第1話 定めの命
―――1が0になる瞬間。
眠気とは違った脱力感を生む。意識が指先から乖離していくのを感じる。やがて痛みすら感じなくなる頃、ようやく現実を受け入れる。
(あぁ・・・。俺という人間はやっと終わるのか。ここまで来るのにどれだけの時間を生きられたのだろうか。)
―――全てが無に切り替わる瞬間。
指先に何かが触れる。これは、草か?
鼻先にも若々しい緑の香りが通り抜け、爽やかな風が頬を叩く。
本来動かせないはずの体をゆっくりと起こすと、呼吸器やチューブは付いておらず服も至って普通のシャツとズボンになっている。
そして重い瞼をゆっくり開くと、そこには現実感のない果ての無い蒼空が広がっていた。
「・・・ここは?、・・・少なくとも現実ではないからあの世か?」
俺は秦野尊、進路もろくに決めずに高校を卒業し、これからどうやって生きていこうと思っていた矢先に大病を患ってしまった。
殺風景な景色を見ながら改めて今までの自分のことを思い返す。それでも悲しいだとか未練がましい感情がまるで湧く気配が無い。
それは病など関係なく自分が生きている意味を見出せなかったことと、寝たきりになってからはただ生かされている事実に対し虚無感を持っていたからだろう。
ようやく意識がはっきりとしてきたところに、どこからともなく声が響く。
「この声が聞こえていますか?あなたの生は一度終わり、新たな命として今この世界に降り立ちました。」
気づけば周りは淡い光に包まれた空間にいた。
「終わった・・・ってことはやっぱり俺は死んだんだな?新たなってことはいわゆる輪廻転生のようなものか?」
脳内に響く声は抑揚もなく続けて答える。
「そうです。ここはあなたが住んでいた世界とは異なるスキルという超常が存在する異世界。この世界であなたは、己に課せられた命を全うしなければなりません。」
スキル?異世界?まるでゲームの序章に迷い込んできたかのような言われようだ。
「結局俺はどうすればいいんだ?こんな体一つで放り出されて急にそんなことを言われても困る。」
抑揚のない声は特に感情を込めるわけでもなく、何も聞こえていないかのように説明を続ける。
「あなたには転生者として、転生者のみが扱える専用スキルが一つ付与されています。その力を駆使しながらこの世界での役割を果たすのです。」
その答えを聞いて咄嗟に言葉が出る。
「俺は勇者か何かになったのか?その力とやらで魔王討伐でもやれってことか?。」
抑揚のない声は相変わらず無機質なまま答える。
「この世界には神や魔王などと定義できる存在はいません。あるのは純粋な人間の営みだけです。」
「ますます分からないな。結局目的や動機を見出せないじゃないか。」
すると初めて無機質な声は、皮肉めいたことを言う。
「その答えは持ち得ません。私はただこの世界に導く役目を務めるのみ。
それにどのような世界であれ、生まれた以上はその命を全うするのはその者の努めです。」
言ってくれる。だが、まぁとにもかくにも肝心なのは脳内の声より目先の生活だ。あの世でないのなら、何者かとして生計を立てなければならないだろう。
すると声の主は考えていることを読んだかのように説明口調で話を続けた。
「この世界ではスキルを駆使して、危険な冒険で富を得る者、人々の為に尽くし名声を得る者、国家を動かし権勢を誇る者、生き方は様々ですがどのような生き方をするのもあなたの自由です。」
スキルというからには何かの技能だったり、あるいは職業的なものもあるのだろうか。まぁ寝たきりの生活になる前はゲームくらいしかできなかったから、この展開自体には驚きはしない。
「私からの案内はここまでになります。
この空間が閉じられた後にステータスウィンドウが確認できるようになります。
まずはそこで自身の状態を見て、これからのことを決めると良いでしょう。」
最後の最後まで無機質な声は淡々と言い切り、やがて何も聞こえなくなっていく。するとだんだんと周りの風景が元の草原地帯へと戻っていく。
「言うだけ言って消えてったな。」
まぁ何にせよ、自由に動く体に専用スキルだろ?
ましてや異世界ときたならば、これは期待するなという方が無理がある。
手を前に出してウィンドウ呼び出しを念じてみる。
すると様々な情報が書かれた画面のようなものが現れた。
「よしっ。これで・・スキル詳細はこれか。えぇっと、転生スキルはこれか。」
【転生スキル―命定められし者Lv0】
HPが強制1になる。あらゆるスキルの習得が可能。
ただし習得、強化、維持には通常通り代償を必要とする。
※このスキルは無効化出来ない※
俺は思わず叫ぶ。
「HP1っ!?これでどうやって生きて行けっていうんだよ!!」
自身のパラメータを急いで確認する。確かにHPが1になっている、しかもその分他のステータスが高いとかそういうことでもなく見た限り平凡だ。
「おいおい、嘘だろ?転生者専用スキルっていうから期待するだろ普通・・・。」
とにもかくにも動き出さないとどうしようもない。
「あっちの方に町が見えるな。」
とりあえず目的地を定めて動いてみよう。危ないことをしなければどうにか食いつなぐ方法くらいはあるだろう。
俺は落胆を隠せない体に、無理やり希望的な観測を乗せて歩き出すのであった。
ここまで拝読いただき厚く御礼申し上げます。
自分なりに好きなものを好きなように書いておりますので、読みづらい箇所もあるかとは存じますが何卒本作を温かく見守っていただけると幸甚です。




