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第37話 転げゆく生

―異世界とは思えないような機械的な部屋。


 正直気になることは色々とあるが、今は個人の好奇心に突き動かされている場合ではない。


「おいおい、何だこりゃ。初心者ダンジョンになんでこんな・・・。というかどのダンジョンでもこんなの見たことないぞ?」


 ガウスが部屋に入ってくるなりあちこちをキョロキョロ見渡すところを見るに、これは転生者が生み出した技術でも、当たり前の光景でも無いようだ。


「・・・多分だけど、ここにある装置を使えばルカを再生できるかもしれない。」


「何だって!?そんな真似ができるなんざ、ひょっとして聖《アー》遺《ティファ》物《クト》の類なのか?」


「何だっていい!今はこれを動かすのが先だ。」


 画面のアラートメッセージの端にスタートボタンがある。普通のパソコンと操作が変わらないならこれを押せば何かが起こるはずだ。俺は迷わずにボタンを押すと部屋中にアナウンスが流れる。


『プログラムの起動を確認。生体デバイスとなる個体をセットしてください。』


 無機質な声が部屋に響き渡り、診療代のようなものがカプセルとともに床下からせりあがってきた。


「ミリア!!今からルカを運ぶぞ!!何とかなるかもしれない!!」


 泣きじゃくるミリアは泣きはらしたまま状況が掴めていないようだったが、何とかなるという俺の言葉でどうにか体を動かす気にはなったようだ。 

 二人でルカの身体をそっと運び、診療台のようなものへ乗せる。


『個体識別中・・・生命維持器官に重大な欠陥あり。再構築にあたって、生体情報ストレージからの復元を推奨。続行しますか?』


「ねぇ・・ミコト、この声は何を言っているの?私には理解が追いつかないのだけれど。」


「それは俺にも分からないよ。ただ、生き返らせるのが出来ないってわけじゃないみたいだ。」


 分からないと言いつつも、SFチックなこの状況は俺には何となくだがある程度は理解できていた。あとはこの操作を続行するとどうなるのかというところだけだ。


「続けるぞ?」


 俺以外の面々は全くこの部屋のことを理解すら出来ていないので、心ここにあらずと言った返事しかしない。   

 構わずそのまま画面の続行確認メッセージに了解の意思を伝達する。


『復元個体と適合する生体情報を照合中・・・因子元の対象外データ1件、継承因子より適合率が高い3件がヒット。リストを照会します。』


【マリー=マルタン 女性 Age16(オリジナル)

 因子番号:RD-137

 異界のフランスと呼ばれる地の人類。

 異界の転生プログラムに組み込まれる前に魂を鹵《ろ》獲《かく》。

※異世界間での転生実施済みの為、復元および再設定元データとしての使用不可※】


【エイル 女性 Age24(第5世代)

 RD-137の直系子孫。

 転生因子を所持しているが非活性。

 スキル適正は低く再利用は非推奨。】


【カイル 男性 Age38(第8世代)

 RD-137の傍系子孫。

 転生因子は未所持。

 スキル適正は高いが、暴走の恐れあり。】


【ミカエラ 女性 Age28(第13世代)

 隔世遺伝にてRD-137の因子を獲得。

 スキル適正、転生因子の活性ともに良好。

 生体デバイス用データとして適と評価。】


 背中がゾワゾワとする感覚が一気に押し寄せる。きっとこれは表示された人たちの特性に合わせて、ルカの身体を作り替えるということなのだろう。


(こんなことを人間がしていいのか?いや、そもそもこんなマネが出来るのって・・・。)


 俺はふと、ギルドの集会所でエリゴールさんから聞いた話を思い出していた。それに、この部屋に響くアナウンスはどこかで聞き覚えがある。


(声自体はわずかに違うけど、初めてこの世界で目を覚ましたあの草原の声に似ている。

 それじゃあ、神はやっぱりどこかに居るのか?それともこの部屋みたいに、機械だけが自律しているのか?)


「・・・ミコト?大丈夫なのよね?・・・ルカは・・・。」


 背後から心配よりも恐怖が上回っているような細い声にハッとさせられた。

 ミリアもエリゴールさんの話を思い出したのか、機械のことは分からずとも画面に表示された内容には何となく勘づいたようだ。


「・・・やるしかない。このミカエラって人のデータなら問題なく利用できそうだ。」


 自分で言っていて、気がどうにかなっているような感覚になる。命を操作するなんていくら異世界とはいえ、常軌を逸している。


(仲間を殺されて、他人を殺して、命を作り替える?

・・・俺は、何をやっているんだ・・・。)


 それでもルカを救いたいという唯一の人間らしい感情だけが俺をつき動かし、冷たい汗が滲《にじ》む手で画面の操作を進めた。


『対象選定の承認を確認しました。これより実行に移ります。』


 これを押してしまえば、もう後戻りはできない。

・・・それでも俺は無言で最後の確認ボタンを押すと、カプセル内を満たすようにルカを乗せた台が緑色の光で包まれる。


『個体情報を識別。設定データに適合させるため既存スキルを消去。復元を実行中・・・。』


・・・それからどれくらいの時間がたっただろうか。ただ待つだけの身では、たったの1秒すらいつもの何倍にも重みがあるように感じられた。


『・・・復元完了。設定データによる魂と記憶の混入に異常なし。スキル暴走の危険性検知無し。転生因子の活性を確認。これにてプログラムを終了します。』


 カプセル内の光が収束すると、傷一つないルカの姿が次第に露《あら》わになってくる。


「・・・ん、んんぅ。」


 微かだが間違いなくルカの呼吸と声が聞こえた。


(よかった。どうにか一命は繋いだみたいだ。)


拝読いただき厚く御礼申し上げます。

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