西の大陸
この章には闇の部分が含まれますので、お好きではない方は次の章にお願いします。
因みに、リリー達は出てきませんが予告日時の最後でいつもの小話はございます。
宜しくお願い致します。
ここは、何処だ? 真っ白な、空間? 一体何が起こったんだ?
俺は……沢山の人を殺してしまった。
まさか、運んでいた物が爆弾だとは思わなかったんだ。
ある組織から依頼されたのは、この金を指定された所に持っていき、指定された車で指定された所に迎えという依頼だ。
そして指示通りの依頼を遂行した俺は、走行中の車の中から後方で爆発した住宅街を見た。
俺は危機感を感じ、その車の窓から飛び降りた。
次の瞬間、車が爆発した。俺はその場から、必死に逃げた。
そして、逃げている最中に胸に熱い何かが通り過ぎ、滴る赤い物が流れて咳き込むように口から赤い物が溢れだし……死んだ。
一瞬時が止まった様な感覚に襲われて、気がついた時にはここに……
光りと闇が暗転して時折点滅する、人のような形に見える何かが現れたと思うと、
「わ、わ、たたた、ししししししは、ゆゆゆ、勇しゃしゃしゃ、者、とととなななる者にけけけ啓じじじ示をあああああ与え与え与える者」
と意味不明な事を言ってきた。
「何だ? 何を言っている? バグっているのか? こいつは一体何者だ?」
しかし、この部屋にこの雰囲気。そして、俺が死んだ、記憶。
幼少の頃は見られなかったが、今はネットを通して自由にアニメや漫画、小説が見放題だ。
それに、スマホ一つあれば様々な情報が溢れている。
俺のような悪人にも、このような事が起こったのか?
……この現象はやはり、所謂異世界転生なのだろう。
俺は幼い頃に、両親を亡くした。
そして、親戚中を盥回しにされて結局俺は捨てられた。
だから、盗み、人を騙し、そうしている内にある組織に拾われた。
組織に拾われた俺は、生きるために必死に組織に貢献した。
そして、組織を抜ける為に最後の仕事を俺は引き受けた。
それが、この様だ。組織を抜ける事は、即ち死だったと言うわけだ。
そんな俺が、異世界転生で人生をやり直せるのなら……この世界を救ってみるのも悪くはない。
人生をリセットできるものなら、俺はリセットしたかった。
その人生が、死んだことでリセット出来たのなら尚更だ。
街角で流れていたテレビで見たヒーローに、俺は憧れていたが現実はクソの様なものだったからな。
「ここここここ、ににに、あるあるあるあるあるスススキルキルキルキルををを選べ」
神がバグっていようが、俺には関係ない。
このチャンスを物にして底辺人生だった俺は、この異世界で絶対に、成り上がり人生に変えてやるんだ。
その第一歩が、このスキル選択だ。
全属性耐性・聖剣技法・自動体力回復・鑑定技法・魔眼技法・魔法技法・魔獣調教師技法・聖人技法・勇者技法……どれも在り来たりのスキルだ。
しかも、レベルを上げないと使い物にはならないものばかりだ。
もっと、一つで凄い力が手に入るスキルは無いのか?
んっ? この、スキル? いや、スキルなのか? 他の物とは、全く違う。
――の因子? 前が読めない。バグっているのか?
しかし、これだけ他のスキルとは逸脱している。何故か?
それは、このスキルを選ぶと他のスキルが一切選べないからだ。
つまり、このスキルだけが特別という訳か……。
この世界で成り上がり人生を求めるなら、普通のスキルでは無理だ。
ならば、リスクを承知してこの不明な物を選ぶしか他は無い。
「異世界の神様なのか分からないが、俺はこれを選ぶよ」
「なななななな、らんらんらんらん。ぴーーーーーーーーーーーーーー」
何だ一体? 暗転した? 狂ったのか?
「そ・れ・を・じ・し・ん・の・む・ね・に・い・れ・ろ」
「あ? 俺の胸に入れろ? こんな物、入るのか?」
胸に近づけた瞬間、するりとそれは入っていった。
ドクン! ドクン! ドクン! グッ!
