4 さらなる禁忌
昼休憩に入った。
給食を終え、美邦はトレーを持ち上げる。
配膳台に返そうとした時、背後に控える幸子と顔を合わせた。今週は当番なので、食器が片付くのを待っているのだ。
振り返り、教室を見る。
どこかへと芳賀は既に消えていた。
食器を返し終える。
入り口では冬樹が待っていた。
「じゃ、行かぁか。」
「うん。」
給食の残り香のある廊下を進む。
――藤村君は何で引き下がらないんだろ。
LIИEでは作戦を立てていた。
嘘をついているならば、正面から突きつめられる。だが――そうでないならば。
――知らなくても生きて行ける。
他人の家にいる。
たとえ、故郷ではない都会で――施設での暮らしを選んでも同じだったのだろう。
それでも町を選んだ。
帰ってきて――見ないはずのものや、誰かになった夢も見るようになった。
職員室へ這入る。
教師しかいない空間はいつも緊張する。校舎の中にあって、ここは異界なのだ。
窓辺に、灰色の髪の教師がいた。
彼に近寄る。
先生と冬樹が声をかけた。
不思議そうに築島は顔を上げる。
「どうしたんです、二人とも?」
「いえ、少し質問があるんですが――。」
冬樹の視線が美邦を向く。
つられて美邦も周囲を見まわした。
すぐ近くに教員が何名もいる。その姿がだぶって見え、影として離れだした。
二人の態度から築島は察したようだ。
「ここでは、話しづらいことですか?」
「ええ。」
「では、場所を変えましょう。」
築島は立ち上がった。
その後ろ姿に従って職員室を出る。
渡り廊下を渡った。
背中は父と似ている。
だが、父とも啓とも違っていた。
鉄筋校舎に這入る。
喧騒が遠のいていった。
昼休憩、ここに人は全く来ない。
一階の片隅――第二図書室へ這入る。
そこは、図書室に収め切れない本を置く場所だ。三面が本棚であるほか、会議用テーブルとパイプ椅子しかない。人は来ず、生徒指導室として使われることもある。
築島は椅子を引き出して坐った。
美邦も冬樹も椅子を出す。
築島の対面に竝んだ。
「それで――何でしょう?」
話を切り出したのは冬樹だ。
「このあいだ、神社がなかったかって訊きましたよね? 伊吹にあったっていう。」
「ええ。お役に立てませんでしたが。」
二人の様子を交互に窺う。
作戦が成功するか不安で仕方がない。
「あの後、色々と僕も調べたんです。すると、平坂神社ってのが見つかりました。」
「平坂神社?」
「はい。ネットで検索をかけまくったんです。で、境内の画像が出ました。お尋ねしたいのは、その一つのことですが――」
折り畳まれた紙を懐から冬樹は取り出す。
開き、築島へ差し出した。
「これです。」
差し出された物を築島は受け取る。
それは、二葉の写真だった。
やや目を離しながら築島は紙を眺める。
少しして、凍り付いたように目を開いた。
「これは――」
一葉目の写真は本殿である。
二葉目は手前の玉垣だ。石柱に、築島の名前と寄進額・寄進年が彫られている。
「先生の名前が刻まれとりますね?」
血管の浮いた手に鳥肌が立った。
「先生、神社に寄進したでないですか?」
老眼鏡の位置が直される。
鳥肌の立つ手が震えた。
何かを恐れているようだ。だが何を。神社を隠していたことか――別の何かか。
落ち着いた声が返される。
「間違いありません。」
平坂神社に寄進しましたと築島は言った。
正直な告白に、美邦は目を瞬かせる。
「神社のこと、ご存じなんですか?」
築島は顔を上げた。
咄嗟に狼狽する。
「大原さん――って、まさかあの大原さんですか?」
本気で驚いているように見えた。
