第36話 混じり合う理
・・・・ズプッ
食用肉を切る感覚とはまるで違う。
真魔を切り伏せるときとも全く違う。
刃が肉と肉の間を通り抜けるときの抵抗感。
鍛えられた剣でも砕くには根気が要る硬い感触。
(余計なことを考えるなっ!!俺は【敵】を倒すんだっ!!ルカの仇を取るんだっ!!!)
しかしトマスは狂ったように笑うばかりで、その命が衰える様子が無い。
「ケッヒャヒャヒャヒャ!!おまえあんなスキル使って元気そうだなぁ!!もしかしてこっち側かぁ!?」
トマスの流す血が徐々に赤黒い色から青紫色に変色していく。恐らくこれだけの奇貨スキルを単身で使ったことで真魔化を抑えられなくなっているのだろう。
「うるさいっ!!俺はお前なんかとは違うっ!人としてお前は殺さなきゃいけない!!」
何度も何度も剣を一心不乱に振り回し、今度は生々しい肉を引きちぎるような音が響く。
次第にトマスの表情が虚ろなものに変わり、とうとうその体から命が引きはがされる時が来た。
「・・・・・めでたい奴め・・・このバケモノが。」
最期の捨て台詞を吐くと、糸が切れた人形のようにトマスは地面に倒れた。
しかし、状況は改善しない。天井を覆う雷光はより一層大きくなっていく。
「・・・そんな。俺は一体何のために・・・ただイタズラに命を奪っただけだってのか・・・?」
「気に病むな。少なくとも俺たちは助かった。」
ふと目線を地上に戻すと、ガウスたちが近くを取り囲みできるだけの防御態勢を取っている。
それでも表情に一切の余裕が無い。やはりミリアですら防ぎきれないスキルなんて、ただでさえ消耗しているのにその辺のスキルではどうにもできないのだろう。
「・・・っ!!そんな、ダメッ!!みんな避けてっ!!!」
ついにミリアが押さえつけていた雷光がその両手から溢れ出し、周囲に飛散する。
その瞬間、俺の胸元のペンダントが同じような光を放ち雷光をこちらに吸い寄せ始めた。
「クソっ!!こうなりゃやけくそだぁ!!!」
俺は雷光に向かってペンダントを掲げる。すると、ペンダントに繋がれた宝玉が雷光を吸収し始めていく。
「ミコトっ!!平気なの!?」
「ああ!!よく分からないけど、このペンダントがスキルを吸い取ってるみたいだ。」
俺の手元でかすっただけでも致命傷になりそうなバチバチとした音がしばらくの間続いた。
やがてその音も小さくなり、音が止むころには部屋が元の薄暗いダンジョンらしい様相に戻っていた。
「ルカっ!!返事をしてっ!!・・・ごめんなさい、私がいつもみたいに調子に乗ったから・・・。」
普段凛々しく整っているミリアの顔が、涙に濡れながらクシャクシャになっている。
そんな悲壮感などものともしないように、俺の目の前にメッセージウィンドウが現れる。
【ハタノ ミコトのレベルが36から40に上がりました
※現在の職業の成長限界が近づいています※】
【真魔スキル[侵略者]スキルの一部が解放されました。
ランクAまでの[聖騎士]スキルの一部が解放されました。
真魔スキル[聖人]スキルの一部が解放されました。】
【以下のドロップ品を入手しました。
聖銀の直剣[A]、破戒の鍵[?]】
(今はこんなものを見ている場合じゃない!)
「ガウス!どうにか回復できないか!?回復スキル持ちは?」
ガウスは静かに目を閉じ、首を横に振る。
「見てわかるだろ。急所を一突きだ。間に合うとか間に合わないとかそういうレベルじゃない。」
「・・・クッソおおぉ!!」
すると先ほど手に入れた破戒の鍵なるアイテムが光り出し、何かを指し示すようにその光がボスがいた場所の先を照らす。
見るとそこは崩れた岩で隠されてはいたが、何やら扉のようなものがある。
(あの部屋に何かあるのか!?いや、必ず何か探し出すんだ!!)
俺は全力で駆け出し、岩を無理やりどかし扉にたどりつく。そこには鍵穴のようなものがあり、先ほどの光るカギを差し込んで扉を開けた。
「・・・これは!?」
驚くことに中には俺が元居た世界ではよくありふれたような、機械に覆われた部屋があった。
もっと言えば、病院の精密検査を行うような雰囲気の部屋と言っていいだろう。片隅にはパソコンらしきものがあり、起動したままのような状態だったので俺は急いでそのPCで何かできないか探しだす。
(この世界の方法で無理でも、こういった設備があるなら何かあるはず。)
自分でも確信も理屈も伴っていない支離滅裂なことを考えているとはわかっていたが、希望を捨てるわけにはいかなかった。
かなり階層化されたフォルダのようなものを開いていくと気になるものが目に付いた。
『転生プログラムVer1.02』
俺はその言葉に目を奪われながらも、そのアイコンをダブルクリックすると警告メッセージが出てくる。
『このバージョンではこの世界における肉体と記憶の再設定を行うことができます。
※異界の肉体と魂はこのバージョンでの操作を行うことはできません※』
俺の心臓が一段と高い鼓動を始めたのを感じる。
―この言葉の真意は分からない。でもこのメッセージが書いていることは、蘇生を行うことができるかもしれないということだ。
ここまで拝読いただき厚く御礼申し上げます。




