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実際に最期を迎えるまで

「ぎ……ぐ……」


仲間から逃げようとして枝を掴み損ねて転落したレトだったものの、辛うじて地上までは落ちなかった。一番下の太い枝の上に落ちて、したたかに脇腹を打ち、呼吸さえままならなくなる。


幸い、骨や内臓には損傷はなかったようだが、ダメージは決して小さくない。どうにかこうにか枝に掴まれているだけで、自由に体が動かない。


すると、空にわずかに残った光も届かない暗闇の中で、何かが光っていた。爛々と燃えるような双眸。獣の目だ。


あまり夜目の効かないパパニアンの目でも何とか捉えられたシルエットは、人間のようなそれをしていた。けれど、パパニアンではないことはすぐに察せられる。


かはあ、と開かれた大きな口を、ベロリと長い舌が舐める。明らかに捕食者(プレデター)の口だった。


それは、ヒョウ人間(パルディア)と呼ばれる獣だった。プロポーションは人間に近いものの、全身を覆う短い毛皮にヒョウを思わせる模様をまとった、大型のネコ科の獣を連想させるしなやかな体。


単体の力ではヒト蜘蛛(アラクネ)には及ばないものの、少なくとも油断していい相手ではない、夜の密林においてはそれこそ上位に位置する捕食者(プレデター)だった。


そんなパルディアが、パパニアンを狙って近付いていたのだ。夜闇にまぎれて。


そしてそこに、運悪く、レトが落ちてきてしまったのである。


結局これが、レトのような、群れのヒエラルキーにおいて最下位に位置する個体の<役目>だっただろう。自らが天敵に襲われることで、群れの仲間は生き延びるという。


「は……ひ……」


まだ十分に回復していない体を起こして、レトは何とか体勢を整える。逃げるために。生きるために。


パパニアンにおいては、母親のヒエラルキーがそのまま子にも反映される。ヒエラルキーの下位の雌から生まれた子には、自動的にレトのような役目が与えられるのだ。


だが、実は、それだけで完全に決まってしまうものでもない。力があれば早々に群れから巣立って他の群れに合流し、そこで成り上がることだって不可能ではない。必ずしも割合としては高くないが、そうやって他の群れのボスにまで収まった事例はある。


母親のヒエラルキーで子の立場も決まってしまうとはいえ、それはあくまでその群れの中だけの話。他の群れに行くと関係なくなるのだ。そうすれば力によって逆転することもできる。そういう道もある。


極めて細く険しい道ではあるが。


しかし残念ながら、レトにはそこまでの力はなかった。体も小さく力も弱く、飛び抜けて狡猾でもない。


そんな彼の最後はすでに決まっていたのかもしれない。


もっとも、それが決まっていたとしても、実際に最期を迎えるまで諦めたりはしないが。



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