冬樹は眉をひそめる。
「――『あの』?」
凍りついたまま築島は動かなくなった。
その額が蒼ざめてゆく。
老眼鏡が何度も直された――正気を保とうとするかのように。
「平坂神社の宮司の名前が大原さんだったのです。十数年前、」
いや――と言い直された。
「二十、数年前です。その娘さん――大原夏美さんのクラスの担任が僕でした。」
「知ってるんですか? 母を。」
「ええ。そっくりです。教室にいた頃と。」
胸が疼く。
母のことはあまり覚えていない。
写真を見ても、自分と似ているとはあまり思わなかった。むしろ千秋の方が似ている。それでも同じ歳頃であれば、ひと目で判るほど似るのだろうか。
容赦なく冬樹は問う。
「平坂神社は倒産したんですよね?」
もし嘘をついているならば、「倒産」という言葉に乗る可能性が高い。
しかし反応は違った。
「倒産? 平坂神社が倒産する――」
言葉に詰まり、声を震わせる。
「――ような神社ではありません。」
美邦は察した。
本気で驚いている。
隠し事はしていない。
小刻みに震える手が、蒼白い額に触れた。
「変だな。こんなこと忘れるはずないのに。まだ健忘症は始まってないが――」
「神社のことずっと忘れとったですか?」
「はい。」
答えた刹那、築島は余裕を失う。
「本当です――。僕自身、自分に起きていることが信じられないくらいです。」
やや不憫に感じる。
実際、その可能性を美邦も予感していた。
みんな――と美邦は問う。
「町の人が、みんな忘れてるっていうことでしょうか?」
「分かりません。」
築島は首を横に振る。
「でも――平坂神社は町中から崇敬されていました。町民のほとんどが氏子だったのです。倒産する神社では決してありません。」
なおも訝しそうに冬樹は問う。
「御忌も宮座も十年前はあったですか?」
不思議そうな顔が向いた――懐かしい単語を耳にしたためだろう。
「よくご存知ですね。当然、ありました。町の何割かの人が宮座でした。僕も一応は本筋で、御忌明けには籤を引いていたのです。」
――本筋だった。
その言葉に美邦は期待する。
「築島先生も一年神主だったんですか?」
「いえ、当籤したことはありません。役員としても関わってませんでした。」
儀式には参加しなかったのだ。
それでも、資料の中にしか存在しなかった本筋の者を初めて確認した。
祭を支えるシステムが町にはあった。
今、跡形もなく消えている。
冬樹はさらに尋ねた。
「でも、どうして今はないんです?」
「なかったのです。」
咄嗟に、美邦は冬樹と目を合せる。
――なかった。
菅野と同じ言葉だ。
「十年ほど前――」
声が再び震える。
「大原夏美さんは結婚され、お子さんを授かられていました。神社を訪れたとき、二、三歳ほどの女の子を抱かれていたのを覚えています――美邦さんで間違いないでしょう。」
再び胸が疼く。
知らなくてもいいことはない。
知らなくても生きていけるのだとしても。
「それきりです。」
築島は声を震わせた。
「それきり――神社の記憶は絶えています。美邦さんが、こんなにも大きくなられていたことに驚いているくらいです。」
鳥肌を立てていた理由に気づく。
築島は最初、母を担任した年を十数年前と言い間違えた。――大原家と神社に関する記憶が、十年間も唐突にズレたのだ。
静けさの中、遠くから喧騒が聞こえる。
菅野の話を聴いた時から予感していた――町中の人が忘れているのではないかと。しかし信じられなかったのだ――そんなことは、普通は起こり得ないのだから。
ふと思い当たる。
――思いだそうと思えば、思いだせる?
