透明なマンティアン
<透明なクロコディア>が去り、<透明なマンティアン>が去り、あれほど激しかった雷雨も去って残った<透明なアサシン竜>だったが、残念ながら動き出すことはなかった。鼓動も刻まれず呼吸もせず、ただの<透明な死体>であった。
すると、河から上がってくる者の姿が。クロコディアだった。先ほど河に入っていった<透明なクロコディア>とは違う、普通のクロコディアだ。それらは、河岸に倒れている<透明なアサシン竜>に気付くと、我先にと飛びかかった。透明ではあるものの、明らかに肉の匂いがするものが転がっているのだから、これを見逃す手もない。
クロコディアらは透明なアサシン竜の体を掴み渾身の力を込めて奪い合い、引きちぎり、貪った。それが透明であることなど、彼らには何の関係もなかったようだ。
そうしてわずか数分で、透明なアサシン竜はこの世から完全に姿を消したのである。
数人のクロコディアの小腹を満たして。
<透明なクロコディア>については、その後、消息は知れなくなった。死んだのか、それとも他の場所へと移動したのか、それも分からない。だが、そんなことを気にする者は、ここにはいない。
一方、<透明なマンティアン>の方は、森に潜んでいた。
マンティアンは、元々、アサシン竜に近い生態を持つ生き物だった。気配を消して森に潜み、気付かず近付いてきたものを捕えて食う。そういう生態である。
しかも、アサシン竜と同じく極めて高い隠密性を有していた。優れた個体であれば、姿が見えていても気付かれることがないほどなのだ。そう、視界には捉えているのに、認識できないのである。
そもそもそれほどの能力を持つのに加え、<透明なマンティアン>は、その体が透明であるがゆえに、一般的なマンティアンとは一線を画す存在となった。
元々高い隠密性が、さらに次元の違うものへと至っているのだ。
小鳥も、チップ竜も、容易く捕らえられ、透明なマンティアンに貪られた。
この透明なマンティアンについては、<インヴィ>と称することにしよう。
インヴィにとって密林は、それこそ<楽園>だったかもしれない。何しろ、ただ普通に潜んでいるだけで次々と獲物が手に入るのだ。
それは、こちら側の密林に住む生き物が、マンティアンという存在を知らなかったからだろう。マンティアンをよく知る生き物達は、その気配も知っている。匂いも知っている。だから警戒もする。しかし、本来ならマンティアンが存在しないはずのこちら側の生き物達には、その認識がないのである。




