6 自分のせい
濃い藍色の空に防災無線が響いた。
「こちらは、防災――です。――警察署から、行方不明者についてお知らせします。本日――ごろから平坂町伊吹――の実相寺由香さん十三歳が行方不明となっております。」
暗い階段を美邦は下る。
廊下の角を曲がったとき、縁側で煙草をふかす啓が目に入った。その横顔に目が留まる。やはり、体調を崩す前の父に似ていた。
単調な声が外で響き続ける。
「お心当たりのある方は――警察署までご連絡をお願いします。繰り替えします。こちらは、防災――」
障子戸に手をかける。
木枠に溜まった埃に気づいた。引っ越してきたときは、掃除が行き届いていたはずだ。最近、おろそかになっている。
――自分の家ではない。
居間へ這入る。
ちゃぶ台で千秋が宿題をしていた。
いつもつけられているテレビは暗い。
不安そうに顔が上がる。
「いま流れてきたの――中学校の人?」
「うん。」
ちゃぶ台に近寄り、腰を下ろす。
「同じクラスの子。今朝から――行方が分からなくなってるの。」
由香について説明する。
美邦の隣の席だと知り、驚くとともに悲しい顔をされた。それは、説明する美邦の顔が暗かったせいでもあろう。
硝子障子の向こうで啓が動いた。
消えるような声が聞こえる。
「可哀想になあ。実相寺さん家ぇもまた。」
そして、どこかへ去っていった。
また――何だろう。
――いや。
十年前から繰り返されているのだ。
この町は、美邦が安心して暮らしていた頃の町ではない。ここも自分の家ではない――安心できない。ならば、施設を選んだ方がよかっただろうか――それも違う。
ポーチ型の筆箱を見る。
シャープペンシルがこぼれていた。
そこに描かれている「だいふくねこ」のキャラクターは、由香のシャープペンシルにも描かれていたものだ。
「その由香さんって、神社のことを一緒に調べとる人だっけ?」
「うん。その一人だった。」
「何か分かったことあるん?」
ちらりと、台所へ目をやる。
詠歌と目が合った。
やはり美邦を見ている。
この叔母は――どこ出身なのだろう。
軽く首を横に振る。
「いや――なにも。」
不愉快そうな声が聞こえた。
「あんま変なことに首突っ込むでないよ。転校していきなり隣の子が――こがなことなるなんて。まるで変なことして消えたみたいだが。居候なのに責任とれるん?」
深く胸を締め付けられる。
――私のせいで。
なぜそう言うのだろう。
叔母は何か知っているのではないか。
*
その晩――はっきりと記憶することのできる夢を再び見た。
町の風景が細切れに現れては消える。
やがて、景色が固定された。
山の中の苔むした石段を昇っている。
町のどことも異なっていた。
冷えた空気が、静電気のように肌を撫でて骨の髄まで沁み込んでくる。
山が生きていた。
一つの生命体として意思を持っている。
手を引かれ、境内へ出た。
石畳を踏む。
奥の社殿で、空気が凝り固まっていた。
観音開きの扉が開いている。
中には、二畳ほどの土間があった。
社殿に這入った。
普段から受ける印象とは少し違う。
――昼間は、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ない⬛︎。
そう言うと、姉はうなづいた。
――うん。ほ⬜︎⬜︎な。
あまり怖くない――。
やはり、同じものを感じている。
他の人にはそれがない。
だから秘密にしなければならない。
そうでなければ。
――嘘つきだと思われてしまう。
*
翌日、小雨が再び降り出した。
教室に由香はいない。
空席のため窓がよく見える。一方、当たり続ける雫のせいで外は見えなかった。
今、どこにいるのだろう。
――いなくなったまま。
見つからないのだろうか――誰にも送られず、弔われず、過去の出来事の一つとして――ずっとそのままなのだろうか。
そうした人もいるのだろう、この町には。
顔を上げる。
当然、幸子は落ち込んでいた。
一方、先日より思い詰めたような顔を冬樹はしている。その様子が気になった。
表面上、教室に変化はない。
クラスメイトの全てが由香と関わっていたわけではない。関わりを持たない人たちにとって、ただの日常が続くばかりだ。
雨音にまぎれ、ささやき声が響く。
――来た。
――が。
声が小さすぎて、やはり聞き取れない。
――本当か。
――た。
二時間目は体育だ。
雨なのでバレーボールが行なわれる。
外からは、工事の音が聞こえ続けていた。
ボールを跳ねるクラスメイトを眺め、美邦は幸子と竝んで立つ。
いつもいる由香はいない。
気にかかって再び謝った。
「昨日はごめん――空気も読まず。」
幸子は首を横に振る。
「ええに。分かり切っとることだけえ。」
「そう。」
「それにな――由香が帰ってきたら知りたいと思う。好奇心旺盛な子だけえ。それまで、調べられることは調べてみやあや。」
少し前向きとなった。
「うん!」
「な? きっと由香は帰ってくるに。」




