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アベル

バドは、そのヒト蜘蛛(アラクネ)の幼体に、


<アベル>


と仮の固有名詞をつけ、あくまで(ばん)の観察のついでではあるものの、記録を始めた。


アベルは、先にも触れたように、人間のようにも見える部分は、可愛らしいものを鎮座させた少年のそれであり、アベル自身も雄であった。人間のようにも見える部分が妙齢の女性の姿をしているが本体は雄である(ばん)とは違うものの、このこと自体は完全に<普通>であり、どちらかが異常というわけでもない。


人間のようにも見える部分と本体との<性別>が一致しない事例は、現時点では約四割。一致する事例の六割に比べてやや少ないが、これはヒト蜘蛛(アラクネ)自体の個体数が少ないことにより誤差が大きくなっているだけで、有意な差であるとは見られていなかった。


で、当のアベルはというと、完全に(ばん)の縄張りに入り込んでいて、


「ガアッ!!」


と、(ばん)に見付かるたびに脅されたり襲い掛かられたりするものの、幼くても野生に生きる者らしい抜け目なさで、(ばん)が登れないところに避難し、難を逃れていた。


ただ、樹上から何かの弾みで転落し、その際に怪我をするなどして素早く動けなくなり、ボクサー竜(ボクサー)や、猪竜(シシ)に襲われ命を落とす個体も少なくなかった。


なお、ヒト蜘蛛(アラクネ)は、卵の形で生を受けるが、成体の胴体部には大きな空洞があり、そこで孵化した後に雌の体外に出てくるという、一部のサメなどにも見られるいわゆる<卵胎生>であった。


が、その生は非常に過酷であり、母親の体内で孵化すると、先に孵化した者が、まだ孵化していない卵や孵化したばかりで十分に動けない兄弟姉妹を自身の栄養源として食べてしまうのが確認されている。これは、体内に子を抱えたままで死んだ雌の子が、母親の体の腐敗が進んでも生きていて、母親の胴が腐敗によって崩れたことにより脱出。その際に、食い荒らされた個体が体内に残されていたことをきっかけに判明、後に、光学処理された映像に、まさに兄弟姉妹を喰う子の姿が記録されていたことにより確定した。


また、ある程度育った子が母親の体内から出てくる際に、食い残された兄弟姉妹の死骸も一緒に出てくるのも記録されており、それは、幼い子供の惨殺死体にも見え、人間にとっては非常にショッキングな光景とも言えるだろう。


ゆえに、この世に生を受けた瞬間から、ヒト蜘蛛(アラクネ)は、<共食い>という苛烈な試練をも乗り越えないと生き延びられない宿命を背負っているのである。


だがそれは、最上位捕食者(プレデター)であるからこその宿命とも言えるのかもしれない。何しろ、巨体を維持するための大食漢でもあるヒト蜘蛛(アラクネ)は、数が増えすぎればたちまち密林内の動物を食い尽し、生態系のバランスを崩してしまうのだから。



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