第19話 順路
町に着いてすぐに行商隊の人たちが謝礼金を支払おうとしていたが、丁重にお断りをした。
資金には困っていなかったし、あくまでも当然のことをしただけだ。
すると行商人はせめてこれだけでも受け取ってくれと、不思議な紋章が刻印された1振りの剣を差し出してきた。
【(福音)魔晶石の剣〈A〉を手に入れました】
これは・・?何だろう、持つだけで不思議な感覚を覚える。
「福音タイプの刻印武器っス!こんな珍しいものを譲ってもらえるなんてツイてるっスねミコト!!」
刻印武器?・・・この紋章のようなものだろうか。
名前のニュアンスからして何か特殊効果が付いている武器と考えるべきだろう。
「刻印武器はその武器自体にスキルが宿っているわ。それは福音タイプだから、使用者に有利効果が働くスキルが付いているはずよ。」
ということは、使用者にデメリットをもたらす妖刀とか魔剣みたいな類もあるってことか。
とりあえず俺は貰った武器の性能を確かめてみることにした。
【(福音)魔晶石の剣〈A〉】
【発動スキル=知の値に応じて相手の防御を貫通したダメージを与えられる】
【発動代償=武器を装備している限り常時発動】
【維持代償=武具のスキルが一定回数発動するたびに武器の等級が下がる。F以下になると完全に破壊される。】
おぉ・・・シンプルに強力だな。ただ、やはりというかスキル代償は発生するようだ。
それに説明を見る限り、常に使う武器というよりはここぞというときにだけ使った方が良さそうだ。
「ありがとうございます。こんな貴重なものを頂いて、でもこれだけの品ならバザーとかで出さなくて良かったんですか?」
すると行商人は何か思うところがあるように答えた。
「いえいえ、良いのですよ。どのみち高ランク冒険者でもなければ刻印武器を買ってくれるなんてことありませんし、売れ残れば教皇に献上するだけの物になるだけでしたので。
ちゃんとした冒険者に使ってもらえる方がこの剣も本望でしょう。」
一瞬、ミリアが少し思いつめたような表情になったような気がした。
まぁ何にせよ馬車で来たおかげで、予定よりは早く到着することが出来た。
ここからは少し長いとのことらしいから、旅支度を3人で手分けして今日は早めに休むことにしよう。
◇◇◇
―夕食時、これからの道筋を確認しながら3人で食卓を囲む。
「これから少し長い道程ってことだけど、野宿の用意は本当にしなくて良かったのか?」
俺は運ばれてきた皿からエビ?のようでどこか昆虫らしくもある、不思議な生物の炒め物を無心で食べながら質問する。
その傍らでルカは、クリームがたくさん乗ったパンケーキや果物に囲まれて幸せそうだ。
「ええ。道中に転移装置が用意されているからそれを使えばすぐに次の町に行けるわ。
・・・それにしても良くそんなもの平気で食べられるわね。」
ミリアは素朴でいて、それでいながらどこか品のある香りがするビーフシチューに舌鼓を打ちながら俺の皿を見て気味が悪そうな顔をした。
・・・折角の異世界なんだから色々食べてみて何が悪い。
「転移石が使えるなんて、ミリアさん結構ランク高いんスねぇ。
冒険者で転移石を自由に使えるのなんて国と契約しているか、何らかの功績を認められた人だけっスから。」
「えっ?・・ええ。昔高ランク冒険者とパーティーを組んだ際にダンジョン攻略とかしたから・・あはは。」
引きつった表情を隠せていない時点で嘘だな。単純に王族だからそれだけでフリーパスってところだろう。
ただまぁ野宿をしなくて良いならそれに越したことはない。
明日も移動だし、食事も腹八分くらいにして今夜はもう休むことにした。
席を立ち振り返ると、ミリアがルカのほっぺについているクリームを拭いてあげていた。
別に何ともない光景ではあるが、一人でとりとめのないことを考え込むよりも仲間とのかけあいで不思議な安心感を得ている自分がいることを改めて思い知る。
(今日の戦闘もミリアが居て対応できたようなもんだし、俺も早く追いつかないとな。)
◇◇◇
――翌日。
町を出る準備をしているところで昨日の行商隊と出くわした。
「おはようございます。これから行商隊も出立ですか?良ければ途中まで一緒に行きましょうか?」
「ああいえいえ。お気遣いありがとうございます。我々はもう少しこの町に留まって道中の用意をしてから向かおうと思います。
・・・それにどうやら教会の人たちが東へ向かっているという話を聞いてしまいまして、途中で出くわすと面倒がありますからな。」
ポーションを高値で卸したり、レアアイテムを献上させたりとその教会とやらは何かと市井の人間には厄介な存在のようだ。
ふとミリアの方を見てみると、やはり厳しい目つきで話を聞いている。
「私たちはそのまま行きましょう。流石に転送装置の方には立ち寄らないはずよ。」
ミリアがピリついているので、教会のことについては深くは聞かなかった。
とりあえず今は俺たちは俺たちの目的地へ行くことに専念しよう。そのまま行商隊に別れを告げて、町を出た。
今まで来た道とは異なり、砂地や砂利道が多く街道もところどころ舗装が途切れている。
同じように東へ向かう人々を見かけるが、ほとんどが冒険者のようで概ね武具を装備していた。
つまりは戦闘が想定されるエリアということだろう。
「これから転移装置のある場所へ向かうわけだけど、一点だけ注意があるわ。
ある程度道を進んだ先に一面が柔らかい砂に覆われた場所に出るのだけれど、そこにはS級の真魔が出没することがあるの。」
S級!?おいおい・・・無茶はしないって話だったろ。
「もしかしてそれって・・。「ギルタブ・ルガル」のことっスか?
噂では聞いたことあるっスけど、戦ってまともに生還した人がいないから未知の真魔とか言われてる奴っスよね?」
「よく知ってるわね。でもただでさえあまり姿を見せない上に、以前出てきたときには転生者があらかた駆除したからそんな簡単には出会わないはずよ。」
それでも可能性が0ではない以上危険であることに変わりはないし、前回のボス戦の例もある。
「なあ。やっぱり正規のルートから行かないか?」
「嫌よ。私、野宿なんてしたこともないししたくもないもの。」
くっ、こんな時だけ王女様ぶるのかよ。
まぁ、もう転移装置を使う前提で遅めに出発してしまったし今から正規ルートにしても野宿の準備が無い。
転生者が根こそぎ狩り尽くしていることを祈りつつ、俺たちは転移装置のある道順を辿っていった。
拝読いただき厚く御礼申し上げます。




