冒険者学校の三人組
料理長達が大樽を沢山用意してくれたので、余分に数ホール分の濃厚チーズケーキと数十人分の蕩けるプリンを作成し皆で分けるように言って、城をカトレア先生とスミレちゃんと共に後にした。
城から冒険者学校へ向かう途中、カトレア先生が考える素振りを見せたかと思うと急に俺の顔を覗き込んだ。
「リリーちゃん?」
俺は一瞬、身構えた。なぜか?
それは、後ろから不意に抱きつかれるのとは訳が違うからだ。
前側からカトレア先生に抱きつかれると、どうしてもあれに押しつけられて息が出来なくなる。
「ひゃい?」
俺は先生の声音に、後ずさりする。
そして、声を震わせていると頭の中で警笛と共に緊急放送がながれる。
緊急放送! 本日○七時三○分、リリー前方地域一帯に特例非常事態宣言を指示。
繰り返します。本日○七時三○分、リリー前方地域一帯に特例非常事態宣言を指示。
二対の巨大物体が、移動を開始しました。以前、本所に対し進行中です。
目標を、レーダーにて捕捉しました。
此より、両手によるィヤィヤ攻撃を開始します。
「リリーちゃん? どうしたの? そんなに、嫌がらないで? アハッ! アン! イヤン! リリーちゃん、擽ったいわ!」
カトレア先生の、纏う雰囲気が変わった。
眼がギラギラと、獲物を狙う狩人の眼なのか?
目標は依然健在、現在も尚本所に侵攻中です。
ィヤィヤ攻撃では、足止めができません。
俺は、完全にロックオンされている? 不味いぞ。
出し惜しみは無しだ。総力戦に移行し、何としても目標を撃滅するのだ。
ィヤィヤ攻撃及び、顔によるフリフリ攻撃、更に足をバタバタ攻撃開始!
「ふにゃぁぁぁぁぁぁ!」
「アハッ! 可愛い。アン! イヤン! そんなに嫌がると……うふふ!」
そっ、そんな馬鹿な! 全て直撃したはずだ!
俺の切り札が……ばっ、化け物め!
「ひゃー」
以前から何度も味わってきた、カトレア先生のOPフィールドによる攻撃。
つまり、始まりの完全なる領域による攻撃だ。
「捕まえた。キャー! イヤン! リリーちゃん、凄く可愛いわ」
結果、前側から強く抱きしめられた俺。つまり、完全なる敗北だ。
「おーろーじーてー! おーろーじーてー!」
俺は、必死に藻掻く。意識がなくなる前に、スミレちゃんに伝えるのだ。
「カトレア先生! リリーちゃんを、離してあげてください。苦しがっていますよ」
「えっ?」
スミレちゃんの声で我に返ったカトレア先生に、俺は下に降ろしてもらえた。
やはり、俺が与えた縫いぐるみ人形が多少なりとも効果が有ったようで、お人形のように抱きしめられたままにはならなかった。
「もうー、そんなつもりじゃなかったのに! リリーちゃんが嫌がって、その行動があまりにも可愛すぎるからつい抱きしめちゃった」
カトレア先生が俺から離れると、俺は改めて最大限に身構えた。
第二のあれからの攻撃の備えたのだ。
カトレア先生が、俺の前まで迫って来る。
そして、二つの大きなあれが俺の眼前で跳ねると……
「さっきのお菓子、私初めて見たわ。今でも目を瞑ると、不思議な食感と濃厚な味わいが私を心酔させるの。あのお菓子、どこに売っているのかしら?」
どうやら、危険はなかったようだ。俺の取り越し苦労に終わって、本当に何よりだ。
いや、一度捕まえられたけれどね。まあ、それは良しとしましょう。
一瞬、間を置いて答えようとするとスミレちゃんが答える。
「カトレア先生、先ほどのお菓子はリリーちゃんのオリジナルですよ? ですので、どこにも売って無い筈です」
スミレちゃんの答えに、カトレア先生が驚きに表情を見せる。
「えっ! そうなの? リリーちゃん?」
ん? また、あれの攻撃が来るか?
いや、俺の姿をした縫いぐるみ人形を出したようだ。
「あっ、カトレア先生心配しないでください。キノット夫妻に今度教えますので、そのうちホテルでも食べられる様になる筈です」
俺が笑顔で答えた瞬間、カトレア先生の表情が暗くなった。
縫いぐるみ人形に力が入って、俺の姿をしている縫いぐるみ人形が変形している。
俺の容姿にそっくりな子が、苦しんでいるから止めてあげて……。
「リリーちゃん、はっきり言うわ。キノット夫妻の超高級ホテル料理の数々、私の安月給でそう易々と食べられると思っているの?」
カトレア先生は自身の発言で悲しくなり、俺の姿をした縫いぐるみ人形をギュッゥゥゥゥゥゥと力の限り抱いて撫でてブツブツ呟いている。
もし縫いぐるみ人形がなければ、あの縫いぐるみ人形のようになっていたのは俺だっただろう。
もはや抱きつくと言うより、ベアハッグ?
