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嫌な感覚だった

 リオン卿をふくむ一万の軍勢、王都よりロッククリークに進軍す。

 

 その報がもたらされ、緊迫の黒雲がロッククリークを覆いつくそうとしていた。

 

 軍の総大将がリオンというわけではない。性格的に彼は大軍を指揮統率するというタイプの武人ではないのだ。だが、リオンが出てくるというだけで、ロッククリークの兵たちは暗澹とした気持ちになるのである。一万の兵力自体もむろん軽視できるものではない。

 

 安心できる要素もあるにはある。ディアナは兵の供出を頼むため、すでにノースモアランドや各地の諸侯に急使を送っていた。ロッククリーク軍は援軍が来るまで籠城して持ちこたえればよい。籠城ならば、守る側が攻める側の半分以下の兵力でも対抗しうる。ディアナたちは着々と戦いの準備を進めていた。

 

 しかし、ディアナの脳裏には予感が生まれていた。それは、このまま通常の戦にはならないかもしれない、という奇妙な予感だった。

 

 

 一方、バルドルである。彼は特にやるべきことがなかったので、ドラゴシュの騎乗具をつくっていた。

 

 鞍は布の詰め物をなめし革で包んでつくった。鐙の部分には、乗り手の足をむすんで固定する革ひもがある。竜専用の首輪もつくり、それに手綱をとりつける。手綱と足の革ひもがあると、ドラゴシュが飛行中に激しい曲芸飛行をしても、バルドルがドラゴシュの背中から放り出されることがなくなるのだ。

 

 バルドルは騎乗具を完成させたあと、それをつけたドラゴシュに乗って飛行の練習をすることにした。

 

 バルドルは鞍にまたがり、手綱をにぎって、ドラゴシュを飛ばせた。空に向かってぐんぐんと上昇していく。やはり騎乗具があるだけでバルドルの体はだいぶ安定する。

 

 今回は戦いに備えての練習なので、ドラゴシュに少し激しい動きを求めた。全速力で飛ぶこと、急降下すること、複雑な曲芸飛行、ただひたすら旋回。

 

 それらをやっていくうちに、以前から感じていたものが確信に変わった。 

 

 ドラゴシュは並の竜ではない。

 

 飛行速度が尋常ではないうえに、急反転、急横転などの動きもなめらかにやってのける。まだ敵と直接的に戦った経験がないから、これは断定できないが、爪と鱗の硬化能力も高いはずだ。

 

 生まれて三ヶ月程度のわりに巨体で、ディアナをはじめて乗せたときと比べて一回り大きくなっていた。そして何より、希少価値の高い火吹きの種。バルドルの身びいきではなく、明らかに優れた竜なのである。

 

 乗り手、つまりバルドルとの相性に関して言えば、おおむねバルドルの求める通りに飛行してくれる。


(――これで、僕は竜騎士としてディアナのためにいつでも戦える)

 

 とバルドルは舞い上がった。だがすぐに、


(本当に戦えるのか? 兄や姉が戦地に行っているときですら、それに背を向けていたのに……)

 

 という自問のような感情が湧いてきた。


(ディアナ)

 

 彼女との関係は良好だ。あの祝宴以降、変な空気になったこともない。彼女もバルドルにばかり構ってはいられないが、毎日会う時間はつくってくれるし、食事も共にすることが多い。ただ、良好といっても、特別な関係に発展したわけではなかった。

 

 彼女と特別な関係になろうなんて期待したらいけない、とバルドルは自制してしまう。

 

 自分はラーザの王子で、彼女はブリタニアの王女。本来、相容れない存在。

 

 いつ、何の拍子で亀裂が生じるかわからない。彼女に踏み込みすぎてはいけない。バルドルは自分にそう言い聞かせようとしていた。


(期待するから、あとで苦しくなるんだろ)

 

 そう言い聞かせようとしているのに、バルドルの心にディアナのことが必要以上に浮かんでくる。その感情はバルドルをときに苛立たせるのだった。

 

 と、ふいに、バルドルの意思に関係なく、ドラゴシュが火を吐き出した。

 

 これに特に意味はない。空を駆けることができて竜が興奮しているにすぎない。


(やっぱりまだ完全にはドラゴシュを制御できてないか)

 

 などと思いながら、ドラゴシュの口から放たれる炎を見ていると――。

 

 後頭部に走る痛みとともにバルドルは奇妙な失調感を覚えた。


(炎――燃える森)

 

 目の前の現実が歪み、彼の脳裏を別の光景が支配する。


(森の中に僕がいる)

 

 以前見た夢の光景と一緒だった。バルドルは鎧を身にまとい、走っていた。

 

 すると――その森の上空から何者かがバルドルのほうへ急降下してきた。剣を手にしている。敵、だと思うが何者なのかはわからない。

 

 やがて、失調感と後頭部の痛みは引き、目の前の現実が戻ってきた。


(一体……どういうことなんだ)

 

 あんな燃えている森に行った記憶はない。だが、夢や幻視にしては生々しすぎた。

 

 嫌な感覚だった。正体が不分明なだけに、今の感覚はバルドルの心にいっそう不安感を与えた……。

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