第7話 将軍たるもの
ガウスは冒険者ギルドの人間の為、報告を行う必要があり別の町にあるギルド支部へと戻っていった。
ミリアはというと流石にお姫様ということもあって、近衛兵らしき女性騎士に連れられ宮殿の方に戻された。
俺に関しては直行で詰め所に連れてこられていた。
騎士たちの交わす話の内容で知ったのだが、セフィリアは代々将軍家として専用スキルを引き継いできた家系の人間でこの国きっての実力者らしい。
本来王都以外の辺境の町に姿を見せることはまずないのだが、ミリアのことがあって飛んできたようだ。
「さて、まずは先ほどの坑道での非礼を詫びよう。いくら何でも大衆の前ですべき振舞ではなかったな。」
意外だった。坑道ではいきなり胸ぐらでも掴んで拷問でもされるかのような勢いだったので、この反応はかえって拍子抜けだ。
「いえ。成り行きとはいえ、よく話も聞かず流された俺も悪いんで。」
「改めて私はセフィリア、このセントリア王国で将軍の地位を賜っている者だ。
姫様の話では転生者ということらしいが、こちらには来たばかりか?」
俺はこれまでの経緯をかいつまんで話した。
・・・当然ガウスに言われた通り真魔スキルのことは除いて。
「そうか。それは大変だったな。ガウスはあれでもAランク冒険者だ。
それより格下の相手で幸運だったが、そうでなければ今こうして話すことも叶わなかったろう。」
スキルツリーがSSまであるってことは、ガウスのAランクってのもきっと上位の部類なんだろうな。
ゴブリンスミス戦で見せたあのスキルも考えてみれば、重騎士っていう言葉からは連想できないほどの速度で動いてたしな。
・・・発動代償も厄介そうだったけど。
「聞く限りHPが1しか確保できないのだから、今後は危険なことは避けた方が良い。どんなスキルも習得できるなら何も冒険者に固執することもあるまい。
転生者ならそれなりに良い待遇の仕事を斡旋してやることも出来る。」
正直願ってもない話だ。ガウスやミリアはすごい力だとは言ってくれるが、結局俺の命が儚いことには変わりない。
おとなしく危険を冒さず、安定した職業に就くことだって悪くない、むしろそれを元々は考えていたはずだ。
「・・・そうですね。有難い話です。・・・だけど。」
坑道で見たミリアの必死な顔が浮かぶ。
本気で俺に何かを賭けようとしてくれている、その何かが何なのかまでは分からない。
だけどこのまま安寧に身を委ねて終わりたくないという思いが確実に俺の中で芽生えていた。
「すいません。話さない方が良いと思ってたけど、正直に言います。
俺、どうやら倒した真魔のスキルもそのまま習得できるみたいなんです。」
するとセフィリア将軍が驚いた様子で反応する。
「なんだと?そんなことが・・いや、姫様の反応を見るに何かの間違いでは無いのだろう。
・・・なるほど真魔のスキルを意のままに操れるなら国家の戦術兵器並みの働きが期待できるな。」
セフィリア将軍は考え込むように呟いたが、それでも当初の意見を変えることはなかった。むしろ強硬になったと言っていい。
「それならば、なおさら不用意にその辺をウロつかれるのは困るな。我々の管理下に居てもらった方がこの国にとって安全だ。」
やはり勢いだけで話すのはマズかったか。
そりゃ一国の軍事や治安を預かる人間にこんな話をすれば、警戒されるのは明白だ。
するとセフィリア将軍は厳しくもどこか優しい口調で尋ねてきた。
「なぜ話した?黙っていれば少なくとも身の自由は保障されたものを。」
俺は元居た世界のことを思い出す。
自分で生きることを許されない、自分で死ぬことも許されない、そんな何者でもない命で終わるのはもう嫌だ。
「スキルがどうとか、転生者だとか真魔だとかそんなものはどうでもいい。」
少し息を置いて、言葉を発する。
「俺の命は俺のもの・・です。俺がどう使ってどう死ぬかなんて、そちらには関係ない。
俺は俺の意思で生きる。その結果どこで野垂れ死んだって構わない。」
すると将軍はフッと笑う。
「青いな。国家はその命の容れ物だ。たかが一つの命の勝手で、数千万を危機に晒せというのか?
転生者のスキルというのはそれ一つだけで国家を揺るがす程の重要なものだ。この世界に来たばかりでは分からんだろうがな。」
さすがに痛いところを突いてくる。1対1の話だと思っているのは俺だけで、この人は大局を見て話している。
そして今の答えから、ミリアが言っていた転生者は重役だとか高位の冒険者に認められる事情の一旦が垣間見えた。
「転生者は全て管理下・・不自由の無い待遇で選択を絞りこみ飼い慣らす、そういうことですか。」
言った瞬間後ろに控えていた騎士が、将軍に無礼な口を利いたことに斬りかかろうとしてくる。
「止めろ。正当な裁きなく転生者を殺すことなど、私の権限で出来ることではない。」
「・・・だが、なるほど。その反抗的な物言い、姫様が余計に気に掛けるのもわかる。
お前は他の転生者とは違う、それはスキルが特殊だからということではない。」
将軍はそう言うと目を閉じ、沈黙する。
そしてしばしの沈黙が流れた後で、ゆっくりと目を開く。
「よかろう。どのみちお前はHPが1しかない以上、一人で出来ることなどたかが知れている。そんな状態で他国や自治領も手を回してくるとも思えん。」
将軍は真っ直ぐにこちらを見つめて答える。
「今回に関しては姫様の顔に免じて、不問にしてやる。好きなように過ごすが良い。」
なんと、大した返答も出来なかったのに将軍は俺の自由を認めてくれた。
ただ何となくだけど、この人は最初からこちらを本気でどうこうする気は無かったような気がする。
俺の能力が低いことを抜きにしても、固有スキル持ちの転生者相手にここまで威圧的に出れるってことは、間違いなく対抗できるほどのスキルか何かを持っているのだろう。
そうでなければ、転生者を管理下におくなどという発想は出来ないし、実運用として外部の人間を重役配置して国家を運営するなんてことは不可能だ。
「確かミコトと言ったな。もし次に会うことがあれば、もっと友好的な話が出来ることを期待する。」
「はは・・。そのときはお手柔らかにお願いします。」
何にせよ、俺は詰め所を後にし、疲れた体を休められる場所を探すのだった。
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