鱗
ヒト蛇は、腰の部分までは人間のそれのようにも見えていた。ヒト蜘蛛の<人間のようにも見える部分>と同じく。しかし、麻酔薬のアンプルの針がまったく刺さらないどころか、金属音を立てて弾かれたのだ。
これは、ヒト蛇の<人間のようにも見る部分>が、ヒト蜘蛛のそれとも違っていることを示していた。ヒト蜘蛛のそこは、構造そのものは人間とほぼ同じだったのだ。肉体的な強度も、普通の人間に比べれば頑健ではあったものの、それでも常識を大きく逸脱はしていない。人間にも鍛え方次第ではこのレベルに達するものも中にはいるだろう。
が、ヒト蛇のそれは、完全に常軌を逸していた。ドーベルマンMPMを制御するAIは、その原因をすぐに察知する。実は以前にも今回のヒト蛇と非常によく似た個体が出現した事例があり、その際にデータが採取されいたのである。
以前に現れたヒト蛇は、
<タングステンに匹敵する強度を持つ鱗>
を持ち、それによって身を守っていたのだ。ただし、前回の事例では、何度か他の猛獣との戦いによって傷付いたことをきっかけに発生したものだと推測されていたが、今回のそれは、明らかにすでに皮膚の下に鱗ないしそれに類するものが生じていることを物語っていた。
これはつまり、拳銃弾程度ではダメージを与えられないことも示している。
このため、現在のドーベルマンMPMの装備では、倒すことは事実上限りなく不可能に近いことも意味している。
ゆえに、ドーベルマンMPMは、自身の役目を<遅滞戦闘>へとシフトした。一体では対処のしようがないので、なるべくヒト蛇を自身に引き付けつつこの場に停滞させることで時間を稼ぎ、増援の到着を待つのである。
しかし、この時、最も高い戦闘力を有する機体が遠方に派遣されており、直ちにこちらに向かっても最低三時間はかかるのだという通信が入った。それ以前にもドーベルマンMPMらの増援は約七百二十秒で到着するとのことだが、果たしてそれまで持ち堪えられるかどうか……
とは言え、ロボットであるドーベルマンMPMは文句も言わなければ絶望もしない。己の全能力をもって命令の遂行を目指すのみである。
よって、木々を盾としヒト蛇の攻撃を凌ぎ、援軍の到着を待つ。
その姿は、それこそ紙一重で攻撃を凌ぎつつ、焦りも恐怖も感じさせなかった。ロボットなのだから焦ったり恐怖を覚えたりしないのは当たり前なのだが、見ている方がそういうものを感じてしまう光景であった。




