第8話 不確かな一歩①
ー異世界で初めての朝を迎える。
俺はゴブリン討伐で顔見知りになった冒険者からの紹介で、比較的安価な宿を紹介してもらった。
どうやらガウスがゴブリンスミス討伐分の賞金を俺に回してくれていたようで、1月分くらいはどうにかやりくりできそうな資金が出来ていた。
「改めて後でガウスには礼を言わないとな。とはいえ冒険者で生計を立てるにも、俺一人じゃ無理なんだよなぁ。」
なんやかんやでスキルを手に入れレベリングも出来たとは言え、今の俺は「人の姿をしたゴブリン級」みたいなもんだ。
「朝もうっかりスキルで死にかけたしな。」
状態異常対策で何気なくとった【悪食】スキル、代償として聖属性のものを摂食するとダメージになる。
そんなもん滅多に口にしないだろうと思ったのが間違いだった。
朝食に出てきた水なんだが、この世界での浄水に用いられる技術は聖属性スキルによる浄化によって飲み水にされているらしい。
おかげで口を付けようとした瞬間、緊急メッセージで【これを飲むと死亡しますがよろしいですか?】なんて出てきた。
「ただでさえHP縛りあるのに、転生2日目にしてまともな水も飲めない体とは・・・。どこで野垂れ死んでもと言った俺の意気込みを返してくれ。」
物は試しにその辺の泥水をすすったら、問題なくのどを潤せた。ただ・・、その・・、周りからはものすごく哀れな目で見られたけど。
「何はともあれ、冒険者ギルドに行くか。ある程度の情報収集からだとどうにかソロでもできそうな依頼もあるみたいだしな。」
当然だが、適正レベルは一回りも下の依頼を受けに行く。
そのくらい適正レベルを下げておけば、万が一この前のようなことがあっても上回っているステータス補正で回避か防御によるノーダメが成立する。
「でも効率悪すぎるよなぁ。」
今になって将軍の一人では何もできないという言葉が重くのしかかってくる。
ガウスが居てくれたら楽なんだろうが、曲がりなりにもAランク冒険者だ。何かと引っ張りだこらしい。
「かといってHP1の分際で、パーティに入れてくれってのも、募集して代わりに耐久してくれってのも誰も良い顔しないだろうしなぁ。」
やはりHP1は枷としては重過ぎる、これが攻撃とか防御が1なら他でカバーする方法もあるが命に直結しているHPは代わりが効かない。
唯一のメリットはそもそもダメージを受ける前提が無いから、回復スキルの習得は考えなくても良いってことくらいだ。
そんなこんなでギルドの受付まで到着すると、受付の人が1枚のカードのようなものを渡してきた。
「こちらが正式なギルドの冒険者証です。ミコト様はまだ依頼実績も無いので、通常通りFランクからのスタートになります。」
ゴブリンスミスにとどめを刺したとはいえ、手柄のほとんどはガウスのものだから当然のことだ。
Fランクの依頼だと素材集めや、荷運びをする程度の仕事だ。こないだのような真魔を直接相手にするような依頼は、最低でもDランクにならないと受けられないそうだ。
「それとこのまま依頼受け付けもお願いしていいですか?
えっと、この毒草駆除の依頼を受けたいんですけど。」
「かしこまりました。そちらのクエストですと毒草の取り扱いをしたがらない方が多く、たくさん駆除していただけるとその分報酬上乗せとなっております。」
これはしめた。
悪食スキルで毒の接種がどんなもんかためすつもり程度で考えていたが、これはうれしい誤算だ。
「一応確認なんですがこのクエストで駆除対象になっている毒草のランクってどの程度の物ですか?」
Fランクの依頼だから滅多なことはないだろうが、念には念を入れておかないとな。
「そうですね・・。しばらくの間群生地が放置されていたようですので、平均してD~Cになっているようです。」
結構ギリギリだが、スキルの効果範囲内だな。ここから群生地までは町を出て2日ほどかかる場所にあるらしい。
今の俺の状態では野宿は危険なので、一定間隔の距離に点在するギルドの出張キャンプ場を利用するつもりだ。
なので実質かかるのは3~4日はかかるだろう。
「不安はあるけど生まれて初めての一人旅、それも異世界の冒険なんてちょっと楽しみではあるよな。」
俺は一人浮かれた様子でつぶやき、冒険者ギルドを後にした。
「さて、購入するものは食料と、水・・は飲めないからその辺の泥水を後で汲んでおくか・・。」
干し肉、熟す前の硬皮の果物、ナッツ類など日持ちのよさそうなものを買いそろえていく。
「こんなもんかな。服飾の店で替えの衣類を何着か用意もしたし、とりあえずこんなもんか?
あとは・・回復が要らないとはいえ薬屋も見てみるか。何か有用なものもあるかもしれないし。」
俺はそのままの足取りで薬屋に向かう。
「えっ!?ポーションが6,000ゴルド!?高すぎないか?」
すると店主が訝し気な顔で睨みつけながら言葉を発する。
「おい兄ちゃん、難癖付けるのはやめてくれよ。うちのは正真正銘教会のヒーラー様が錬成した混じりっけなしの代物だ。
安いのが欲しけりゃ裏通りのバザーでも行きな。まぁほとんどただの水みたいなのしかないだろうがな。」
宿代が1泊2食付き全回復で1200ゴルドだぞ。たかだかHPを50回復させる基本のポーションでほぼ1週間の寝食と同等ってどういう価格設定なんだ。
「ヒーラーが薬を錬成してるって話だけど、もしかしてヒーラーって貴重なのか?」
「なんだ兄ちゃん、他国から来た人かい。ヒーラー職自体は珍しいもんではねぇんだ。」
「ただ聖職者のスキルツリーを持つ連中は例えどういう出自であっても、教皇領に集められる。
そこからしか薬や衛生用品は卸されねぇからほとんど言い値で仕入れるしかねぇのよ。」
ひとしきりの話を聞く限りどうやらこの王国では、生活に必要なライフラインの供給は宗教勢力が握っているらしい。
聖職者は教会が管理し、聖職者しかできない仕事を割り振る。だから競合もないまま利権が集中している仕組みだ。
まぁ飲み水の生成にすら聖職者のスキルを使っていることを考えれば、どれだけ法外の値段でも利用せざるを得ないんだろう。
「で?兄ちゃん、結局ポーションはどうすんだ?」
「あー。ポーションはいいや。そっちの毒矢に使う用の毒瓶を1つください。」
お金を支払うと店主はあいよと気前よく返事をし、見るからに毒々しい色をした液体が詰まった瓶を差し出してきた。
ようやく旅支度を終え、おれは町を後にするのだった。
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