第9話 不確かな一歩②
町を出てから数時間だろうか。
多かった人の往来も少なくなり、舗装されていた道も岩肌がむき出しなでこぼこ道へと変わっていく。
「スリップダメージがあるかもしれないから慎重に行くか。」
出てくる前は一人旅にはしゃぐ気持ちもあったが、こうも人の営みが感じられない殺風景な場所に取り残されていると多少なりとも不安を煽られる。
「日が落ち始める前にはキャンプ地が見えているようにしたいな。」
暗視スキルがあるため日没でも夜目が効くし、不意打ちを受けることも無いのだが、今の時点ではまず真魔との遭遇はしたくない。
―――ガコンっ!
「っ!?」
思った側から明らかに人工的な音が近くで鳴る。
まさかこんなところで敵か?ここだと、斜面が入り組んでいてまともに逃げきれないぞ。
「あれは・・、金属の鎧?騎士か?」
ゆっくりと立ち上がったそれは、見た目こそ騎士ではあったが、鎧の周りをゆらゆらと不気味なオーラのようなものを纏っていた。
まだ完全にはこちらに気づいてはいないようで、片手に持っている剣で周囲をつつき索敵をしているようだった。
「・・・ちょっとっ、・・ちょっとっ!」
聞きなれない声がすぐ近くからする。
「こっちっスよ。こっちっ」
近くの枯草の茂みから呼びかけているようだった、俺は不気味な騎士に見つからないよう身を低くしながら茂みに近づく。
すると、枯草と似たような色のマントで全身を包んだ小柄な少女が茂みの中に隠れていた。
「あんたこの辺初めてっスか?」
「ん?あぁさっき初めて町を出たからな。」
そう言うと少女はよりにもよってという反応を示しながら、小声で続けた。
「いいっスか?街道から外れたこの辺の岩場は【騎士の墓場】って言われてるっス。
ここで死んだ王国騎士の魂が変異して、この辺をうろつくようになったんで普通の人は近寄らない場所なんス。」
「変異ってことは、あいつ真魔なのか?真魔って奇貨スキルを不用意に習得したり維持できなくなった代償でなるんじゃないのか?」
「基本的にはその理解で合ってるっス、でも世の中には奇貨スキルを使いこなせる人も居るっス。」
そういえばガウスがゴブリン級と戦うとき元の資質がとか言ってたな。資質が高ければその分、奇貨スキルの扱いも変わってくるってことか。
「王国騎士は基本生まれの良い人たちが多いんで、奇貨スキルにもある程度の範囲で対応できる資質持ちが多いっス。」
「なるほどな。でもそれが何でこんなところで命を落として真魔になるなんてことになるんだ?」
すると少女ははぁぁっとため息をつき答える。
「隠れてここを決闘場にして、奇貨スキル同士の決闘で賭け事をしてたんスよ。
王国騎士は規則が厳しいんで、奇貨スキルを持ってても使用許可が無いと使えないっス。モノによっては習得禁止とかもあるっスね。」
まぁそうか、下手したら人間でいられなくなるスキルなんて国を守る騎士が持つのはかえって危ないもんな。特にあの将軍ならその辺は厳しく管理するだろう。
「それであの騎士っスけど、当然所持してた奇貨スキルをちゃんと処理しないまま死んだんで、肉体は死んでもスキルは生きたままになってあの状態って事っす。」
容れ物である肉体が死んだから、内部のスキルが抑えが効かなくなったってことか。
そうするともしかして俺の真魔スキルも俺が簡単に死ねばそうなるのか?
俺、今死んだらゴブリンかぁ、などと考えていると少女がある提案をしてくる。
「そんでここからが相談なんスけど、あいつ一緒に仕留めないっスか?」
「あぁ悪い、無理。」
即答した。無理なものは無理だ。俺は毒草駆除に行くのだ。戦闘は想定していないから、武具の更新だとかもやっていない。
「ちょっ!?断るの早くないスかぁ!?せっかく色々教えたっスのに!!」
少女は騎士がまだ俺たちを探していることを忘れたかのように、強く詰め寄ってくる。
「いや、これには事情があってだな、俺HPが1しかないから正面きって戦えないんだよ。
ましてや話聞く限りあれはそこそこ資質とやらを持ってる真魔だろ?そんなん無理無理。」
少女はジトっとした目つきで失望をあらわにした。
「あんたなんでそんなんで冒険者やってるっスか?バカなんスか?」
王国きっての大将軍に啖呵をきったからって言ったら、もっとなんか言われるんだろうな。
「おとなしく立ち去るのが吉だろ。」
「いいや、ここには騎士たちがため込んだお金がいっぱい隠されてるっス。あいつがまだ居るってことは手つかずなんスよ。
盗賊としてこれは見逃せないっス。分け前はちゃんと分配するっスから、やるっス。」
この娘は盗賊だったのか。ということは少なくとも冒険者ランクDはあるんだな。
だがまぁお金に関しては正直欲しい。毒草積みに3日4日かけたって遠征資金としてかかった支出を考えると利益はほとんどない。
「攻略の糸口はあるのか?」
「ほんとはあんたに前衛してもらって、自分が背後から弱点攻撃をするつもりだったっス。でもあんたはHPないから、逆のフォーメーションでいくっす。」
「おまえ盗賊だろ?防御スキルとかあるのか?」
「防御は必要ないっス。速さはこっちのが上なんで、引き付けて躱せば余裕っス。そういうあんたこそ、攻撃くらいは出来るっすよね?」
「今んとこ3回が限度だが打てるスキルはある。」
「OKっス。そういえばまだ名乗ってなかったっスね。自分はルカって言うっス」
「俺はミコトだ。そんじゃ早速作戦開始だな。」
そう言って俺たちはそれぞれ真魔の騎士を取り囲むように大岩の陰から回り込むように近づいていった。
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