目に見えているのに届かない
体重約一トンものサイゾウについては、さすがに平らげることはできなかったようだ。なのにヒト蛇はサイゾウに襲い掛かった。それは、<食う>ことが目的ではなく、まさに<殺戮>そのものが目的であることを物語っているだろう。
そんなヒト蛇が、密林へと入っていく。
と、そこに、
「!?」
ヒト蛇が何かを発見し、さらに恐ろしい形相を見せた。その視線の先には、藪とは明らかに異なる影。ヘルメットとゴーグルを着けた人間のようにも見えつつも、シルエットは全く人間のそれではない。
ドーベルマンMPMだった。ドーベルマンMPMが、ヒト蛇の前に立ちはだかったのだ。数基のドローンを従えて。
蛮が毒ヘビに噛まれて意識を失っていた時にバドと共に彼を守った機体だった。それが今度は、ヒト蛇と向き合う。
が、ドーベルマンMPMは、ヒト蛇に発見された途端に、逃げるように動いた。するとヒト蛇も、それを追う。
しかし、蛮に追われても逃げおおせたバドと同じ性能を持つドーベルマンMPMだったが、同じようにあくまで脚で地面を歩き、しかも巨体ゆえに密林の中ではどうしても制約のある蛮よりも体が小さいことで動きやすかったゆえに逃げ切れたというのが事実であり、ヘビと同じ動きができるヒト蛇相手では、明らかに不利だった。
完全に移動速度で負けている。
あっという間に追いつかれたドーベルマンMPMに、ヒト蛇の手が伸びる。
けれど、捕らえられると見えた瞬間、横に動いて木の幹を盾にしてみせた。これにはさすがのヒト蛇も手が届かない。届かないものの、そんなことではヒト蛇は諦めなかった。木の幹を回り込み、さらにドーベルマンMPMを追う。その表情には、明らかな憎悪。<攻撃性>や<凶暴さ>ではない、ドーベルマンMPMそのものへの憎悪が張り付いていた。
ゆえに執拗にドーベルマンMPMを追う。とは言え、ドーベルマンMPMの方も実に器用に密林の中を動き、障害物を確実に利用して、
『目に見えているのに届かない』
という間合いを保ち続けた。しかも、密林の奥へと逃げ込むのではなく、あくまで河が見える位置を移動し続ける。
そして、逃げながら、自身の小物入れから何かを取り出し、銃らしきものにセットして、やはり木の幹を盾にしつつ回り込んで、ヒト蛇目掛けて放った。
それは、圧縮空気で撃ち出される<麻酔薬のアンプル>だった。ヒト蛇を麻酔薬で眠らせようとしたようだ。
なのに、確実にヒト蛇の肌を捉えたアンプルは、
チイン!
という固い音と共に弾かれてしまったのだった。




