千載一遇の好機
毒ヘビに噛まれ動くことができない蛮を、バドが守るように寄り添った。するとそこに、
「ルルルルルルル」
「ルルルルルルルルルルル」
と、これまでにも何度も聞こえてきた声。
ボクサー竜だ。あの<狡猾なボス>が率いるボクサー竜の群れが現れたのである。
蛮の様子が明らかにおかしく、動けないことを察したのか、<千載一遇の好機>とばかりに狙ってきたのだ。
バドは、これを警戒して待機していたということか。
しかし、これはさすがに<多勢に無勢>というものだろう。ドローンも配してはいるものの、ドローンに戦闘能力はない。精々、急接近して威嚇する程度である。
蛮が毒ヘビに噛まれてここまでですでに一時間ほど。血清の効果があるとしていつ現れるのか、現れたとしても蛮が動けるほどに回復するのか、それも分からない。
ゆえに、バドが蛮を守るだけだ。
「ギッ!」
声を上げながら近付こうとしたボクサー竜にドローンが急接近、頭に衝突する寸前で、ボクサー竜が後ろに飛び退いた。続けて、他のボクサー竜に対しても、同様の対処。
ボクサー竜としても、この、
<得体のしれない空飛ぶ生き物>
に対しては強い警戒を抱いていた。加えて、
「ギッ!」
「ギギッ!!」
蛮に襲い掛かろうとしたボクサー竜二頭を立て続けに、バドが打ちのめした。
実に素早い動きだった。さすがは蛮の全力の攻撃を凌ぎきることはある。
だが、バドは、ボクサー竜を殺してはいなかった。一頭は意識を失いその場に倒れたままだったが、もう一頭はすぐに意識を取り戻して立ち上がる。バドを警戒はしてるものの、引き下がる様子はない。
蛮を守るためなら、ためらわず殺すべきなのだろう。バドにそれをためらうような感性はない。人間ではないからだ。しかし、バドはあくまで<観察者>の立場にある。蛮を守るためとはいえど、他の生物を虐殺はしない。
そういう縛りがある。もちろん、もし死なせてしまったとしても罪に問われたりもしないしペナルティもないものの、だからと言って自身の役目を逸脱したりもしない。
自らの性能を最大限発揮して、ボクサー竜を『なるべく殺さず』に凌ぎきることが役目だった。
人間ならそんな無理難題に憤るかもしれないが、バドにはそれに憤る<感情>もない。
次々襲い掛かってくるボクサー竜を、ドローンと連携して対処するのみである。
精密作業用のため強度は人間のそれと大差ないマニピュレータを使って攻撃を逸らし、マニピュレータに比べれば頑強な前二本の脚で打ちのめす。非常時には後ろ二本の脚だけでも動けるドーベルマンMPMならではのフットワークと手数で、多数の相手に立ち向かったのだった。




