第二十六話〜陣定〜
「主様、外記局の方からお知らせが参りました」
公卿による執政審議、通称陣定はこうして始まる。主催者たる上卿が帝の意を受けて開催日時を決め、外記に通達させるのである。大臣級には外記が直接、それ以外には召使──使用人の意ではなく、外記に連なる官職である──が通達する。上卿とは陣定を開催できる首座の人物で、左右内大臣や大中納言が相当する(後者の場合は臨時のため、特に「日上」と呼ぶ)。陣定の最中にあっては議長を務める。
大内裏の門をくぐり、向かう先は内裏だが、帝の御前に参上するのではなく紫宸殿東の宜陽殿、その西庇に留まる。本来ここは内裏に参上する公卿の待機場所だったのだが、この時代あたりから政務の審議にも用いられるようになった。儀式の際には近衛府の武官が整列するための陣座が置かれていることが、陣定の由来である。
陣座に上卿が参上し、私含めて皆が着座する。言い忘れていたが、実はこの審議は出席必須というわけではない。参議だけでは成り立たないが、最低でも中納言以上がいれば日上として議長役を務められるのである。故に上卿と書記担当(大弁を兼ねる参議、以降参議大弁)の2人だけによる陣定も存在するが、こちらは節会の参加者や開催日程の選定などに限られる。
因みに、本日の上卿は源雅信(右大臣)。還暦に程近い老貴族で、今後もかなりお世話になりそうな人物である。他の出席者は大納言が1人、中納言が2人、参議が私含めて4人(うち参議大弁が1人)の8人。出席率は約半分かそこら。
「皆様、集まりましたな。では、議題をお伝えします」
議題の文書が蔵人を通じて下され、諸卿が回覧する。次いで参議大弁がそれを読み上げ、意見発出が開始される。
「ではまず、参議の方から。何かありますかな?」
「ええと、そうですね。まずは……」
慣習として、意見提示は下の者から行われる。従来は上位者からの発言だったが、下位の萎縮や忖度が絶えなかったために入れ替えられたのである。あくまでも公平に審議しようとする姿勢が窺えよう。
発言した内容は逐一参議大弁が書き留め、意見が纏まればそれを糾合した形で記す。採用されなかった意見は書かれないわけではなく、全ての意見を列記した上で帝や摂関の判断を仰ぐのである。陣定とは審議機関であって、決定機関ではないのだ。書かれた意見はその都度読み上げて確認するため、改竄が行われる恐れもない。
「……全て出揃ったようですな。残念ながら意見は纏まりませんでしたが、このまま奏聞致します。宜しいですかな?」
参議大弁は書き上がったものを上卿に進上し、上卿は蔵人を通じて帝に奏聞する。今回は文書を作成したが、軽事と判断される事柄に関しては、文書は作られずに口頭で奏聞される。
こうして上がってきた意見を帝が──この時期は関白の頼忠様が──裁定し、政治が動くのである。陣定で出た意見が採用されることもあるし、されないこともある。最終的に帝が為政者である以上、陣定の開催と最終判断は天皇大権なのである。
美「旦那様、政治なんて出来るのですか?」
義「無理」
美「ですよね」




