第26話 加護
―上空から凄まじい突風を伴い、巨大な影が俺たち3人を覆う。
すかさず上空を見上げると、そこには巨大な爬虫類を思わせる容姿。いや、幼い頃から観てきた数々の物語に登場したドラゴンと呼べる生物が迫り来ていた。
―ガシュッ!!
ドラゴンは滑空しながら、消えゆく猪を丸呑みし俺たちの目の前に舞い降りた。
『・・・ふん。やはり低級の魂では食い応えが無いな。』
驚いたことに、そのドラゴンは人語を話した。
ただ、今はそれどころではない。あのボスを低級扱いするなら間違いなく上位の存在。
ミリアもルカも道中の戦闘で消耗しているし、俺自身も今の戦いでろくにスキルが使えない状態だ。
「・・とりあえずアイツはボスでは無さそうだ。2人とも逃げる用意はいいか?」
「それは構わないけれど、この渓谷じゃ翼を持っている向こうの方が地形的に有利よ。」
「それに、ただでさえ狭い場所が多いのにブレス吐かれたら終わりっスよ。」
するとドラゴンは俺たちを見据え、口から炎をちらつかせながら話しかけてきた。
『おまえか、この雑魚を仕留めたのは。警戒せずとも我は人間ごときには用が無・・・いや、お前は本当に人間か?』
ドラゴンは俺の方を警戒するように身構えながら訪ねてくる。
もうこの状況では、不用意なことを言っても仕方が無いので話せるのであればある程度の意思疎通を図ってみるしかないだろう。
「お、俺は転生者だ。だからこの世界の本来の人間じゃない。人間に用が無いのなら見逃してくれないか?」
『ふむ。そちらの2人に関しては構わんが、お前からは魔の者の気配がする。タダで返すどころか生かしておく理由が見当たらんな。』
するとミリアとルカが俺の周りに集まり、ドラゴンに懇願し始めた。
「ま、待ってよ。彼はスキルの影響で真魔の力を扱えるだけで、魔の物と断定されるような存在ではないわ。」
「そ、そうっス。そんな存在だったら自分たち一緒に行動できてないっス!」
ドラゴンは俺たち全員を見定めるように見下ろしたまま重々しく口を開く。
『お前たち、その力が何か分かっているのか?その転生者が持つスキルは人の身に宿してよいものではない。
そもそも何故人間がその力を得るに至っているのか我にすら理解しかねる。』
何だって?エリゴールさんも俺のスキルのことを何やら重要な意味があるような反応をしていたが・・・。
いやでも、初めてこの世界に来た時に聞いた時には間違いなく転生特典による転生スキルだと聞かされた。
なぜ俺のスキルがこの世界で重大な意味を持つなんて話になるんだ?
「それは転生者だからなんじゃないのか?転生者は固有のスキルに目覚めるって話らしいから、俺のもそういう類のものだろう?」
『お前のような異界の人間が、《《世界の残滓ども》》に何を吹き込まれたかは知らんが別世界へ渡った程度でその世界の恩恵を受けられるなどあり得ぬ。
大方、死んで肉体から解放された魂をこの世界に順応しやすいように命ごとを作り替えたのであろう。あの者らがやりそうなことだ。』
どういうことだ?転生者がまるで意図的に作り出されたかのような口ぶりだ。それを横からすかさずミリアが食ってかかった。
「さっきから聞いていれば、要領を得ないことばかりなのだけれどあなたの勝手な理解だけでミコトに死なれても困るわ。」
『・・・この気配、あの者の子孫か。・・・その力を庇うとは皮肉なものだな。人間にとってはそれだけの時間が過ぎたということか。
それでもその者を見過ごすことは出来ん。力に気づく連中が居ると厄介だからな。・・・悪く思うな、一瞬で片付く。』
そう言うと口にちらつかせていた炎が、一瞬で白く輝く巨大な熱源となってこちらに向けられる。
「マズいっス!!このままじゃ皆焼け死んじゃうっス!!ミリアさんっ!!あの炎防げるっスか!?」
『無駄だ。その娘の力では理外の力までは防ぐことは出来ん。』
「そう言われたら、ますます引き下がれなくなるわねっ!!」
その瞬間、ミリアから預かっていたペンダントの宝玉がドラゴンの白い炎に呼応したかのように光始めた。
『っ!?その光は・・・。なぜおまえがその光に選ばれる!?』
やはりドラゴンは何かを知っているようだが、言葉からは全く理解できない。
それでも光を見て攻撃を止めたことから、命は助かったとみていいだろう。
『・・・・・そこの転生者、一つだけ答えよ。お前はこの世界に来てから命を落としたことはあるか?』
何を言っているんだ?生きている限り命なんか誰だって落とせるわけが無いだろう。
「いや、そんなのあるわけないだろ。だいたいにして俺のHPはスキルのせいで常に1しかないんだぞ。」
『・・・なるほど、その光に選ばれた理由、今の答えで理解した。この場はおとなしく去るとしよう。
ただし、光に背くことあらば次は言葉などなく滅ぼす。ゆめゆめ忘れるな。』
「ちょっと待て!!なんの話だったのかこっちにはさっぱりだ!!結局俺は何なんだ!!!」
結局、何を叫んでもドラゴンは一切言葉を発することもなく飛び去ってしまった。
「何だったのかしらね、あれ。私のこともなんか言っていたし。」
「なんだっていいじゃないっスか。こうして生きてるっスから。」
「そうだな。まぁよくわからなかったけどこれ返しておくよ。やっぱり大層なものみたいだし。」
ミリアから預かっていたペンダントを返そうとしたが、なぜかどうやっても外せない。
装備メニューを開いてそこから着脱を試みるも、やはり外すことが出来ないというメッセージが出てきた。
「何だこれ!?どういうことだ?」
「さっきあのドラゴンは光に選ばれたとか言ってたわよね。よくは分からないけれどあなただけのものになったってことかしら。
まぁ私が持っていてもしょうがなかったし、そのままあげるわそれ。また何か起こるかもしれないし。」
外せない以上は仕方がないか。それに俺自身もこの宝玉に何の意味があるか気になるしな。
―なんにせよ、今は早く町に戻って休息を取りたい。
これからのことはそれからだ。
拝読いただき厚く御礼申し上げます。




