第35話 超える時
―剣を向けられてなおトマスは態度を崩さない。
「・・・何のつもりだ。いくら王女と言えど、ダンジョン内での私闘がご法度くらいは知っているだろう?ギルドの管轄であれば猶更ということで合っているな?」
トマスはガウスの方へ問い直すが、ガウスは判断に困っているようだった。
「そりゃ人間同士の諍いならそうだ。だがアンタんとこのあの信者どもは何だ。奇貨スキルを躊躇なくぶっ放した上に、真魔に変貌しただろうが。
さっきのを見過ごすとなればあの女将軍が黙ってないぞ。なんせここには生き証人として王女様が居るんだからな。」
「そういうことよ。さっきのことについて洗いざらい話してもらうわ。」
するとトマスは心底めんどくさそうなため息を吐いた後、いきなり抜剣し深紅の斬撃を見舞ってきた。
「今のボス級ならば、王女もろとも死んだとて何ら不思議は無い。余計な詮索をしなければ見逃そうかとも思ったが、やはり死んでもらった方が得策なようだ。」
斬撃による深紅の衝撃波から俺たちを咄嗟にかばったガウスパーティは全身を痙攣させられ、身動きが取れなくされてしまった。
「ムダよ。私には効かな、」
―ギイィィィィン!!
トマスの鋭い袈裟斬りによりミリアは武器をはじき落されてしまう。
「百も承知だ。だが、単純な戦力でこちらに劣るのではその強がりは何の意味もない。さっさと死ね。」
トマスは剣を振り下ろした体制から間髪入れずに突きの動作を取り、咄嗟のことでたじろぐミリアの心臓に銀の一閃を入れようとする。
「危ないっス!!!」
ルカが急に飛び出しミリアの体を突き飛ばす。その代わりに無慈悲な一撃をまともに受ける形になってしまい、鮮やかな赤い血が一面に飛び散る。
「「ルカっ!!」」
俺とミリアが同時に叫ぶも、そのまま振り払われたルカは地に叩きつけられ受け身すらしない。
「中級の分際でこの速さについてこれたのには賞賛するが、所詮その程度の命であったな。」
トマスは人を馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、剣についた血を払う。
「っんの野郎ぉぉぉっ!!!」
俺は怒りに任せ剣を振るうが、いやに輝く鎧に傷一つ付けられない。何度も何度もむなしい金属音が響くだけで何も状況は変わらなかった。
「王女の供をしているからどの程度かと思えば、こんな雑魚とはな。先ほどの小娘の方が命を懸けるだけまだ有能というもの。」
「・・・ぅるさぃ。そんなの、俺が一番分かってるんだよぉっ!!」
俺は突きの体制から忌名スキル【落日の穿晄】を放つ。すると剣の切っ先から赤黒い閃光が飛び散り、トマスめがけて直進する。トマスは完全に俺のことを相手にする価値も無いと思っているのか避けようともしない。
―パキィィィィン。
ガラスか何かを砕くような音とともに閃光は鎧を砕き飛ばし、無防備となった腹に風穴を開けた。
「ごぉふっ!・・・貴様ぁ、なんだそのスキルは!?
よもや聖女の加護もなく奇貨スキルを使いこなしているとでもいうのかぁっ!!」
予想外の一撃を受け、口から無様に吐血しながらトマスは驚きとも怒りとも取れない叫びになる前の言葉を発する。
「ルカっ!おいルカっ!!返事をしろっ!!!」
相手のことなど無視して必死でルカに呼びかけるが、それでもルカは微動だにしない。
俺はバカだった。回復なんて必要ないと思っていたし、周りの補助があれば後衛役で立ち回れると思っていた。
(結局俺は自分の浅慮でしか物事を考えていないじゃないか!!!)
「何を勝手につけあがってるんだ貴様ぁ!!これで勝ったと思うなよぉ!!!
・・見せてやる!!俺とお前では圧倒的な差があるということをぉぉ!!!」
トマスは自身の上着を脱ぎ棄てるとそこには先ほどの信者たちと同じ、いや・・・信者たちよりもより不気味で密度の濃い刺青が彫られていた。
「ありがたく思え!!神の力で貴様らを屠ってくれるぅ!!!【無垢な極光】!!!」
スキル発動と同時に、部屋一面が真昼の太陽に晒されたかのように白い光で包み込まれる。
その光を生み出している頭上の雷光は、間違いなく俺たち全員に向けられ放たれた。
「これ以上はさせないわっ!!」
ミリアが雷光に対し両手を伸ばし、一身でスキルを受け止める。だが以前に発動したのを見た時より様子が違う。
「くっ。どうなってるの!?奇貨スキルとはいえ私のスキルで無効化しきれないなんて!!!」
よく見ると雷光を防ぐ両手から僅かではあるが、ジリジリとした皮膚を焼く音と湯気が発せられている。
「フハハハハハ!!無駄だぁ!!その辺の凡愚どもが扱うスキルとは違うっ!!
これこそが救世の光!!!王族すらをも凌駕する力だぁ!!!」
今はまだどうにかしてくれてはいるが、きっと長くは持たない。止める方法があるとすれば、それはもうあいつ自身を止めるしかないだろう。
(・・・やるしかない。もうあいつは人じゃない。)
俺はその行為がさも自然なことのように、己が握る剣を人の命に向かって突き出した。――
拝読いただき厚く御礼申し上げます。




