勝算
若く活力に溢れたヒト蜘蛛の連続攻撃に、ヒト蛇の消化器官が裂け、食べたものの一部が体内に漏れ出ているのが、その透明な体ゆえに確認できてしまった。
これは、普通の生物であればそれこそ致命的なダメージであろう。にも拘らず、ヒト蛇はそれをものともせずに体を起こし、
「ゴアアアアーッッ!!」
と吠えた。まったく戦意に衰えは見えない。それどころかさらに激しく激高しているようだ。すさまじい憎悪を煮え滾らせ、自身を打ち据えた若いヒト蜘蛛を睨み付ける。
若いヒト蜘蛛の方も怯むことなく、
「ガアッッ!!」
と牙を剥く。この一合により自身の方が優位だと感じたのかもしれない。実際、あの三本の脚を同時に繰り出す蹴りは、ヒト蛇にさえダメージを与える威力があった。
なのにヒト蛇の方はそのダメージそのものを意に介していないようだ。そして若いヒト蜘蛛に襲い掛かる。
すると若いヒト蜘蛛の方は右に体を躱そうとした。
「!!」
ヒト蛇それに反応し、軌道を変える。が、それは若いヒト蜘蛛のフェイントだった。右へと動いた瞬間に左へと転じ、ヒト蛇の右側面に隙を見出して飛び、再びあの三本同時の蹴りを繰り出そうと。
だが、その瞬間、
「ガッッ!?」
若いヒト蜘蛛の人間のようにも見える部分が弾かれるようにのけぞって、肩口から脇腹に掛けて肉が抉られ、血が霧のように飛び散った。
ヒト蛇の尻尾だ。ヒト蛇がわざと自身の隙を晒して若いヒト蜘蛛を誘導、そこに尻尾の一撃を食らわせたのである、しかも、ただ叩き付けるのではなく、捩じり込むようにして。
これにより、尻尾にびっしりと並んだ刃物のような鱗が、若いヒト蜘蛛の肉を抉り取ったということだ。
しかも、ヒト蜘蛛にとっては<弱点>とも言える人間のようにも見える部分に強烈な一撃。
「ゴハッッ!!」
若いヒト蜘蛛が口からも血を吐き出した。どうやら肋骨の一部が粉砕され、<人間のようにも見える部分の肺にあたる臓器>が大きく傷付いたらしい。
これは大変なダメージだった。大量の出血が肺(にあたる臓器)に溜まり、呼吸を妨げる。自身の血で『溺れる』状態だった。
ただ、ヒト蜘蛛の呼吸器官はそこだけでなく、本体の側にもあるので、すぐに致命的なダメージとはならない。ならないが、確実にパフォーマンスには影響するだろう。
おそらく肺の片方は完全に潰れて機能を失っている。これは人間もそうであるように自然治癒はしない。傷は癒えても、肺の機能そのものは完全には戻らないのだ。
若いヒト蜘蛛の力は、確実に削がれたのだった。




