第2話 スキルの世界①
―――町に着くと、そこは中世ヨーロッパを彷彿とさせるような街並みであった。
ただレンガや石畳は寸分の違いもなくきれいに切削されており、木造の建物には湿気や年季による朽ちている感じが一切見受けられない。
街行く人が着ている服はデザインこそ中世っぽいが、伝統的な染物や縫合では作れないような出来栄えをしていた。
「これもスキルってのを使っているから出来ることなのかもしれないな。」
少しばかり視界の横の商店街のような通りに目をやると、見たこともない野菜や果物が陳列されている。
それにまず元の世界では見ることがないであろう、炉の近くで甲高い金属音を鳴らしながら武具を扱う店が見えた。
「本当に異世界に来たんだな、俺。」
――ドンっ!
物思いにふけっているところに、誰かが背後からぶつかってきた。
後ろを振り向いたときには思わず息を呑んだ。
「ごめんなさいね。でもあなたも悪いのよ。こんな往来で立ちつくしていたのだから。」
長くなびく銀髪に燃えるような赤い瞳、凛と整った顔立ちとすらりとした背丈、とんでもない美人がそこに佇んでいた。
いや美人自体は現実世界だろうと見かけることくらいはあるのだが、髪質一つとっても現実味がないほどのビジュアルに言葉では形容し難かった。
「あぁ・・えぇっと。」
慣れないどころか初めての状況に言葉を詰まらせていると、その女性は言葉を続けた。
「ところであなた私とぶつかって何か変わったところはある?
特に何かステータス変化があるとか、スキルの状態が変わったとか。」
女性は心配そうというよりは興味深げといった雰囲気で尋ねてくる。
「いや特に変わったようなことはないと思うよ。
スキルなんてろくに持っていないし、唯一のスキルはそもそも無効化とか変化出来ないっぽいし。」
正直強制HP1なんて発動できない方がこちらとしては都合がいいと思いつつも、念のためウインドウを開いてみるがHPは変わらず1のままだ。
ということはやはりスキルに何も起こっていないということだ。
「スキルが無効化出来ない?
そんなスキルが発現するのなんて・・・、いやでも見た目からして普通だし。」
女性は不審なものを見るような目でこちらを見ながらぶつぶつ何か言っている。別に悪いことをしたわけでもないのに、いたたまれずにソワソワしてしまう。
「あまり人のスキルを詮索するのは無作法なのだけれど、よければあなたのスキルについて教えてもらえる?」
「あぁ、俺のスキルはHPが強制で1になる代わりにあらゆるスキルを習得できるというものらしい。」
「あらゆるスキルを習得できる!?
とんでもないスキルじゃない!!S級・・いやそれ以上のスキルよ!!」
俺が答えた途端女性は訝し気だった表情から一変し、燃えるような赤い瞳をさらに輝かせんばかりの驚いた表情でこちらを見てくる。
「あなたこれから時間ある?少し場所を変えて話しましょうか。」
「構わないよ。むしろこの町のこととかいろいろ聞かせてくれると助かる。」
そしてしどろもどろになりながら名乗る。
「えぇっと、俺の名前は、秦野尊って言うんだけど・・。」
「ミコトね。私はミリアよ。
それじゃ近くに冒険者ギルドの出張所があるからそこで話しましょうか。」
すると商店街とは反対方向にミリアは歩き出す。俺は艶やかな後ろ髪に少しばかり惚けながらついていく。
ひとしきり歩くと先ほどの通りとは異なり、武具を身に着けた人々が行き交う物々しい雰囲気の通りに入った。
「ところでミコトはこの町に詳しくないみたいだけど、出身はどこなの?
特殊なスキルを持っているところを見ると王都近辺?それとも教皇領?」
「あぁ、いやぁえぇっと、どこの生まれでもないというか、いろいろ初めてというか。」
転生してきたことをどうやって説明しようかと思い言葉を詰まらせる。
「ああ、やっぱり転生者なのね。どうりで珍しいスキルを持っていると思った。」
思いがけない言葉だった。しかも発言の雰囲気を見るに、転生者自体はさほど珍しくもなさそうだ。
「転生者ってほかにも結構いるのか?」
「居るわよ。なんなら高位の重役に就いていたり、有名冒険者のほとんどはそれね。」
「転生者の場合、転生時に与えられるスキルはその辺のスキル以上に強力かつ固有化していることがほとんどだもの。」
そういうもんなのかと思いつつ、その転生者たちは有能なレアスキルで悠々自適なんだろうなとも羨ましくも思ってしまった。
「さっ、ここよ。」
案内された場所には重厚感のある木造の建物がどっしりと構えている。
中に入るとそこは、パーティ募集の張り紙や依頼状がたくさん貼り付けてある掲示板など、まさに冒険者ギルドといった光景が目に入ってきた。
「それじゃ、あの席にしましょうか。」
ミリアは壁際にある二人掛けの席を指さして言った。
中に入り、席に向かう途中であちこちから声が聞こえてくる。
「おい。ミリアが男連れてるぞ。」
「見ない顔だな。パーティーメンバーか?」
「馬鹿言うな。ミリアに合わせられるスキル持ちなんか居るかよ。」
「なら婚約者か何かってことか?」
「もっと馬鹿言うな。それは俺が許さん。」
「知らねぇよ。」
やっぱこれだけ美人だと有名人なんだな。本人は周りの雑音なんか聞こえないと言わんばかりにスタスタと席に向かってるけど。
HPが1しかない俺は、いきなり殴られてゲームオーバーになるのではないかと内心びくつきながら席に着く。
「何か飲む?ここは奢るわよ。」
「水を・・あぁ、いやせっかくだしあそこの看板メニューって書いてある、なんか良くわかんない名前のジュースを貰うよ。」
もう不自由のない体なんだし、好きなように飲み食いしたって良いんだよな。折角の異世界、今度こそ自分は生き抜いたんだって言える人生を送ろう。
そう決意を固め、運ばれてきた鮮やかとも不気味とも言えない色のジュースを乾いたのどに流し込むのだった。
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