遠慮するような視線が美邦に向いた。
「左眼は――どうされたんですか? 大原さんが小さい頃は、視覚障碍は抱えられていなかったと思うのですが。」
左眼へ手が向かう。
「物心つく前、視神経炎で失明してしまったんです。」
「――そうでしたか。」
神社を知り、母を知り、失明する前の自分を知る者がいる。
もっと大勢の人が知っていたはずだ。
しかし、その繋がりは失われてしまった。
なおも疑わしそうに冬樹は問う。
「十年前、大原糺さんが亡くなりましたね? 自然な死だったでしょうか?」
なぜ知っているのかという顔が現れた。
「いえ、かなり唐突な死でした――。長患いをされていたという話も聞きません。お年を召されても元気でした――少年時代は広島で被曝されたそうですが。」
美邦は顔を上げる。
「――原子爆弾で?」
「ええ。火傷の跡が手にありました。しかし、それ以外は何も――」
自分は広島とつながっていた。
いや、この国で生まれた以上、何かしらの身内が戦争を経験している。そのつながりも今まで絶えていた。
「そのあと、大原昭さんが宮司になって、大原夏美さんが火災で亡くなった?」
「間違いはありません。」
「夜が変になったり、不審死や失踪が多なったのもそんときからですか?」
築島は顔を上げた。
何かに気づいたように、鳥肌の立つ手を老眼鏡に当てる。
「――確かにそうです。」
「十一年前や十年前――変わったことありませんでしたか? 何か――神社が無くなってしまうような。宮司さんの死や神社での火災を除いて。」
回答に少し時間がかかった。
「変わったことと言えば、宮司さんや夏美さんの死ほど変わったことはありませんでした。それ以外では――少なくとも今は、思い当たることはありません。」
「そう――ですか。」
「逆にお尋ねしますが――お二人はどこまでご存じなんですか?」
冬樹と再び顔を合わせた。
それから、知りうる限りのことを述べる。
ほとんどは冬樹が説明し、補足するように美邦も口を開いていった。
やがて、なるほどと築島はうなづく。
「それで――不審死や失踪が神社と関係があると考えたのですね。」
二人は首を縦に振る。
気にかかっていたことを美邦は尋ねた。
「御忌の夜は――今の町の夜みたいな感じなんでしょうか?」
「いえ――」
否定したものの、少し考え込む。
「御忌の日は、外に出てはいけないという緊張感が張り詰めていました。でも、今の夜は寂しいですね。まるで真夜中の山道を、一人で歩いているような感じです。」
――今とは違う。
それでも、似ているのだろう。
冬樹が質問を続けた。
「十一年前の冬至――神社が消える直前――神送りは行なわれましたか?」
「行なわれていたはずです。神社のある限り、祭りは必ずありましたから。」
気づいたように顔が上げられた。
「まさか、神様が今も町にいる――送り返されていないと仰りたいのですか?」
「いえ――分かりませんけど。」
ただ――と言葉が区切られる。
「神社の記憶を町の人から消すことも、不審死も失踪も――人間の手で出来ることでありません。しかも、神社が消えてから始まった――人の手で出来んことが、ある時期から始まったんは事実です。」
漂著神の仕業と断言するのを冬樹は避けている。
言葉足らずかと思い美邦は付け加えた。
「夜になると、みんな出ませんよね? しかも窓も閉め切ってます――まるで何か居るみたいに。こんなこと、十年前はあったんでしょうか? 御忌の日以外で。」
ありませんでしたよと築島は言った。
「御忌の日以外は――夜でも安全に出歩けていました。今は、御忌そのものでなくても、御忌に近いです。何かが居ることを警戒してみんな夜を避けてますね。」
同意してうなづく。
やはり夜には何かが居るのだ。
「ですよね。でも、昼間は凄く寂しくて。」
まるで隠れてるようなと付け加えた。
「分かります。十年前は――昼間でも町には活気がありました。」
それに――と築島は続ける。
「神様のような気が僕はします――。というのは、平坂神社の神様は、生贄を求めると聞いたことがあるからです。実際、十年以上前にも、不審死や失踪がないこともありませんでした。」
冬樹は眉を狭める。
「それは、御忌の日に――?」
