閑話 女王と将軍
――ミリシアが城を抜け出して何日か経った頃。
私が最も信頼を置き、妹と同じくらい親愛を込める相手が帰還する。
「ただいま戻りました。我が崇敬なる女王陛下。」
一点の曇りもない白金の鎧に、王家の紋章が入った外套をたなびかせた麗人が私の前に跪く。
「今は2人なのだから、そんな形式だけのことなんてしなくていいのよ?」
「いえ、お互いに国家の重責を担う身。それに今となってはこの城とてどこに下賤な輩が居るかわかりません。」
その人物は真剣な眼差しで受け答える。
「それよりセフィリア、貴方に聞きたいことがあるの。ミリシアがね、帰ってきた途端いつも以上にはしゃいでいたのだけど何か知ってる?ルサルカの町の坑道で会ったのでしょう?」
セフィリアは姿勢を崩さないままで、求めた問いに返す。
「それは間違いなくハタノ ミコトなる転生者のことかと。なんでも、あらゆるスキルを習得可能なようです。・・・真魔のスキルも含めて。」
なるほど。あの子がはしゃぐのも無理は無いわね。
私たち王族や一芸に秀でているだけの者では到底叶わないスキルの可能性を秘めているということね。
「ならなぜ連れてこなかったの?いつもなら転生者は国で手厚く迎え入れるものでしょう?」
「それが、軽い抵抗を受けたもので。」
表情こそ硬いが、何やら思い出し笑いを堪えているようだった。
「貴方を相手どるなんて相当な実力者のようね。」
彼女は名門の出というだけでなく、実力込みで将軍の座に就き立ち場を問わず誰からも人望が厚い。
さらにスキルを用いた戦闘ですら、転生者に引けを取らない王国屈指の傑物である。
「あぁ・・いえ。むしろその者はスキルの影響でHPが1しかなく、スキルも相手を倒すことでしか得られないとのこと。
今の実力で言えば、他の転生者どころかその辺の冒険者にも劣るでしょう。」
セフィリアは少し困ったように苦笑した。
「ならなおさら放っておいて良かったの?転生者を簡単に放逐して死なせたとあっては風評に関わるし、何より他国や教皇に手を回されると厄介よ?」
「それこそ、ご自慢の妹君が簡単にはそうさせないでしょう。何より己の力に驕り、権力や権威に与するような俗物なら今この瞬間にも私の隣にいたはずです。」
セフィリアは転生者自体のことは快く思ってはいない。それは国の重要施策のほとんどを転生者が対応することになり、騎士団は下働きをすることが多くなったことが尾を引いている。
何より転生者は15歳から20歳前後の世の中を知らない若者が多く、その精神性は危うい。
強大な力を持て余し、周りの大人が神のように崇め奉るのだから節度を持てという方が無理があるのだろう。
――それでも今のこの国は、そんな世間知らずの少年少女を頼みの綱にしなければならないほど政治基盤が不安定だ。
「貴方には苦労を掛けて申し訳ないと思っているわ。」
「何をおっしゃいますか。私は陛下の信じる道を切り開くのみです。」
相変わらずこういうところは堅物なのよねぇ。
「それにしても、ミリシアだけでなくあなたもその彼のことを特別だと思っているのね。」
「今はまだ力量こそ語るに及びませんが、少なくとも今までの転生者たちよりは骨があります。
それが儚い命ゆえの、ただの悪足掻きなのかどうかが測りかねるところですが。」
ふふっ♪なんだかんだ優しい貴方だもの。能力よりも心意気がある人を見つければ、評価せずにはいられないっていうことは長い付き合いで分かっているわ。
「早く会ってみたいわねぇ♪その彼に。ミリシアの手に余るようなら私の専属騎士になってもらおうかしら♪」
「・・・またお戯れを。」
セフィリアはやれやれと言った反応を示した。
・・・あながち冗談でもないのよねぇ。
でも、ミリシアのことを任せる以上はしっかり頼むわね。
――天の命を定められし勇者様。
拝読いただき厚く御礼申し上げます。
次章スタート前の閑話になります。
どうにか完結まで走り抜けたいです。




