強敵
その日、蛮は、<強敵>と対峙していた。その彼の前には、
「フゴッ! フゴッ!!」
と激しい鼻息を立てる、まるでごつごつとした岩のような影。
猪竜だった。しかし、猪竜なのは確かなのだが、明らかにおかしい。
密林に暮らす猪竜の種は、いわゆる<ミニブタ>程度の大きさが普通だった。体重も精々五十キロ程度だ。なのに<それ>は、確かに猪竜の姿をしていながらも、サイズがまったく違っている。少なく見積もっても百キロは超えていそうな大きさなのだ。
実は、草原に暮らす猪竜の種は大型化する(もしくは逆に密林で暮らすようになったことで小型化した?)傾向にあり、百キロを超える個体も少なからずいるものの、密林に住む種でこの大きさは明らかに普通ではなかった。
草原に住む種が密林に住むようになったことで、より小回りが利き物陰に身を潜めるにも都合がいいように小型化していったのだとすれば、これは一種の<先祖返りした個体>ということかもしれない。
そして、物陰に身を潜めるには不利なこの巨体でここまで生き延びたということは、それだけ強いということなのだろう。襲い掛かる天敵を退けてこれるくらいには。
それもあってか、決しておとなしいわけではない猪竜の中にあっても、ひときわ凶暴そうな顔つきをしていた。
やや緑がかった肌。頭部と鼻先は、得意とする<突撃>の際の衝撃から守るためか、分厚い鱗が装甲のように皮膚を覆い、これがまた凶悪な面構えを一層凶悪に見せている。
明らかにただの<被捕食者>の顔付きではなかった。間違いなく捕食者のそれだった。
体重約二百キロの蛮をも喰らってやろうという気概がそこにはあった。
が、当然、蛮も喰われてやるつもりなどない。自分の前にこうしてわざわざ出てきたのだから、喰ってやらねばなるまいと、こちらも必殺の気概を全身に滾らせ、隙を窺っている。
両者の間に挟まれた空気が、メリメリと音を立てて軋むような錯覚さえ起こしそうだ。
そしてそんな光景を、バドは、少し離れたところから観察していた。その体に小さな虫がたかる。蛮と猪竜の様子に比べ、こちらは実にのんびりとした空気感だ。目の前の光景自体が、日常のそれだからなのだろう。今さら恐れるまでもないというところか。
しかし、蛮と猪竜は当然、互いの命を懸けて向かい合っているのであり、猪竜は、前足で地面をガリッ!ガリッ!と掻き、必殺の突撃を食らわせるタイミングを計っていた。
一方、蛮の方も、ヒト蜘蛛としての本体の方を小刻みに上下させて、やはり襲い掛かるタイミングを計っているのだった。




