第33話 忌むべきもの
―双頭の真魔が地に伏せると、俺とミリアでまずは狼頭にとびかかり剣を顎下に一気に突き刺す。そこから力任せに肉を切り開き、確実な致命傷を与える。
「よしっ!手ごたえはあった!あとはもう一体だ!!」
「・・・いいえ、まだみたいよ。」
狼頭はまともに身動きが取れない状態ではあったが、首の部分だけがしなるような動きでこちらを追いかけてくる。
(マズイッ!直撃するっ!!)
―――
「威勢の割に仕方のない奴らだ。」
上層で見た銀色の閃光が太い一筋の線を描き、迫りくる脅威を切断した。
見るとそこには、輝くような銀色の剣を携えた騎士が仁王立ちしている。
「おおっ!トマス殿!!これこそは信仰の光よ!!」
教会の人たちの士気が上がり、一斉に沸き立つ。
「えっと、トマスさん・・ですよね?これから俺たち下層に、」
「断る。」
俺が言い切るよりも前に冷たく言葉を被せ、俺を睨む。・・・いや正確には俺よりも俺のすぐ後ろに居たミリアを、だ。
「本体を相手にするよりも前に、この程度で苦戦する奴らと組む意味がどこにある?大体にしてこいつらは本体を止めない限りは再生し続ける。」
頭を潰しても動き続けたのはそういうことか。ということは、今俺たちが与えたダメージも休みなく攻撃しないともとに戻るのか。
「それを知っていながら今更登場して、いいところだけかっさらうなんて随分と良い身分ね。そんなに手柄に飢えているの?」
とうとう我慢できなかったのか、ミリアがこれでもかと悪態をつく。
「どうとでも言え。あいにく我らは民よりも己の遊行に耽るバカな王族に構ってやるほど暇ではない。」
トマスは言い切ると、もう片方のヤギ頭にも同様に鋭い一太刀を与え首の部分を切断する。
またひと際大きい歓声が上がると、それを制止し淡々と言葉を紡ぐ。
「我らはこれより本体討伐に向かうが、貴様らは戻れ。
付いてきたければ勝手にしても良いが、今度邪魔になったときは貴様らごと切り捨てる。」
「おいおい、ここはギルドが管理を任されているダンジョンだ。王国領で教会がどれだけの特権を持っていたとしても俺が行かないわけにはいかねぇな。
それとも、自治領の領主クラスにも喧嘩ふっかけるつもりでいるのか?」
スキル代償による反動から解放されたガウスがパーティーメンバーを率いて近寄ってきた。
「・・・ちっ。別にこちらから何かすると言っているのではない。何かあっても救援はしないと言っているだけだ。
それと、今の戦闘を片づけたのは私だ。次の本体との戦いでトドメを横取りすることは許さん。これはギルドのルールにもあるから文句はないな?」
「ああ。仮にうちのパーティが誤ってトドメを刺したとしても、戦利品は貢献度が一番高いパーティまたは参加者に譲る。」
ミリアはめちゃくちゃ文句ありそうな雰囲気だったが、ガウスが年長者として話をまとめてくれた。
俺としてはここで引き返すというのも選択肢にはあったが、先へ進むことにした。
別にミリアが怖いからじゃない。ここまできて俺の成果と呼べるものが無いことと、これだけコケにされて引き返しても得るものが何もないからだ。
俺たちが今後のことを話していると、切り離された触手が奥の方へと少しずつ引っ込んでいく。
「貴様らに構っている場合ではない。私は行くぞ。」
トマスが引っ込んでいく触手を追いかけ駆け出していく。俺たちも体制と各々の状態を確認し、問題が無いことを確認してから負けじと追いかけていく。
不揃いな足並みで駆けおりていく音が反響する中、ついに触手の行先に終わりが見えた。
「結界の中に入るっスよ!もう戻れないっスけどいいっスね!?」
「ああ!問題ない!!」
最下層だけは作りが異なるのだろうか、今まで通過した階層からは考えられないほど天井が高く広い部屋に出た。
その中央にはちぎれた触手を動かしながら鎮座する部屋の主がいた。
【双頭のクル・テマヌン〈本体〉と戦闘を開始します。】
本体はどこか生物らしい見た目ではなく、真っ黒な球体といった様相であり、触手が生えている箇所は生えているというより異空間から2本の触手が出てきているような印象を受けた。
(触手は本当に2本だけなのか?あの見た目からは予想が出来ないな。)
するとトマスがふてぶてしくもこちらに命令口調で指示を出してくる。
「おい貴様ら、ついてきたということはあれを倒すつもりだろう?
アイツの外皮は、ここにいる面子じゃ私とそこの大男くらいしかまともにダメージを通せない。先陣は二人でやるぞ。異論は認めん。」
「そうするしかないだろうな。そのあとはどうする?」
ガウスが承諾するとトマスは信じがたいことを言い出した。
「その後は、我が部隊の奇貨スキルを同時発動させ敵にぶつける。再生される前に倒すにはそれが手っ取り早い。」
その言葉を聞いた瞬間ついにミリアが声を荒げた。
「何を考えているの!?そんなことしたら、使った人たちはタダじゃ済まないわよ!?」
「・・・ふん、流石は王族。古い常識に囚われているとは。我らは聖女様のご加護により、奇貨スキルの恩恵を並みの人間よりは扱える。貴様ら王宮ご自慢の無能騎士どもとは一緒にするなよ?」
お互い無言でにらみ合いをしていたが、トマスは構うだけ無駄と思ったのかすぐに敵へと向き直る。
―ただ分かっていることは、これから教会の人間たちが非情な戦いを始めようとしているということだ。
拝読いただき厚く御礼申し上げます。




