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まさに風前の灯火

ヒト蛇(ラミア)は、執拗にドーベルマンMPMを狙い続けた。他に動物が見当たらなかったこともあるとしても、明らかにドーベルマンMPMに対する執着が見える。


だが、ドーベルマンMPM側としても、この個体がそういう性質を持つことについては承知していた。時折、そういう個体が現れるのだ。この<透明な体を持つ個体>には。


この地ではもうそれ自体が<摂理>の一つなので、抗ったり嘆いたりしても何の意味もないことはすでに分かっている。だからそれを前提に、むしろそれを活かして淡々と対処するだけだ。ヒト蛇(ラミア)をこうして釘付けにしておくだけならむしろこの方が都合がよかった。


しかし、一体だけでそれをこなすのは、あまりにハードルが高いとも言えるだろう。


いくらロボットは疲れないと言っても、ヒト蛇(ラミア)の方も、生物としては明らかに異常なほどにタフだった。先ほどからおそらくほとんど手加減などせずに攻撃を続けているであろうに、動きが衰えない。


普通は有り得ないはずなのだ。だから、<普通の生物>とは異なる<道理>によって動いている可能性はある。精神論などではない<何か>によって。


とは言え、現状ではそれが何であるかは分かっていない。分かっていないが、生物としては異常でも、やはりロボットとは違うのも事実。無線給電網が完備されているここでは、ドーベルマンMPMはほぼ無限に動き続けることができる。機械とはいえ部品自体の物質的疲労は免れないにせよ、それとて生物の<疲労>とはわけが違う。


理論上はこのままヒト蛇(ラミア)とひきつけておくことも可能なはずだった。


なのに、<不確定要素>というものがこの世に存在することもまた事実であり、ヒト蛇(ラミア)の攻撃を躱すために地面を蹴ったドーベルマンMPMの足が滑った。滑り、予定していた加速が得られなかった。


このわずかな遅れが致命的だった。ヒト蛇(ラミア)の右手が、ドーベルマンMPMの<ヘルメットとゴーグルを着けた人間>を思わせるデザインの頭部をついに捉えたのである。


瞬間、ドーベルマンMPMの頭部がヒト蛇(ラミア)の手の内に残り、ボディとは離れ離れとなってしまった。


もっとも、ドーベルマンMPMの頭部には各種センサーと通信装置が内蔵されているだけで、動物のような<脳>があるわけじゃない。だから頭をもぎ取られても死にはしない。しないが、センサーの大部分が納められた頭部を失っては、それまで通りの動きはできなかった。


本体側にも備えられた予備のセンサーで対処しようとするものの、それではまったく話にならないのだ。


ドーベルマンMPMの命運も、まさに風前の灯火であった。



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