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第32話 2つの開戦

 全員が言葉もなく冷や汗を見せながら進んでいくと、一人の修道服を着た人物を見つけた。

 その人物は服装もボロボロだったが、それ以上に表情は息も絶え絶えといった様子だ。


「お前はさっき先行すると言っていた教会の人間だな?

この先で何があった?」


「・・・ボス級が2体同時に出た。・・・いや、正確には2体に見える1体だ。

 隊はほとんど全滅だ。このことを早くトマス殿に・・・。」


 地を這ってでも上層に向かおうとするその人物は、手を伸ばしかけたところで息絶えてしまった。 

 しかし、ガウスの問いかけにやっとの状態で返答した内容は要領を得ない。


「この人はどうするんだ?このままにするのか?」


「今は余裕が無い状況だ。それに、忠告を無視して進んだこいつ等にも非はある。」


 周囲の人たちも全員下層への警戒に集中している。

 今を生き抜くためには、それが最善なのだろうが俺はどうににもやりきれない気持ちになる。


(この甘さが命取りになるというなら、俺はこの気持ちを捨てるべきなんだろうか。)


「後で戻るときにこの人も回収していきましょう。」


 俺が何を考えているのか見透かしたようにミリアが言葉をかけてきた。

 それに何よりこの状況でも、最後まで生き残ることを当たり前だと思っている彼女の意志の強さにも感服する。


「・・・慎重に先へ向かおう。」


 どうにか気持ちを奮い立たせて先へ進むと、武具の残骸やまだ真新しい血の跡などがそこら中に目に付くようになっていった。

 これらの全てがさっきの一瞬で積み重なったものかと思うと、前進する意思が揺らぎそうになる。


 不安定になっていく足場をどうにか進んでいくと、ある程度身動きがとりやすい広場に出た。

 ただの広場というよりは、元はただの坑道だったところが何者かに抉られて広がっていたという方が正しいだろうか。


「気をつけろ。何か来るぞっ!!」


 前方から修道服の集団が振り返りざまに魔法を放ちながらこちらへ走ってくる。


「よしっ!広いところに出るぞ!ここで迎え撃つ!!」


 その集団は俺たちのことなど眼中にないかのように後方の何かとここで戦闘を続けようとしている。


「おいアンタら大丈夫か?ここからは加勢するぞ!」


「うるさいっ!アレは我々の獲物だ!!我ら教会以外の人間に渡すわけにはいかん!!」


 教会の人たちは、傷を負っていることもあってかかなり興奮気味で理性が働かないようだ。

 だがどうにか協力しないとさっきの人の二の舞になりかねない。


「やむを得ないわ。彼らが攻撃に集中してる合間を縫ってこちらも畳みかけるしかないわね。間違っても彼らの射程内に入ってはダメよ。」


 ミリアが呆れつつも武器を構えるとやがて教会パーティの魔法弾の爆発音が近くまで迫り、ついに背後にいたそれは姿を現した。


【双頭のクル・テマヌン<触手>との戦闘を開始します。】


 片方がヤギの頭をしており、もう片方が狼のような頭をした長い首のようなものが奥から這い出てきたが、繋がっている先が全く見えない。

 さっきの人の話では、これが2体ではなくそもそも1体だということなら繋がった先に本体が居るはずだ。


「・・・?結界みたいなのが出ないぞ?」


「多分本命は結界が届かないほどもっと奥に居るっス。

でもこいつらをどうにかしないと辿り着けないっス。」


 すると片方のヤギ頭の方がゆっくりと口を開き、青白い炎を口の中にため込んでいる。

 教会の人たちがそれに気づいて口の中に魔法を放り込もうとした瞬間、もうかたほうの狼の頭が鞭をしならせるような動きで詠唱中の集団に襲い掛かる。


―ガシュッ!!


 大口を開けて襲い掛かった狼頭の口元にはポタポタと深紅の液体がしたたり落ち、地面にはつい先ほどまで人間だった物体の一部が散乱した。


「うっ・・・。」


「目をそらしてる場合じゃない!!今の隙に攻撃を叩き込むぞ!!」


 ガウスが叫ぶと、パーティの一人が補助スキルを発動し、俺とミリアを除いた全員を金色のオーラのようなものが包み込む。

 ミリアはともかく俺にもかからないということは、バフの類なのだろう。


「第1波は俺たち前衛メンバーで狼頭を仕留める。スキル硬直のタイミングで第2波としてルカたちが続いてくれ。ミリアとミコトは追撃要員だが、あくまで確実に狙える時だけにするんだ。」


 全員静かに頷き、前衛メンバーが一気に動き出した。やはり一番槍を決めたのはガウスで見た目からは想像できない速さと跳躍力で、狼頭の頭上からとびかかる。


「【蒼《そう》天《てん》牙《が》撃《げき》】だあぁっ!!」


 ガウスの咆哮とともに特大の長剣が青い刀身となり、狼頭の脳天を打ち抜いた瞬間に大量の黒い血飛沫が舞う。

 続いていく前衛メンバーも、見るからに重々しいスキルを発動し傷口めがけて突撃を与える。


「ガファッ!ガゥウゥ・・」


 倒すには至らなかったが、狼頭は地に伏せしばらく痙攣しながら動けそうにない状態に陥っていた。

 そこを飛び越えルカたち第二波がヤギ頭の方へ向かい、炎による攻撃を防ぎに行く。


「【砂《サハル》爆《・ムル・》塵《ブーム》舞】っ!!」

 

 ルカが空中でスキルを発動すると、周囲の岩肌にこびりついた砂利や小石がヤギ頭の周囲に舞い上がり一気にド派手な爆発を起こす。

 以前見かけた敵の注意を逸らすスキルとは桁違いの威力で、真っ当に職業スキルを手に入れればここまでのものなのかと感心する。


 続く第2波メンバーも目や鼻を狙い、炎を正面に吐けないよう追い込んでいく。

 ヤギ頭は堪らず首を振り、壁に激突してしまい、そのはずみで口の中の炎をそのまま漏らしてしまった。


「よしっ!!総崩れだ!ミリアっ!トドメに行こう!」


 ここまでは順調だ。あとは目の前の敵を仕留めて本体まで一気に詰め寄るだけだ。


拝読いただき厚く御礼申し上げます。

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