正視に堪えない有様
ヒト蛇の尻尾の一撃を受け、若いヒト蜘蛛の動きは確実に鈍っていた。しかも判断力も衰えたのか、手(触角)でヒト蛇の腕を掴もうとしてしまう。
瞬間、ここまでの戦いで表皮が破れて露出していたヒト蛇の鱗が若いヒト蜘蛛の皮膚をずたずたに切り裂き、肉を抉る。
「ギッ…!」
掌の肉がごっそりと抉られて、一部の指に至っては骨まで露出していた。正視に堪えない有様だ。
ヒト蛇を押さえるために組み付くことさえできず、若いヒト蜘蛛に明らかに焦りの色が見える。
この若いヒト蜘蛛の体には、あまり多くの傷は見えなかった。非常に高い才能に恵まれたことでこれまで大きな危機に陥ったことがなかったのかもしれない。絶体絶命の状態から起死回生の目を掴み取るために足掻いた経験がなかったのかもしれない。
今回がまさにそれとなる可能性もあっただろう。
生き延びられさえすればだが……
けれど、この若いヒト蜘蛛には、それをもたらしてくれる<運>がなかったようだ。<力>は十分だったが、今の時点でヒト蛇に出逢っていなければ、またはほんの少し何か運の巡り合わせが良ければ生き延びて、今回のことを経験として活かせたのかもしれないが……
残念ながら、それがなかったようである。
意図的に狙ったわけではないかもしれないにせよ、ヒト蛇は怯んだ若いヒト蜘蛛目掛けて杭を打ち出すかのように左の拳を繰り出し、彼の股間を叩き潰した。
グヂャッッツ!!
という嫌な音と共に彼の睾丸も陰茎も潰れ、まるで落雷にでも撃たれたかのような衝撃と痛みが脳へと突き抜けた。緻密に再現されてはいても使い道のないそれではあったが、人間と同じように神経は集中していたようだ。
「ッッッ!?」
声にならない声を上げて、若いヒト蜘蛛の意識が一瞬飛ぶ。
それが致命的だった。このヒト蛇相手に一瞬でも無防備になればそれは死を意味する。
動きを止めた彼の体を、ヒト蛇の胴が絡みつき、締め上げていく。
「ゲ…ボァ……ッ…!」
絞り出されるような音を喉から漏れさせ、若いヒト蜘蛛の体が歪んでいく。
ボギッ!
グギッ!
ボリボリボリッッ!
などと、嫌な音を立てながら。
こうしてまた一つ、命が潰えていく。おそらく才能に溢れた有望なそれだったであろう命が。
容赦ない<破壊者>によって。
そうだ。このヒト蛇は、この密林にとってはただの<破壊者>である。自然のサイクルなどまったくお構いなしにただただそこにあるものを破壊するだけの存在だ。
生命の円環からは完全に外れた存在なのである。




