油断ならない存在
結局、普通に動けるようになるまではさらに一週間を要した。
その間、これを好機と感じたらしいアサシン竜やアクシーズやパルディアに狙われたりもしたものの、それらはバドと二機のドーベルマンMPMらが、スタン弾を装填した自動小銃などで追い払ってくれた。さらに、蛮の縄張りを狙ってきた他のヒト蜘蛛も追い払っている。
ちなみにこの時に使われたスタン弾(非殺傷樹脂弾頭弾)は、薬莢内に封入された圧縮空気によって打ち出されるものであったので、いわゆる<銃声>もそれほど大きなものではなかった。
<直撃すればシャレにならないくらい痛いエアガン>
と言えばイメージできるだろうか。
蛮を守るためとはいえできるならなるべくアサシン竜やアクシーズやパルディアや他のヒト蜘蛛を傷付けないようにという配慮である。
けれど、ヒト蛇との戦いから二週間が経過すると、蛮はようやく地上へと降りてきた。そしていきなり、猪竜と対峙する。
さすがに二週間ものブランクがあると以前のような迫力は失われていたものの、何とか突撃してきた猪竜を退け、その肉をバリバリと貪った。落ちた体力を取り戻さなければいけないからだ。
こうして、ヒト蛇との戦いから一ヶ月。ようやく傷も完全にふさがり、体力もかなり戻り、蛮は以前の迫力をおおむね取り戻したのだった。
しかも、左肩から右脇腹に向けてできた傷痕は何とも言えない雰囲気を彼に与えていた。右手(触角)の小指と薬指に当たる部分と左の乳房を失ったことにより、元の<美女>を思わせる姿はもはや見る影もないものの、しかし<風格>という意味では決して見劣りするものではなかっただろう。
ただし同時に、加齢による<命の期限>は確実に迫っていた。そんな彼の姿を、じっと見ている者がいる。
アベルだった。さらに成長し、十代前半くらいの少年の姿になったアベルだ。その目は鋭く光り、何かを窺うように向けられている。実はアベルは、ずっと蛮の姿を見ていたのだ。見て、彼の戦い方を学び取っていた。
その手には、まるで剣のように尖った木の枝が。そして、アベルの背後から近付いてきたアサシン竜の目に切っ先を突き立て、一撃で仕留める。仕留めたアサシン竜を掴み寄せて、その体をバリバリと貪り始める。
愛らしい少年のようにも見えていたアベルの姿はすっかり影を潜め、自身の身体能力が不足している分を<武器>を使うことで補う、油断ならない存在に成長していたのだ。
道具は使えなかったはずのヒト蜘蛛にも、蛮、アベルと、続けて道具を使う者が出始めたと言えるのかもしれない。




