失策
「グウウウゥゥゥッッ!!」
せっかく巨大猪竜を倒して餌にありつこうとしていたところを邪魔されて、蛮はひどく不機嫌だった。完全にボクサー竜をロックオンして、すべて叩き潰す気になっているのが分かる。
もっとも、ボクサー竜は木には登れないので、戦いを避けるだけなら樹上に逃れればいいだけだ。仕留めた猪竜を奪われることにはなるとしても、この数のボクサー竜を相手にすることを思えば、むしろこの場は譲り、猪竜を貪っている隙を狙って群れの中の何頭かを仕留めて喰らった方が実は合理的だとも言える。
が、この時の蛮にとっては、それでは気が収まらなかったようだ。
「ガアッッ!!」
覇気を叩きつけるように吼えると、彼を取り囲んでいたボクサー竜が一斉に飛び掛った。
それに対して、蛮の体が宙に浮き、人間のようにも見える部分の手足及び、クモのようにも見える本体の脚六本を同時に繰り出して、同時に襲い掛かってきたうちの八頭を弾き飛ばした。これにより、八頭のうちの六頭が即死。残る二頭も、即死こそ免れたものの地面に落ちて起き上がることすらできなくなった。
一般的なボクサー竜の群れであれば、この一合だけでほぼ壊滅に近い損耗が生じたと言える。十頭の群れなら八割が、十六頭の群れでも半数が失われたのだから。
しかもそれだけじゃなく、残るボクサー竜も、攻撃を躱されて着地したところを同じく着地した蛮に踏みつけられて、さらに二頭が死に、一頭がやはり戦闘不能となった。
これは、他のヒト蜘蛛には見られない攻撃方法だった。蛮だからこそのものと言えるだろう。
なのに、このボクサー竜の群れのボスも怯まない。十一頭もの仲間が無力化されても、時間差で第二波の攻撃を繰り出したのだ。蛮に次の攻撃に移る暇を与えないためだろう。実に狡猾だ。
だが、蛮の戦闘能力はさらにそれを上回っていた。着地したと同時にその場で猛然と体を回転させ、すべて弾き飛ばしたのだ。さらに一頭については人間のようにも見える部分の手で空中で捕らえ、首をへし折って見せる。
さすがにただ弾かれただけの者達は、すぐさま起き上がって体勢を整えようとするが、すでにこの群れの場合でも損耗約五十パーセント。しかもたった二回の一斉攻撃でそれなのだから、<波状攻撃>としても続かない。
蛮の能力が規格外すぎたのだ。他のヒト蜘蛛を狙うべきだった。そうすればきっと成功しただろう。
「ギイッ!!」
事ここに至って、ボクサー竜の群れのボスも自身の失策を悟ったか、一声上げて、残った仲間を連れて一目散に撤退した。蛮を狙ったのは失策だったとしても、全滅を回避するという意味では適切な判断だっただろう。




