生きていてこそ
内臓をぶちまけたまま立ち上がった巨大猪竜だったものの、さすがにこの時点で勝敗は決していた。決していたが、野生に生きる者は『潔く』などない。かつてのアクシーズと同じく、どれほど勝ち目がなかろうと、無様だろうと、最後まで生きることを諦めることはない。死ねばすべてが終わりであることを悟っているかのように。生きていてこそ意味があるのを知っているかのように。
それでも、限界はある。死は訪れる。再び蛮に蹴り飛ばされ地面を転がった猪竜はなおも起き上がろうともがく。それに対して蛮は容赦なく頭を何度も踏みつけ、とどめを刺した。
頑強な頭蓋は砕けなかったものの、目は飛び出し、皮膚は割け、頚骨は折れ、あらぬ方向に捻じ曲がり、そして遂にぐったりとなった。
蛮の勝利だ。後はゆっくりと食事に……とは、いかなかった。いつの間にか蛮の周囲を、ボクサー竜が取り囲んでいたのだ。
それは、最近、ボスが交代した群れだった。新しいボスは恐ろしく強く、凶暴で、そして頭がおかしかった。
普通なら、健全な状態のヒト蜘蛛を真っ向から襲ったりすることはまずない。体調が悪かったり疲れていて動きが鈍っている時を狙ったりはすることもあるものの、逆を言えばそうじゃない時に狙うことはないのだ。
なのにその<新しいボス>は、巨大猪竜と戦って疲れている可能性はあっても劇的に動きが鈍っているわけでもない蛮を狙ってきた。常識的に考えれば無謀にもほどがある。
が、その<新しいボス>に率いられた群れは、まるでボスの凶暴さに中てられたかのように、<普通>ではなかった。
「ルルルルルルルルルル」
「ルルルルルルルル」
「ルルルルルルルルルルルルルルルルル」
喉を鳴らしながら、じりじりと近付いてくる。そこに、恐れや惑いは見られない。確実に獲物を仕留めようという執念があるだけだ。
そして、数が多い。普通のボクサー竜の群れは、十頭から十数頭のはずだが、今、蛮を取り囲んでいるのは、少なく見積もっても二十頭以上いる。数が多いことで、もしかすると気が大きくなっているのかもしれない。
確かに、群れとしてのボクサー竜の連携は侮り難いものがある。群れの連携が完璧であれば、その攻撃力だけならヒト蜘蛛にも勝るとも劣らないだろう。その代わり、連携が崩れれば個々の力ではまったく敵わないので、あっという間に蹴散らされてしまう。ゆえに万全なヒト蜘蛛に挑むことはまずないのだ。
それを、数の力で押し切ろうというのだろうか。新しいこのボスは。
それがどうかは、今から分かる。




