃ。アザレアちゃん、ブルメリアちゃん、スミレと模範試合良いの?」
「「うん」」
アザレアちゃんと、ブルメリアちゃんの本当の実力を知らないくせに……ルバーブ先生の眼が笑っているわ。
「カトレア校長先生、あの女子生徒達交流試合に参加される方ですか? 片手戦斧の子の技は上達すれば凄そうですね。それに、弓の子はなかなかやりますね。十本の矢を一度に放つなんて少し驚きましたよ」
「明日の選抜試験で決まりますが、私としては、この二人を代表メンバーにしたいと思っています」
「そうですか。そうですか。将来有望ですな。ですが、矢を素手で掴むなんて芸当が出来る子はかなり驚きましたよ。防御特化の子でしょうね。あの子も将来有望ですな。はっはっはー」
何てむかつく教師かしら。張り倒してやりたいわ。
「おい、カトレア」
リカステが私の手を押さえてくれたけれど、本当にこいつむかつくわ。
「……くっ」
でも、次はどうかしら?
見ていなさいよ。きっとこのバカ教師、度肝を抜くわよ。
スミレちゃん、期待しているわよ。
この馬鹿教師をギャフンと言わせたら、なけなしのお金でキノットさんのレストランでご馳走してもいいわよ。
少しだけ、だけどね。もう既に、今月苦しいから……。
「リリーちゃん、スミレも剣技を放ってみるね」
「うん、良いよ」
「うん。じゃー、リリーちゃん行くよ?」
「スミレちゃん、本気でね」
「うん……」
スミレちゃんは双眸を瞑り呼吸を整えると、次の瞬間双眸を見開いたの。
そして、次の瞬間上段から振り下ろす剣と共に叫んだわ。
「【水龍花筏】」
ギュルゥ ギュルゥ ギュルゥ ギュルゥ ギュルゥ ギュルゥ!
ゴォォォォォォ!
【パーン!】
ザバーン……
体躯が三メートルあろうかという十体の水龍がリリーちゃんに狙いを定めると大口を開け襲いかかる。
それはまるで激流に乗るように自然とリリーちゃんの方に向かったかと思うと、リリーちゃんは両手を叩いてその水龍を全てを打ち消したわ。
打ち消された水龍は、まるで花弁のような形となり消えていったの。
それを見たルバーブ先生は、
「一体何だ? あの獣人の女の子達は……ま、まさか生徒では無いですよね? カトレア校長、もし生徒であるならば交流試合にあの二人は危険すぎる」
と言ってきた。
「ですが、既に我が校の代表選手ですよ?」
私は、直ぐさまルバーブ先生に抗議した。
「なっ……もし、あの二人が出ると言うなら試合に何てならない! なるはずが無い! 我が国で交流試合をする以上、私には責任がある。あの二人の、参加は絶対に認められない!」
「ですが、我が校の優秀な生徒ですから」
こんな男が、本当にウインドウォーター王国の教師なの?
「いや、あの二人が参加するというなら私の権限で交流試合は中止にする」
開催国の教師に、こんな権限がなぜあるの?
