1 削ぎ爪
十一月四日火曜日。
底冷えする未明のことだ。
冬樹は激痛で目を覚ました。
神経を抜く痛みが爪先に奔る。
悲鳴を上げベッドから落ちた。
床や本に激しく体を打つ。
だが、そんなことはもはや気にならない。右足を抱え、体を丸める。しばらくは何も考えられなかったし、涙も止まらなかった。
少し時が経ち、ドアが開く。
「どしたん――冬君?」
顔を上げる。
早苗が立っていた。冬樹の悲鳴を聞いて起きたのだろう――眠たげな顔をしている。
恐る恐る爪先へ目を遣る。
真っ暗で見えない。
「母さん――電気。電気点けて――」
早苗は首をかしげ、スイッチを入れる。
光が点り、爪先が露わとなった。
右足の親指から中指の先が紅い。
「爪――爪が無い!」
――危ないことに巻き込まれんで。
芳賀の言葉が脳裏に浮かんでいた。
冬樹の爪先を早苗は覗き込む。
「ああ、ないね。」
やはり悲鳴で起きたのだろう――良子が部屋を覗いた。
「なんだえ?」
「冬君の爪が剥がれたですって。」
「あぁそれかぁ。」
つまらなさそうに良子は去る。
二人の反応に違和感を覚えた。普段なら、もっと冬樹を心配する態度を取るはずだ。
「救急箱持ってくるに、待っとんない。」
眠たげに目を擦りつつ早苗は部屋を出た。
底なしの不安に突き落とされる。
身体の一部が無くなった事実が恐ろしい。けれどもそれ以上に、見捨てられたようなこの状況が理解できなかったのだ。




