広がる噂
ミアの前で泣いてしまったあの日から数日が過ぎていた。
だからといって気持ちが整理されたわけではない。
教室で聞いた言葉は今も胸の奥に残っているし、目を閉じれば何度も思い出してしまう。
それでも日々は止まらない。
授業はあるし、課題もある。
私はいつも通りを装いながら学園生活を続けていた。
そんなある日の昼休みだった。
私はミアと一緒に中庭を歩いていた。
「あれ」
不意にミアが足を止める。
その視線を追った瞬間、私も立ち止まった。
少し離れた場所にエレノア様がいた。
風に揺れる黒髪。
そこに飾られた青い宝石の髪飾り。
手首には腕輪。
同じ青色の石が陽光を受けて輝いていた。
深く澄んだ色だった。
リオ様の瞳と同じ色。
胸の奥がざわつく。
もちろん偶然かもしれない。
そう考えようとした。
けれど、その考えは長く続かなかった。
エレノア様が私に気付いたのだ。
視線がぶつかる。
すると彼女は髪飾りにそっと触れ、ゆっくりと微笑んだ。
美しい笑顔だった。
***
その日の放課後。
廊下を歩いていると、前方から女子生徒達の声が聞こえてきた。
「やっぱりお似合いよね」
「私もそう思う」
「髪飾りもプレゼントなんでしょう?」
思わず足が止まる。
「エレノア様、すごく嬉しそうだったもの」
楽しそうな声だった。
ただ噂話をしているだけだ。
それでも胸が少しずつ重くなっていく。
私は気付かれないように足早にその場を通り過ぎた。
***
それから数日。
似たような話を何度も耳にすることになる。
食堂でも、中庭でも、廊下でも。
隣を歩いていたミアが不満そうに口を開く。
「なんか嫌」
「何が?」
「噂」
私は思わず彼女を見る。
「まだ本当か分からないじゃん」
ミアは眉を寄せた。
「誰かがわざと広げてるみたいで嫌」
不機嫌そうに言った。
「だっておかしいじゃない。
少し仲良くしてるだけで、こんなに一気に広がる?」
「それは……」
「誰かが話の種をまいてるみたい」
私もそう思いたかった。
ただの噂かもしれない。
思い込みかもしれない。
だから信じるべきじゃない。
そう自分に言い聞かせる。
けれど、
もし本当だったら、という不安だけは消えてくれなかった。
***
その夜、ベッドへ横になっても眠れなかった。
浮かぶのは同じ光景ばかりだった。
青い髪飾り。
青い腕輪。
エレノア様の笑顔。
学園中で囁かれる噂と重なり、何度も頭の中によみがえった。
好きな気持ちは消えてくれない。
諦めようとしても諦められない。
だから苦しかった。
私はそっと目を閉じる。
「違うといいのに……」
小さな呟きは誰にも届かない。
それでも私は願わずにはいられなかった。
あの噂が、ただの噂であってほしいと。