「いえ――御忌だけではありません。一年神主に選ばれた者か、その家族が、不審な死を迎えることがあったのです。」
――その家族が。
言葉を咀嚼し、記憶が馳せる。
――私がおらんやになったら。
一年神主に祟りがあるとは聞いていた。
だが、その家族に危害が及ぶというのは初耳だ。それなのに。
――夢で知っていた。
「ただ、そのようなことは『あまり』起きませんでした。でも、十数年ほど前にも、一年神主の家族のかたが亡くなられました。」
思うことがあるらしく、悲しく目が光る。
「それどころか、一年神主と関係のない人も生贄に取られると聞いたこともあります――ただし、偶発的に起きた不慮の死が、そう解釈されていたようですが。」
どう考えたらいいか分からない。
夢の中の自分は生贄だったのか。
祖父や父は何を祀っていたのだろう。
疑わしげに冬樹は尋ねる。
「不慮の死と生贄を区別する方法はありますか?」
「ありません。でも、一年神主とその家族に関することは――ずっと言い伝えられてきましたよ。」
言い伝えられるほどにはあったのだろう。
――あの夢を見た意味は。
冬樹はさらに尋ねる。
「十一年前、神送りは行なわれたんですよね? じゃ、十年前の春分――神社が消えた後で神迎えが行なわれたんでしょうか?」
「神社が消えた後に――ですか?」
「はい。もし、神様が今もおんなるなら――そうなるはずです。」
難しい表情が返された。
「そういうことは――なかったと思います。少なくとも、御忌に関する記憶は神社と共に途絶えています。神迎えや御忌は、町ぐるみの――しかも神社と一緒になった祭りでした。神社のない神迎え――という変なことがあれば、思い出しているはずです。」
疑わしそうな顔を冬樹は変えない。
「では、なぜ――?」
「分かりません――」
ふっと築島は考え込む。
「でも――宮司さんが亡くなったのは年明けでした。お正月の挨拶をした直後――いきなり。一か月後、夏美さんも亡くなりました。ひょっとしたら――冬至の日に何か問題があったのかもしれません。」
「問題が――?」
「ええ。神送りは秘儀でしたし、そこで何があっても誰も分からないでしょう。そうして、何かが原因で送り返されなかったという可能性も考えられますし――」
あるいは――と築島は考え込む。
「最初から送り返すことができないものが来てしまったか――。」
冬樹は首をかしげる。
「最初から――?」
「ええ。」
あくまで可能性として聴いてほしいのですが――と、難しい顔で念を押された。
「神迎えの時、何かが来ていたことは事実のようです。しかし、それが何なのか確認した人は誰もいないでしょう。」
バルコニーでの会話を思い出す。
――神か魔か。
送り返すことのできる存在が来るのが例年だった。しかし、もしも、送り返すことの出来ない存在が来てしまったのなら――。
「よろしければ――神社について僕も調べてきましょうか?」
「ええんですか?」
「僕も興味があります。手あたり次第知人に電話すれば何か判るかもしれません。」
それを聞いた直後、厭な予感を思い出す。
――居候なのに。
由香も菅野も死んでしまった。
詠歌が嫌味を言い、芳賀が怒ったのもある意味で当然だ。冬樹だけではない――築島も巻き込んでしまうのかもしれない。
――送るのはもう。
「でも、大丈夫なんでしょうか?」
二人の目が美邦を向く。
「築島先生にも何かあったら――」
「何か――とは。」
目を伏せる。
説明しづらい。
だが、今のうちに言わなければならない。
「神社について調べだしてから、もう二人が亡くなりました。由香もですし――郷土史家のかたも。先日も――その――藤村君も爪が剥がれて。」
「爪――ですか?」
先日の出来事を冬樹が説明しだす。
途中、綿紗に覆われた爪先も見せられた。
築島は眉をひそめる。
「これは酷いな。」
一方、冬樹の顔は明るい。
「でも、大原さんはやめたあないだら?」
「うん。」
うなづいた直後、迂闊さに気づく。
――何で、私は。
後悔が滲み出た。
たとえ冬樹自身に退く気がなくとも――調査に協力が必要でも。結果。
――由香と同じ死が。
心配そうに築島が声をかける。