うっ……何だこの力は? 胸が、締め付けられる。
黒い靄が、双眸を覆っていく。至るとこに、激痛が走る。
息が、苦しい。細胞が遺伝子が……書き換えられているのか?
刹那――凄い、これが魔力なのか? 力が、溢れてくる。
苦しい思いをしたが、このスキルは絶対に当たりだ!
そう思った瞬間、俺は青い光りの点る魔法陣の中にいた。
ここは、どこだ?
「あー、あー、ばー」
話せない? 俺は、赤ん坊なのか?
小さな掌と小さな足。それに、羽と尻尾? 肌が、赤黒い?
両手両足の爪が、鋭い刃物のようになっている……俺は、人ではないのか?
転生して、魔物になったのか? そう言えば、魔物に転生する小説も数多くあったか。
人外の勇者……様々な悪に手を染めていた俺には打って付けか。
「勇者転生魔法陣に……。おい、衛兵今すぐに大司教様に知らせるんだ。早くしろ!」
白いローブを身に纏った男が、必死の形相で俺を見て叫んでいる。
ここは、魔物の国ではないのか? 嘘だろ? まさか、俺はこのまま殺されるのか?
「司教様、ですが……」
「ええーい! つべこべ言うな! 早くするんだ!」
動け、動け、動け! 俺の身体。
「だー、あいー、あー」
衛兵も俺のことを、凄い形相で見ている。
「はは、はい!」
くそっ! 衛兵が、走って行った。
不味いぞ。何とかしなくては。この羽で、俺は飛べないのか?
「あー、はいー、だー」
「……人外であるが、普通の赤子の様な声音で泣いている? 人外の勇者なのか?」
司祭の形相が、少し落ち着いてきたのか? 俺は、殺されないのか?
暫くすると、白と金細工の刺繍が入ったローブを纏った老人が現れた。
「なっ……何と言うことだ。神は我らに試練を与えるおつもりか? しかし、このような姿でも勇者であろう。来たる魔王との戦いに備えて、勇者を育てるのが我らの勤めである。この事は、大司教の名において口外禁止とする。衛兵よ、済まぬがそなたがその人外の勇者の赤子を布でくるみ神殿に連れてきてくれぬか?」
「はっ! 大司教様」
「して、司教よ? この件は、お前から王に直接知らせるのだ。私は大書庫に入り、過去にこのような事例が有ったのか今より閲する。けして、王以外には口外するな」
「承知しました」
※ ◇ ※
俺は、名を与えられないまま日々が過ぎていった。
しかし、
ドクン! ドクン! ドクン!
俺の鼓動と共に『頭の中に響く』声音?
『「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 人々を殺せ! 滅せよ! 滅せよ! 滅せよ! 滅せよ! 滅せよ! 滅せよ! 魔の物に逆らうものを滅せよ! 破壊せよ! 破壊せよ! 破壊せよ! 破壊せよ! 破壊せよ! 破壊せよ! 人の国を破壊せよ! 闇で覆え! 闇で覆え! 闇で覆え! 闇で覆え! 闇で覆え! 闇で覆え! 魔の物を従え、世界を闇で覆え!」』
この殺戮衝動や破壊衝動は、何だ? 勇者の、ものではない。
まさか、魔王? あのバグっていたスキルは、魔王の因子だったのか?
選択を、間違えたのか? 何て、ことを……。この衝動は、抑えられないのか?
俺は、何のためにこの世界に転生させられたんだ?
魔王を滅ぼすためじゃなかったのか?
全身が痛い。何だ? この痛さは尋常じゃない。
「ウグアー! グアー! グギャー! ハー、ハー、ハー。ゲボー、ウゲー」
気持ちが悪い。身体が熱い。眼前を、黒い靄が覆っていく。
「キャー!」
女の悲鳴? 一体、何が?
