必殺の一撃
蛮と、巨大猪竜は、互いに相手を喰らってやろうと対峙していた。二頭の間の空気がたわむのが目に見えるようだ。
そして、ガリッ!っと地面を掻き、猪竜の体がロケットのように飛び出した。蛮目掛けて猛然と奔る。すると蛮も、弾かれるように走り出した。二頭の距離は一瞬で縮まり、猪竜は頭を下げて、蛮の人間のようにも見える部分を突き上げるように頭を叩き付けるつもりなのが察せられた。
巨大猪竜の頭を覆う、まるで鉄の塊から削り出して作ったかのような分厚い鱗は、防御と攻撃用の武器を兼ねた、この猪竜最大の特徴なのだろう。
そんな猪竜に、蛮はまるで無策で突っ込んでいったかに見える。が、猪竜が蛮の人間のようにも見える部分の股間目掛けて頭を突き上げたものの、
「!?」
それは完全に空を切った。まったく手応えがなかった。全身の力を込めて全力で突き上げたにも関わらず空を切ったことで、猪竜の体が浮き上がり、くるりと半回転。頭から地面に叩きつけられた。
蛮が、空中高く飛び上がって躱したのだ。その高さ、約二メートル。約二百キロの体をその高さまで飛び上がらせる脅威の身体能力が改めて浮き彫りになる。
ひっくり返って地面に叩き付けられる格好になった猪竜も、すぐさま体を起こそうとするが、そこに、蛮の全力の蹴り。それも、人間のようにも見える部分のそれではなく、本体の丸太のような足での蹴りだった。着地と同時に駆け寄り、猪竜が体勢を整える前に食らわしたのである。
バドに襲い掛かった猪竜を何頭も文字通り蹴散らしてきた必殺の一撃である。
崩れた体勢のところに食らったことで、
「ギピッ!!」
と猪竜が声を上げて地面を転がったが、逆にその勢いを利用して立ち上がって見せた。蛮の全力の蹴りも、致命傷にはならなかった。体が大きいことで、その分、脂肪も分厚く、骨も頑強で、蹴りの威力が吸収されてしまったのかもしれない。
これは、今までなかったことだった。
同じヒト蜘蛛相手でも、全力の蹴りが確実に入れば、少なくないダメージを与えられた。これについては、肉体の構造の違いも影響しているのだろうか。
ヒト蜘蛛の体は、脊椎動物の内骨格と、昆虫の外骨格との、『いいとこ取り』をした優れた肉体をしているが、体重を抑えるためもあってか胴体内部に大きな空洞があったりして、見た目から受ける印象ほどは重量がなく、実は、衝撃を受け止めるにはやや不利な構造をしているとも言える可能性はあった。
いずれにせよ、猪竜が立ち上がったのは事実であり、結果、再び睨み合う形になったのだった。