「そんな、身勝手な」
「戦闘訓練の様子を拝見させてもらうのは、もう結構だ。私は帰らせてもらう」
そう言って、ルバーブ先生は帰って行った。
こうなったら、あの馬鹿教師を私が殴って記憶を……
「カトレア、声に出ているぞ!」
「えっ? あっ……」
「カトレアちゃーん、私もー協力しようかー?」
「ロベリア嬢ちゃんも、止めとけ!」
私とロベリアちゃんは、二人してリカステに拳を押さえられた。
「カトレア先生、私とスミレちゃんは代表選手から辞退しますよ」
「うん、スミレもそれで良いよ」
しまった。闘技場の中に話しかけられる拡声器のスイッチを入れたままだったわ。
「リリーちゃん、スミレちゃん、良いの?」
「「はい」」
「リリーちゃん、スミレちゃん、本当にごめなさいね」
迂闊だった。
私がリリーちゃんとスミレちゃんの強さを、ウインドウォーター王国の教師に自慢したくて見せたのが仇となってしまった。
その日のうちに急遽教職員会議を開き、リリーちゃんとスミレちゃんの代わりをアザレアちゃんとブルメリアちゃんに頼む事となった。
この件について、まだキノットさんのホテルに滞在していたウインドウォーター王国のルバーブ先生に連絡を取ると
「それなら、良いでしょう。予定通り今から二週間後に交流試合を行う事とします」
と言って話は纏まった。
だけど、リリーちゃんとスミレちゃんには正式に謝る必要があるわ。
特に、第三王女であるスミレちゃんには誠心誠意謝ってから国王陛下にも話をする必要がある。
でも、国王陛下は明日学校に来るわ。
なので、先ずはリリーちゃんの自宅に住まわれているスミレちゃんから……。
色々と考えを巡らせていると、お腹が痛くなってきた。
「痛……」
「カトレア、俺も謝りについて行ってやる。だから心配するな」
そう言うリカステも、先ほどからトイレに通っている。
私と一緒で、重圧が凄いのでしょうね。
国王陛下へ謝罪は、明日……また、お腹が痛くなってきた。
「カトレア! 職員会議や、いけ好かないウインドウォーター王国の教師のせいで夜になったが、今からリリーちゃんの元に謝りに行くんだろ?」
「ええ。だけど、もう一度お手洗いに」
「わりい。俺もだ……」
そう言って私とリカステはリリーちゃんの自宅に行き、二人してリリーちゃんとスミレちゃんに謝りその後の記憶が無い。
そして、眼を覚ますとリリーちゃんの自宅の客室だったことに気がついたわ。
客室から外に出ると、リカステが
「ここは、どこだ? はっ! カトレア、ここは一体どこなんだ?」
そう言って、慌てていたわ。もしかして、リカステも?
私はリカステを連れて一階に降り、リリーちゃんに挨拶をして慌てて学校に向かったけれど……昨日の夜の記憶が無いの。
正確に言えば、リリーちゃんとスミレちゃんに謝った後の記憶が無いのよ。
だけど、今日は代表選手決定戦。
そんなことを、気にしている暇は無いわ。
私は自信にそう言い聞かせ、代表選手決定戦の用意に入った。
その後、リカステと一緒に国王陛下の元へ行き平謝りをしようとすると
「リリーちゃんから、聞いておる。そう身構えるな。リリーちゃんとスミレの代表選手撤回の件は、不問とする」
そう言われ、私とリカステは一気に力が抜け座り込んだ。
私とリカステは選抜試験の生徒達の説明をしなくてはならなかったので、終始お腹が痛かったけれど、国王陛下と王妃様は終始機嫌が良く、第二王女もリリーちゃんとスミレちゃんが試験内容を説明していたので、機嫌が良かった。
冒険者ギルドのギルドマスターであるフロックスも、ロベリアちゃんと一緒に観戦していたので、精神的な体調不良は私とリカステだけだった。
そして、最後まで勝ち進んだのはやはりルビナス君とエレモフィラ君とバレリアン君で、残り二枠はルビナス君が自ら辞退した事でエレモフィラ君とバレリアン君となった。
辞退理由を聞くと、明日から獣王国の要人と会合が有るので参加出来なくなったとの事だった。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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リリー「シルク、何しているの?」
シルク「私の能力を、二倍にする魔法を覚えようとしているの」
リリー「ふーん」
シルク「ハァー! ハッ! 今、魔力を高めているわ」
リリー「へー……でも、何で私が作ったデザートの前で?」
シルク「そんなの、決まっているじゃない。この魔法を完成させる為よ」
リリー「じゃー、お客様に出す分だから持っていくね」
シルク「リリー、待ちなさいよ! もう直ぐ、食欲二倍の魔法が完成するのに」
リリー「そんな魔法、完成しなくて良いから!」
斯くして、自宅の食料危機を未然に救ったリリーであった。




