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陶然とした女性の貌

そのように、アベルに監視されてはいたものの、当の(ばん)は、ブランクを取り戻すのが先とでも言うかのように狩りを行い、同時に、自身の縄張りの見回りを行った。


顔も体も傷だらけ。特に、両方の頬と、右の乳房の<パルディアの爪痕>と、ヒト蛇(ラミア)との戦いで失った右手(触角)の小指と薬指に当たる部分と左の乳房と、左肩から右脇腹にかけての恐ろしげな傷痕は、地球人が見たらそれこそ恐れおののくようなものだっただろう。


もっとも、野生の動物相手にそのようなものは<ハッタリ>にさえならないが。


ただ、この時、(ばん)自身の様子も、いつもとは違っていた。ヒト蛇(ラミア)との戦いのダメージがまだ尾を引いているというのではなく、顔が明らかに赤い。


しかも表情がいつもと違う。いつもはもっと殺気立ったそれのはずなのだが、この時はなぜか、


<陶然とした女性の(かお)


のような……


いや、実際にそうだったのだろう。(ばん)自身は雄であるものの人間のようにも見える部分が女性の形をしているだけに過ぎず、そして彼は今、


<発情>


していたのだ。


そしてそんな彼の前に、逞しい肉体を有した<男性>が……


いや、こちらも、


<人間のようにも見える部分が男性の形をしたヒト蜘蛛(アラクネ)


だった。しかも、人間のようにも見える部分の股間が隆々と屹立している。が、ややこしいことにこちらはヒト蜘蛛(アラクネ)としてはあくまで雌だった。


しかしこちらも明らかに発情している。そうだ。互いに発情状態の雄と雌が出会ったのである。


となれば、することは一つ。


<人間のようにも見える部分が女性の形をしている(ばん)>と、<人間のようにも見える部分が男性の形をしているヒト蜘蛛(アラクネ)の雌>は互いに背を向けてそのままの状態で近付き、それぞれの<交接器>を接触させ、<交尾>に至った。


改めて触れると、ヒト蜘蛛(アラクネ)の交尾は、雄が雌に精莢(せいきょう)と呼ばれる精子が納められた鞘を渡し、それを受け取った雌が受精を行う形で行われる。なので、人間のように時間を掛けた濃厚な接触は行われない。


精莢(せいきょう)の受け渡しが終わるとスイッチが切れるように発情状態は収まり、お互いに急いで距離を取る。でないと、共食いに至る可能性があるからだ。雄が雌に食われてしまうのは、出産に向けた栄養になるだけなのでそれでもかまわないかもしれないが、逆に雄がせっかく自分の精莢(せいきょう)を渡した雌を食ってしまうと、自身の子が残せなくなってしまう。


本能的にそれを避けるために、発情が終わると雄も雌も逃げるようにして離れていくのだろうとみられていたのだった。



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