完全に互角
完全にパルディアにロックオンされて、レトは、死を実感した。昨日からそれこそ立て続けで、頭がおかしくなりそうだった。
『どうして自分ばかりがこんな目に……!』
必ずしも明確な思考ではないものの、それに近いことも思ってしまう。
けれど、自暴自棄になることはない。生きることそのものを諦めたりもしない。この危機を逃れるために、生きるために、彼の体はなおも動く。
「ひいっ!!」
悲鳴を上げつつ、彼は逃げた。渾身の力で逃げた。それを、パルディアが追う。パルディアも、パパニアンほどではないが樹上生活者なので、木々を飛び移っての移動はお手の物だ。
パパニアンの方が得意とはいえ、今はもう闇に包まれた密林を素早く確実に移動するのは困難である。対してパルディアは、元々夜行性であり、暗闇でこそその真価を発揮する。夜であれば、ヒト蜘蛛にとっても危険な相手だろう。
だから、結果は明白だった。レトも必死に逃げるが、その差は確実に縮まっていく。
けれど、彼は諦めない。たとえ追いつかれたとしても、必死に抵抗するだろう。
自分の群れの中でのヒエラルキーは低くても、それは他の群れや他の種の中では関係ない。生きるための努力は誰もがするし、できるし、許されている。
レトは逃げた。とにかく逃げた。するとその彼の前に、大きな塊のような影が。
「っ!?」
夜目の効かない彼だったが、骨の髄まで染みついた感覚でそれが何かを悟る。
ヒト蜘蛛だ。しかもそれは、蛮だった。蛮が樹上で休んでいたのだ。
しかし、幸いなことに、この一瞬、蛮は深い眠りについていた。寝ていても身を守るためにあまり深い眠りにつくことはないものの、ほんの数分であれば、深い眠りにつくこともある。それがまさに今だったのだ。
だから、レトが蛮のすぐそばを通り抜けても、反応するのが遅れた。蛮の体を覆う細かい毛が何者かの接近を告げて眠りから覚めて体が反応するまでの時間が、僅かに多くかかったのだ。
これにより、レトは蛮のすぐそばを通り抜けることができた。が、レトを追いかけていたパルディアはそうはいかなかった。
「ガアッ!」
忌々し気に声を上げて、大きく迂回しようとするパルディアを、蛮は完全に捉えていた。眠りを邪魔されて怒っているというのもありそうだ。
「グアアッッ!!」
眠りを邪魔された腹いせに喰らってやろうと、蛮は猛然とパルディアに襲いかかる。
とは言え、ヒト蜘蛛も必ずしも夜は得意ではない。対してパルディアにとっては夜こそが天下。
そういう意味では、完全に互角なのであった。




