命はただどこまでも命でしかない
こうしてインヴィは死に、蛮は生き延びた。
これ自体が<日常>の世界で。
<人間のようにも見える部分>は、造形そのものは<美女>なのだが、傷も増え、ますます凄みが増してきている。
『人でも殺してそうな』
というのは、人間の世界では割と使われることもある表現だろうが、蛮の場合は、<普通の人間>を殺したことは確かにないものの、命のやり取りはそれこそ毎日のことの上、普通の人間などそもそも彼にとってはただの<餌>でしかない。殺すことに何のためらいもない。
『人一人の命は地球よりも重い』
など、人間の世界でしか通用しない。と言うか、まず大前提として命に『重い』も『軽い』もない。命はただどこまでも命でしかない。人間が勝手に『重さというものがある』と考えているだけだ。
蛮の姿を見ているとそれを思い知らされる。その中で、レトのように巡りあわせによってたまたま生き延びる者もいるに過ぎない。
そんな彼の姿を、バドは、ただただ記録する。すると、
「……」
蛮が、バドに気付いて一瞥をくれた。そう、ただ一瞥をくれただけだった。もう興味も失せたのか、視界に捉えても気にもしない。
そして、バドはバドで、すっかり汚れてしまって、本当に小汚い<みすぼらしい獣>のようになっていた。
とは言え、記録をしなければならないので、一応、カメラのレンズなどは自身で磨いたりもする。それ用のクリーナーが装備されているのだ。
ただ、いつものようにクリーナーが入っている小物入れを開けると、残り少なくなっていた。なので、その情報を通信によって送る。
すると、日が暮れた頃、バドは自身と連携しているドローンと入れ替わるようにして、蛮の姿が確認できるところから離れ、移動を開始した。すでに闇に包まれた密林の中でも、昼間と全く変わらずに進む。実際、バドの各種センサーは、昼間と変わらずに周囲の詳細な情報を捉えている。
途中、バドに襲い掛かった者がいたが、それも華麗に躱して前進する。パルディアだったが、観察対象ではないので完全スルーだ。
こうして三十分ほどで開けた場所に出た。河岸だった。上空に赤い光と緑の光が点滅していて、ブーンという音。
バドら<ドーベルマンMPM>の装備の一つ、<フライトユニット>だ。二機が確認できる。その内の一機は、水面滑走用のフロートが装着されたものだった。
一機はそのまま直進し、フロートを装備した方が降下して河に着水。バドのいる場所まで滑走してきて、上陸。バドはそれにバックで近付いて、フライトユニットから伸ばされたマニピュレータに掴まれ、ドッキング。
そして河岸から離れて水面を滑走、離陸、いずこかへと飛び去って行ったのだった。