「どうした? 何事だ?」
「魔物が魔物が……人外の勇者様から」
「何? ギャー!」
部屋の外の兵士が、女性を置き去りに俺を見て逃げていった。
それより、気を緩めると破壊衝動に意識を持って行かれる。
身体の奥底から殺戮衝動が湧いてくる……
えっ? 俺は、自信の眼を疑った。
そこにあった物は、人外の赤黒い肌が半分に裂けた塊だった。
塊を見た俺の中に、怒りや憎悪が込み上げてくる。
ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ!
あの女性を、俺は殺したくない!
静まれ、静まれ、静まれ、静まれ、静まれ、静まれ!
俺の破壊衝動よ、静まってくれ!
あの女を、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!
止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ!
破壊しろ、破壊しろ、破壊しろ、破壊しろ、破壊しろ、破壊しろ!
落ち着け! 落ち着け! 俺の意識がある内に、あの女性を逃がすんだ!
もってくれ! 俺の意識!
「グアー、に……げろ。にげ……てくれ。た……のむ」
身体の奥底から湧き上がる破壊衝動にどうにか耐えながら俺は、日々自身の事を大切に育ててくれた育ての親である乳母に逃げるように伝える。
「えっ? 貴方、まさか? 人外の勇者様?」
「も……う……抑え……きれない。頼む……か……あ……さま」
「勇者様……キャー! なぜ自身の胸に刃を?」
「たの……む。にげ……て。に……げ……ろ!」
血の涙を流した俺の言葉を聞き届けてくれた乳母が、何度も振り返り涙を流し逃げていくのが見えた。
「こ……れで、俺……の身体が……魔……王へと……進……化し……ても……大……切……な人……を殺……さ……ずに……済む」
刹那、時が止まった。
【システム 勇者システムに、重大なバグが見つかりました】
「まさか、主様の情報を聞きつけて風獄に立ち寄ってこのような事になったとは……。やはり、時を止めただけではシステムは止まりませんか。ですが、私の能力ではこの大陸の修復を止めることは出来ません。主様でしたら、可能でしたのに……それより、隠れていないで出てきなさい」
「私のことですの?」
【システム バグを消去します…………失敗しました】
「貴女以外誰が、この時が止まった中で話せる者がいるとお思いですか?」
「私は、この出来損ないから魔王の因子を貰いに来ただけですの」
【システム 再起動します…………再起動を阻害されました】
「まさか、貴女が?」
「そんなことより、そろそろ時間切れではありませんこと?」
【システム バグを隔離します…………失敗しました】
「くっ……」
何? 急に雰囲気が変わった。……髪が、紫色から金色に変わった?
【システム 高度な隔離を実行し、バグの消去を試みます…………失敗しました】
「その者の魂を……お願いしますの」
また、髪の色が紫に変わった。
【システム データを残したまま、リカバリを試みてみます…………失敗しました】
「くっ……忌々しいですの。では、私はこのあたりでお暇致しますの」
「待ちなさい!」
【システム データを残したまま、高度なリカバリを試みてみます…………失敗しました】
「待てと言われて、待つお馬鹿はいませんの。では」
「待ちなさいと言っているでしょ?」
しまった。テレポートされた。
周りの空間が、保たれなくなってきたわ。
「不味いわ。勇者の成れの果ての魂だけでも……取った。えっ?」
急に光りに包まれ、暗転した。
【システム 中央システムと西大陸のシステムを分離します…………成功しました】
【システム 西大陸をリカバリします。全データを消去後、再修復に二年を要します】
【システム 全データの消去及び自動修復を開始致します!】
その日、世界から西の大陸が消失した。
最後までお読み頂き、本当に感謝しています。
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シルク「リリー、私達の出番なかったわよ? 一体どういう事?」
リリー「そんな時もあるよ」
シルク「美少女ヒロインを、何だと思っているのよ!」
リリー「どこぞの、大物女優みたいな言い方しない方が良いよ。シルクは、
清楚系の可愛いヒロインなのでしょ?」
シルク「リリー、貴女よく分かっているじゃない」
ちょろい系妖精の、シルクであった。
シルク「ちょっとそこの語り手。いちいち五月蠅わね」




