第20話 悪路
―俺たちはミリアの先導に従い、石畳の道を辿っていく。
道すがら、転移装置などの転生者がもたらした技術について簡単にレクチャーを受けながら歩いていた。
聞くところによると、王都など主要都市では既に馬車では無い金属部品を用いた乗り物や、スキルを宿したアイテムの人工増産に乗り出しており産業革命を迎えつつあるという。
「・・だけどそういった技術革新は単純な労働生産性を上げるだけでは無くて、他国や自治領への牽制という意味合いが強いわね。」
確かに短期間での文明の発展を見せつけることが出来るということは、それだけのスキルを扱える人材を揃えているということに他ならない。
ただ、その背景の中心にはやはり転生者や真魔が絡んでいるようだった。
「今や色んな勢力が転生者を引き入れようと躍起になってるっスからねぇ。
ただ転生者も人間っスから、国の英雄的存在になることを面白がる人も居ればそういう目立ち方するのを毛嫌いする人も居るっスよ。」
ミリアはルカの言葉を聞いて複雑そうな表情を見せながら説明を続けた。
「・・・それに高ランクの真魔を少数精鋭で狩れるのは転生者くらいしかいない。
そうでなければ王国の親衛隊クラスだけで編成を組まないといけないもの。それに――」
ミリアが言葉を続けようとしたその時、前方にあまりにも景色とはつり合いが取れない不自然な砂場が広がっているのが見える。
そしてその中心部には明らかに異様と言える存在が鎮座している。
「・・・まさか、あれ例のS級じゃないよな?そうだよな?」
そんなはずはないだろうと願いミリアに聞いてみるも、額に手を当ててやれやれといった反応を見せている。
ルカといえば後ろに隠れてこっそり対象をのぞきこむように見ていた。
「いいえ。あれよ。・・全く、前に討伐してきたとか言ってたからこのルートを選んだのにとんだ誤算ね。しばらく物陰に隠れて様子を見ましょうか。」
俺たちは一旦岩場の陰に隠れて様子を伺うことにした。改めてそいつを見てみると、大きさこそは人間より二回りほど大きい程度ではある。
だが下半身は金属的な光沢を放つ蠍の胴体をしており、頭と上半身は分厚い甲冑を纏った戦士の出で立ちであった。
更に片手には明らかに普通の武具とは思えないオーラを放つ金色の槍を持ち、もう片方の手には岩をそのまま切り出したような紋章の入った盾を持っている。
「・・・確実に今の俺たちで挑める相手ではないな。ちなみに近づいたらボス戦になるんだよな?」
「いや、あれはボスでは無く固有名を持つ忌名の真魔っス。
ボス戦にはならないんで逃げようと思えば逃げられるっスけど・・・。」
マジか。ボス戦でないのなら、こないだのように救援が駆けつけてくることも期待できないな。
ただその分逃げることは可能そうではあるが、あの砂場では満足に走り抜けることは困難だろう。
だがよく見てみると、反対側の岩場の影を伝っていけばどうにか見つからずに抜けられそうだ。
「反対側まで一気に走って、あそこから抜けていくのはどうだ?」
「それしかなさそうね。ルカ、隠密スキルの発動を頼める?」
ミリアも同様のことを考えていたのか、ルカにスキル発動を促した。
ルカはこくりと頷くと、スキルを発動し俺たちにスキル効果が付与されていることを確認する。
「完了っス。ただ、相手の方が格上なんで完全に見つからないわけではないっスけどいいっスか?」
俺とミリアは深く頷き、3人でタイミングを見計らう。蠍の戦士は何者かが近くに居ること自体は察しているらしく、遠くを探すような素振りを見せている。
蠍の戦士はそこまで警戒している様子も無いことから、向こうもこちらを格下だと認知しているようだ。
ある程度静かな時間が流れたあと、蠍の戦士は一度後ろを振り返り別の方を索敵し始めた。
「っし!今だっ!」
3人で一斉に走り出す。
蠍の戦士はこちらへ振り返る素振りも無く、もう少しで遮蔽物になりそうなところへ辿りつこうかというとき岩場の上に何かが居るのが見えた。
――鹿だった。
いや鹿自体は生きていればどこにでもいる。
ただこのどこか人工的な岩場が密集する、ましてや厄介な真魔がうろつく場所に出ることに違和感を覚えた。
何よりも纏っている独特な雰囲気に目を離せなくなる。
直感で、ルカと初めての依頼に向かう道中の森で見たあの鹿であると俺は思った。
『————。』
鹿が俺に向かって何かを言ったような気がしたその時だった。
俺たち3人の足元に軽いつむじ風が起こり、舞い上がった砂に視界を奪われ転んでしまった。
「マズいっ!!!」
音を立ててしまったと同時にルカのスキルが解除され、メッセージが出る。
【忌名「ギルタブ・ルガル」に戦闘対象として認識されました。】
「!!!◇〇!!△$〇&*◇%!!!」
さっきまで後ろを向いていた蠍の戦士が凄まじい速度で俺たちの方へ振り向く。
ルカの話の通り、ボス戦特有の結界は展開されない。なら、どうにかしてここから逃げ切る方法を考えるしかなさそうだ。
もう一度だけ岩場の方を見てみると、鹿の姿は見えなくなっていた。
「何だったんだ、アイツは・・・。」
ミリアとルカが体制を立て直しつつ、武器を前方に構え出来るだけの防御姿勢を取っている。
「ミコトっ!!今は気にしている場合じゃないっス!!!」
「ルカの言う通り!!まずは相手の初動をやり過ごす方法を見つけるのが先よっ!!」
一気に緊張感が走る。
救援は来ない。
とてつもなく格上の相手。
逃げようにも足場が悪い。
それでもこの状況を切り抜けないといけない。
それは俺がHPが1しかないからとかではなく、ただ生き抜くために。
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