非力だからこその習性
これがきっかけになったのか、その後、バドが猪竜に襲われる度に蛮が駆け付け猪竜を撃破。それを喰うということが多くなった。もしかしたら、バドを、
<獲物をおびき寄せる囮>
と捉えるようになったのかもしれない。それ自体は、バドとしても好都合だった。猪竜を撃退してくれる上に蛮の生態を観察するにもちょうどいい。
それは、ある意味では<共生関係>なのかもしれない。蛮がそのようなことを始めるというのも、実に興味深い話であった。
一方、バドは、蛮とは別のヒト蜘蛛の個体を確認していた。それは決して、蛮の縄張りを侵そうとする<侵略者>ではなかった。
いや、見方を変えると侵略者とも言えなくもないのだろうが、明らかに意図的なそれではない。少なくとも現時点では。
それは、
<ヒト蜘蛛の幼体>
だった。
おそらくヒト蜘蛛としては生後数ヶ月と言ったところだろうか。五歳くらいの人間の子供のようにも見える部分には可愛らしいものを鎮座させた雄と見られ、大きさは、バドよりも一回り小さい程度。その身軽さを活かして、基本的には樹上で生活する。
これは実は、
『ヒト蜘蛛の成体から身を守る』
ためでもある。ヒト蜘蛛は共食いをする種であり、それは、幼体であっても他のヒト蜘蛛から狙われることも指しているのだ。
体重は二百キロ前後になる成体のヒト蜘蛛も、いくつもの枝や幹に体重を分散させることで木に登ることもできるが、さすがに枝の細い木に登ることは難しい。条件さえ揃えば、以前、蛮がそうしたように樹上にまで顔を出せるくらいまで登れるものの、どこでもできるというわけでもない。
その点、体重は三十キロにも満たないこの時期の幼体なら、成体のヒト蜘蛛が登れないような場所にまで登ることができ、それによって身を守ることができた。
非力だからこその習性だろう。これにより、ボクサー竜や猪竜の襲撃からも身を守ることができる。たまにうっかり地上に下りたことで犠牲になる例はあるにしても。
とは言え、それはあくまでヒト蜘蛛の成体や他の強大な猛獣と比べればの話。小さくてもヒト蜘蛛は凶暴な猛獣である。人間のようにも見える部分も明らかに幼児の姿をしているが、木の枝に潜み、知らずに近付いてきた鳥などを目にもとまらぬ早業で捕えてみせ、そのままバリバリと貪り食う姿は、さすがと言えた。
バドは、地上からその様子を観察する。
ちなみに、バドも木に登ろうと思えば登れなくもないものの、ヒト蜘蛛の幼体ほどは上手く移動できない。そういう仕様になっていないからだ。元より、その必要もない。
バドを含むドーベルマンMPMはあくまで地上にて運用されることを目的に作られたロボットであり、樹上などについては、<ドローン>が担当することになっている。
実際、蛮の縄張りの中でも、数機のドローンが活動中であった。