「しかし、本当に大丈夫なんですか?」
さすがの冬樹も困り顔を見せた。
「分かりません。でも――僕は知りたいだけです。」
「何を?」
知らないことをですよと冬樹は答える。
「誰だって――この時代、この国に、この町に、望んで生まれてません。そもそも、生まれたぁて生まれたでもない。選択肢は最初から限られとります。」
――選択肢は。
少し共感する。
美邦自身――随分と悩んで町を選んだ。
それでも、結論は一つだったのかもしれない。母と暮らした町に来て、神社を探したかったのだ。そして。
異様な出来事が起きていると知って。
そして――。
「先生もご存じでしょう――父に起きたこと。父がおらんくなった時から、夜に連れてかれた気がしとりました。何でそう思うか――分かる気がするんです。」
「ふむ。」
「しかも――実相寺は何で亡くならないけんかったでしょう? 一年神主とも祭りとも何も関係ないのにです。それを知りたがることも――たぶん僕の性なんです。」
「その気持ちは分かりますよ。」
うなづくと共に老眼鏡のふちが光った。
「この学校に勤め、随分と長くなります。本来なら亡くなる年齢でないかたが、不遇の事故に巻き込まれたり、失踪したりするのを見るのは、本当につらいものがあります。」
由香のことを言っているのだろうか。
いや、由香だけではないのだろう。
繰り返されてきたことなのだ。
同じ光景は見たくないに違いない。
「藤村君――。君は民俗学に詳しいようですが、魔除けの方法はご存知ですか?」
「魔除け――ですか?」
「はい。もしも危なくなる可能性があるなら、対策を立てるべきだと思います。」
冬樹の顔が渋くなる。
「魔除け――。魔除けですか。」
ないこともないですがと頭をかきだした。
「例えば、紅い布はそうですね。――限りなくソトに近いウチが軒です。そこを、刃物や、臭いの強い物で遮って、魔除けにする例は全国にあります。ただ、」
どれだけ効果があるかと冬樹は言う。
「魔除けってったら――夜に爪を切らんとか、霊柩車の前で親指を隠すとかも立派な魔除けです。でも、爪を切らんでも親指を隠しても死ぬ時ゃ死にます。」
「それはそうですが――」
ふと、菅野の家のことを思い出す。
「菅野さんの家にも、たくさん紅い布が吊るされてた――。けれど、どれだけ戸締りしても『泥棒』が這入って来るって言ってた。しかも火事になったんじゃ――」
「ああ。――効果があったとは思えん。」
冬樹は大きく息を吸い込んだ。
「そういうお咒いの効果を確認した人はおらんわけで――。それでも、キーワードになるんはやっぱり境界かなとは思いますが。」
「キョウカイ――境ですか?」
「ええ。例えば、お米とか、お神酒とか、盛り塩とかで結界を作るとか――。あるいは、神社からお札を貰ってきて窓に貼るとか――。ちょっと今は思い当たらんので、調べてきてもええですか?」
もちろんですと築島はうなづいた。
「けれども――他の神社の加護をもらうのは、悪くないと思いますけどね。かつての平坂神社と同じように、神様を祀っているわけですから。」
じわっとした痛みを右耳の奥に感じる。
美邦は耳を押さえ、前かがみとなった。
スピーカーの雑音のような音が響く。
中耳から染み亘るような、刺すような痛みへと徐々に変わりだした。
――これは。
しかし、すぐに退いてしまう。
心配そうな声を冬樹がかけた。
「どうかした?」
「いや――ちょっと耳鳴りが。」
ふと、ドアの外へ目を遣る。
紙の擦れるような音がして、何かの動く姿が硝子に写った。
それに気づいたのは美邦だけではない。
他の二人も、ドアへと顔を向けていた。
振り返り、不可解そうに目を交わす。
築島は立ち上がり、ドアへ近寄った。
美邦と冬樹もそれに続く。
ドアを開け、廊下を見回した。
ひとけのない鉄筋校舎の廊下しかない。
「なんだったんだろうな――今のは。」
あとには、厭な感触だったなという言葉でも続きそうだった。
「まあ、いずれにしろ――」
ドアを閉め、築島は言う。「神社に何が起きたかはともかく、もし本当に神様がいるのなら、やることは一つのようですね。」
冬樹は首を傾げる。
「と――言いますと?」
「神送りを行なうのです。」




