せっかく苦労して狩ったのに
こうしてインヴィを退けた蛮を見たボクサー竜は、チャンスは失われたものと悟ったか、すぐさま撤退した。これにより、今回は命を落とした者はいなかったようだ。インヴィの鎌に囚われた者も、彼女が蛮に意識を戻した際にかろうじて振り切って逃れている。
蛮も、逃げ去っていくボクサー竜をわざわざ追うこともなかった。
完全に姿が見えなくなったのを確かめてから、地面に横たわるインヴィの体を掴んで持ち上げ、それが透明なことに少し戸惑っているような様子を見せながらも、<肉の匂い>は間違いなくするので、首筋にぞぶりと喰らいついた。そこから透明な液がだらだらと滴る。血だった。透明ではあるものの間違いなく血の味と匂いがする。
そしてぶぢぶぢと噛み千切り、ぢゃぐぢゃぐと租借し、んぐりと飲み下した。
だが、そうやって四度ほど首に喰らいついたあと、難しい顔をしてインヴィの死体を放り出す。
三度目に喰らいついた時、固くて噛み千切れなくて、別のところに改めて喰らいついたがやはり噛み千切れなかったことで、諦めてしまったのだ。
首の部分は固くてもまだ噛み千切れたが、他の部分はもう蛮でさえ噛み千切れないほどに固かったのである。
こうなると興味も失せて、蛮は不機嫌そうな顔でその場を立ち去った。せっかく苦労して狩ったのに食べられる部分が少なくて腹が立ったのかもしれない。
なお、これら一連の出来事も、バドが少し離れたところから見ていた。
特に、<透明なマンティアン>が現れたことについては特記すべき事項として記録される。
今回のような<透明な個体>は、この世界においては重要な意味を持つのだ。
とは言え、インヴィは死に、<透明なクロコディア>は消息を絶ち、<透明なアサシン竜>も食われてしまったので、今回の件はこれにて終わりだが。
すると、木の上には、アベルの姿も。
下にまでは降りてこなかったものの、事の顛末を彼も目撃していたのである。
『こういうこともある』
というのを学んでいたのかもしれない。いや、ヒト蜘蛛の知能はそこまで高くないので、たまたまそこにいただけかもしれないか。
いずれにせよ、残されたインヴィの死体には、すでに鳥や小動物がたかり始めていた。蛮が諦めるくらいに固い部分すら、ネズミに似た小動物(チップ竜とはまた別種の)は鋭い歯でガリガリと齧り、食べていく。
さらには、蛮に喰いちぎられた断面から食い進める<トカゲに似た小動物>の姿も。小さいからこそ、体の中にまで入り込んで食うことができるということだ。