縫いぐるみ人形が、可愛そうに思えてきた。
「カトレア先生、人前で私そっくりの人形に抱きついて撫でて頬ずりして現実逃避するのは止めてください。恥ずかしいです」
「だって、リリーちゃんの縫いぐるみ人形可愛いですもの」
自身の能力で創りだした縫いぐるみ人形を、可愛いと言われるのは正直嬉しい。
しかし、大人として外で縫いぐるみ人形を愛でるのは自粛してほしい。
しかも、愛でかたが普通の女性のそれではなく、力強い冒険者の愛でかたなのだ。
そう勘考していると、冒険者学校に着いた。
「リリーちゃん、私は一度職員室に行ってから教室に行くのでスミレちゃんと二人で教室に行っててね」
「はい」
あっ! カトレア先生が、縫いぐるみ人形をアクセサリーに変化させた。
職員室に行くのに、縫いぐるみ人形を抱えて行くのは恥ずかしいのかな?
でも、散々冒険者をしているときに人形を抱いているのを目撃されているからあの二つ名が付いたんだよね?
俺がそう勘考していると、スミレちゃんが笑顔を向けてきた。
「リリーちゃん、Zクラスの教室に行きましょ」
「うん」
スミレちゃんに手を引かれ教室にいくと、ルビナス君とブルメリアちゃんがいた。
ブルメリアちゃんが、俺とスミレちゃんに気がつくと走ってきた。
「リリーちゃん、スミレちゃん、カトレア先生から聞いたよ。昨日は、ありがとう。ルビナス君も、ほら?」
ルビナス君が、少し恥ずかしそうにしている。
それにしても、ルビナス君とブルメリアちゃんはこんなにも仲が良いんだ。
「ああ……」
ルビナス君が、スミレちゃんの前で佇まいを正した。
「スミレちゃん、助かった。感謝する。この件の褒美は、東の大陸にある獣人王国から後日フォレストムーン王宛に届くだろう。そして、この度の件は獣人王国の扱いとして全て不問となった。しかし、未だに黒幕が不明であるため調査は続行させて頂く」
「うん、ルビナス君の調査団達に任せるよ」
「やはり、パープル……いや言い直そう。スミレちゃんは、俺様の事を知っていたんだな」
「だって、試験の時にルビナス君言っていたでしょ? 獣人国の王子、ルビナスだって?」
「確かに、エレモフィラ君が初めに名乗った事で俺様も勢いで言ってしまったか?」
ルビナス君がスミレちゃんの前で、ばつが悪そうに頭を掻いているとブルメリアちゃんがルビナス君の手を引いて俺の前に来た。
「ルビナス君、リリーちゃんにもお礼を言いたいのでしょ?」
ルビナス君の顔とケモミミが、朱色に染まった。
「ブルメリア、手を引っ張るな」
「ここでは、ブルミリアちゃんと言ってください。と、殿下にはお伝えしましたよね?」
あれ? ブルメリアちゃんが、ルビナス君の事を殿下って言った。
成る程ね、そういう事か。
ルビナス君とブルメリアちゃんの関係が、分かった気がする。
「ブルメリア……ちゃん、そう俺様を怖い眼で見るな」
「ルビナス君、分かれば良いのです。ブルメリアは、優しいのです。それに、早くリリーちゃんにもお礼を言わないと他の子達が来ちゃいますよ?」
「そうだな」
ルビナスくんは佇まいを正し、片膝をつくと俺の眼を真剣な目差しで見つめてきた。
あれ? スミレちゃんの時と、雰囲気が違う?
「天空より舞い降りた天使よ、助けて頂き感謝致します。もし宜しければ、麗しい少女のお姿になって頂けないだろうか? レストランで見た、空のように美しいメイドの衣装を身に纏った貴女のことが心から離れないのだ」
やっと真面に学校の授業が受けられると思って教室に来たら、いきなりルビナス君に告白された?
毎日のようにカフェバー&レストランで見かけて、視線が気になるけれど給仕が忙しくて笑顔だけ向けていたけれど、朝早く学校に来て早々に告白されるとは思わなかった。
ん? でも内容を聞いていると、告白じゃなくてただたんにメイド服好きなのかな?
でも昨日の件で身バレしているし、人違いですとは言えないし、中身はおっさんですとも言えないし、ルビナス君の鬣がモフフサしていて思わず触りたいけれど触れないし、どうしたらよいかと悩んでいると、エレモフィラ君とバレリアン君とアザレアちゃんが教室にやってきた。
エレモフィラ君は、その光景を見てはっとした顔になり
「ちょっと、待ったー!」
と言って、ルビナス君同様俺の前に跪く。
「俺も、ホテルのカフェバー&レストランで初めて見た時から心に決めていました」
エレモフィラ君のとった行動にバレリアン君まで手を上げて
「二人とも狡いぞ。少し年上の麗しの乙女から、僕の大好きな幼女にまでなれるリリーちゃんは僕の運命の人なんだ」
そう言ってルビナス君とエレモフィラ君同様俺の前に跪き手を出してきた。
まるで、前の世界で昔放送されていた告白番組の一場面のようだ。やっぱり、告白?
しかも、知られていないアザレアちゃんにまでバレリアン君が口走った事で、俺が小さくなったり大きくなったりできる事がバレてしまったようだ。
その様子を後方にある扉から、カトレア先生が微笑ましそうに眺めていたかと思うと、急に巨大モニターの前までスタスタとやってきた。
そして、
「はいはい、授業を始めるから皆席について。っとその前に、リリーちゃんの容姿について、多数決をします」
と言ってきた。
「多数決する前にカトレア先生、この状況を何とかしてほしいのですけれど」
俺、まだ三人組に手を差し伸べられているのですが……。
「投票するから、ルビナス君、エレモフィラ君、バレリアン君、リリーちゃん、さっさと席に着く」
カトレア先生、そうは言うけれど三人組が俺の後ろを離れずについて来るのです。
これは、どうしたらいいの?
俺が困っていると、スミレちゃんとアザレアちゃんとブルメリアちゃんが一つの席を囲む様に席に着いてくれたのが見えた。
俺が、その開いている真ん中の席に座ると三人組は渋々一つ隣の席に座った。
どうやらスミレちゃんが気を利かせて、先頭の席を三人の女の子で囲むようにトライアングル防壁としてアザレアちゃんとブルメリアちゃんに頼みこんだようだ。
俺は、スミレちゃん達に感謝して小首を傾けてお礼をした。
「では、多数決をしますのでモニターにある大と小のうちどちらかを選んでください」
そうカトレア先生が言うと、席にあるモニターに結果が出た。
「えー、では結果がでたので次に移ります。皆には掲示板で知らせた通り、約一ヶ月後に他国の冒険者学校との交流試合を執り行います。交流試合の代表メンバーは選抜試験にて決定すると言っていましたが、選抜試験の前にリリーちゃんとスミレちゃんが出ることは決定しました。ですので、残りの二枠を十二日後に執り行われる選抜試験で決めたいと思います。でもその前に、授業の内容の一部に変更がある事をお知らせ致します」
真面に授業を受けられていない俺達からすると、今更変更などと思っていると
「魔物の雑学と剣技は、従来通り私が行います。ですが、魔法に関しては全校生徒及び教職員は、リリー講師とスミレ副講師による特別授業を受ける事が決定致しました」
と、とんでもないことを言い出した。
「カトレア先生、私聞いていないのですが? スミレちゃんは、聞いてる?」
「そう言えば、お父様が言っていたかな?」
「スミレちゃん、早く言ってよぉ」
「リリーちゃん、ごめんね」
こうして俺とスミレちゃんはカトレア先生の授業を受けつつ、全校生徒と教職員に魔法を教えることになった。
因みに、俺とスミレちゃんの交流試合の代表入りは、どの教室の誰からも異議申し立てはなかった。
そりゃまあ、あれだけスミレちゃんが勇者の剣技や魔法を、屋上の闘技場で放って、それを俺が簡単に打ち消して見せてたら当前だよね。
屋上の闘技場は俺が改良を加えたことで、カトレア先生や教職員が今まで討伐してきた魔物を、校舎の複合鉱石魔法システム回路合金の中で常に魔力が回復する魔法システム回路で創り出し戦えるようにした。
地形や外観それに空気や臨場感さえも変更出来るので、洞窟内や森、川、丘など有りと有らゆる場所に変化し対応出来るのも魔法システム回路の良い点だ。
それにより、全校生徒だけでなく教職員さえも以前より遥かに強くなり教職員については冒険者ランクを一段階以上向上させた。
Aランクまでは冒険者ギルドの試験や功績で上げられるのだが、Sランク以上は国に対する功績などが必要だった。
リカステさんとカトレア先生は、氷獄の悪魔ドッペルゲンガーを倒したこと。
そして、王族であるスミレちゃんが王に証言したことにより、国に対する脅威を未然に防いだ事が認められSランク冒険者の資格を得た。
但し、スミレちゃんと俺はまだ学生であること、そして王命により学校を卒業するまでは、Eランク冒険者の資格で留まる事となった。
更に、俺とスミレちゃんはZクラスの皆を屋上の闘技場で鍛え上げることにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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スミレ「リリーちゃん、お母様の件だけれどいいかな?」
リリー「どうしたの?」
スミレ「実はね、私とお姉様が一緒になって魔法少女の衣装とケミミミ尻尾を
付けて、見せ合いしているとお母様が寂しそうにしてたの」
リリー 何となくスミレちゃんの言いたいことが分かるけれど、王妃のケモミミ
尻尾付き魔法少女の姿見たいのかな? 確かに、王妃様は三十代前半
にしては幼く見えるけれど……
リリー「スミレちゃん、考えておくね」
思考を巡らせたが、考えておくしか言えなかったリリーであった。




