第17話 主人公
――あの戦いの後、俺が異世界に来て初めて訪れた町ルサルカに戻ってから一ヶ月が経とうとしていた。
ボス戦のクリア報酬やドロップ品はヤマトから恵んでもらっていたが、結局全て売り払った。
今の俺では到底挑むことすら叶わないボス級のレアドロップ品。それをそのままありがたく使わせてもらえば、有利に冒険を進めることも出来ただろう。
・・・だけどそれだけはどうしてもできなかった。
それを受け入れてしまえば、自分はただ生かされているだけの存在なのだということを自分で肯定してしまうような気がした。
(結局こんなことを考えている時点で、俺は卑屈な俗物なんだろうな。)
ただ想定外の収入で、しばらくは寝食に困ることが無いことに関しては僥倖だったと言えるだろう。
―すると安宿の部屋の扉が開く。
「ミコト~。いるっスかぁ?」
ルカだ。あれからクエストも受けず、ダラダラとしている俺に変わらずパーティを組んでくれている。
一度は解散を促したが本人曰く、
「自分も懐が潤ったんで、依頼に急いで食いつく必要無いっスからね~。
それにミコトみたいな普段色々考えてるくせに、いざというとき考えてたこと全部捨てて体当たり出来る人は嫌いじゃないっス。
・・・まぁ、見てて心臓には悪いっスけど。」
・・・だそうだ。どちらかというと貶されているような気もしなくはないが、俺から言わせればルカもたいがいお人好しだよな。
「今日はどうするっスか?そろそろ他の町でも行ってみるっスか?今の時期なら東の方で大きめのバザーをやるみたいっスよ。」
「ん~。まぁ暇を持て余しててもあれだし、ちょっと覗きに行ってみようか。」
すると閉じかけた扉が凄まじい音を立てて開いた。
「ミコトっ!?まだこの町に居たの!?」
「ミリア!?王宮に帰ったんじゃないのか!?」
こんなところで再会することになるとは思わなかった人物がそこにいた。
「戻ってすぐにさっさと抜け出してきたのよ。
それよりとっくにどこかで噂になってると思ってたのに、どこに行ってもあなたの話が出てこないから探すのに結構苦労したわ。」
そもそもHPが1だって知ってるはずなんだから、その辺の転生者みたいに伝説レベルの活躍がすぐに出来る訳がないことくらい察してくれ。
「・・えぇっと、すいません。どちら様っスか?
・・それにさっき王宮に帰ってたとか聞こえたっスけど・・・。」
ルカが隅っこで縮こまりながら、恐る恐る尋ねる。
「ああ、ごめんなさい。私はミリアよ。ミコトが言ってたことは気にしないで。それよりあなたは?」
ミリアは一瞬にして誰もが見ほれるようなキリッとした表情に戻し、ルカに挨拶をした。
というか会話の流れからバレそうなもんだが、そこはやっぱり姫であることは隠し通したいんだな。
「自分はルカっス!!ミコトとパーティを組ませてもらってるっス!!」
(なんかよくわかんないっスけど、高貴な人っぽいんで仲良くした方が良さそうっスね。
・・・・・でもどこかで見たことあるような気がするんスよねぇ。)
ルカは挨拶をしつつミリアの顔を見て考え込んでいる。
「あらそうだったの。それじゃこれからは私もパーティに入るからよろしくね。ルカ。」
「いやいや、ちょっと待て。何で勝手に話が進むんだ。というか何で俺にそんなに構うんだよ。」
ミリアはわざとらしくすっとぼけた様子で答えた。
「何だっていいでしょ。特殊スキルの転生者に興味があるだけよ。」
嘘が下手なのか?その言い方じゃ余計気になるだろ。
まぁ転生者を囲ってる国のお姫様だし、何かは企んでいるんだろうとは思う。
・・・ただ何であれ、ちゃんと目的を持って動ける人間に今の俺がどうこう言えることは無い。
「俺のスキルは他の転生者ほど大したもんでもないだろ。厄介な真魔の相手とかならチートスキル持ってるそいつらに頼めばいいじゃないか。」
俺はそう言うともう一度ベッドへ倒れこみふて寝をかます。
「なんだか元気無いわね。何かあったの?」
そもそもこれが本来の俺だ。もっとシャキッとした人間だったのなら、元の世界でだってもう少しマシな人生を送っている。
「えぇっとっスね・・。実は・・。」
ルカがミリアに耳打ちをしながら、これまでのことを説明した。
「ああ・・。ヤマトに会ったのね。まぁあれの話は面白くないからどうでもいいわ。」
まぁ当然なんだろうが、ミリアはヤマトとも面識があるようだった。
というか、国の為に働いている転生者を一国の姫がどうでもいいはないだろ・・・。
「それで?なんでそんなことで暇を持て余すことになるのよ?」
つくづくミリアは不思議そうに尋ねる。
「いや・・。ボスに勝てないのとかは自分でも分かってたから良いんだけどさ。
なんというか、俺って何が出来て、何をすべき人間なんだろうなって。」
「さあ?そんなの自分で決めることでしょ?」
本当に意にも介していないかのように返答してきた。
「なんだよっ!?そっちが最初に色々持ち上げてきたんじゃないかっ!!」
思わずカッとなって言い返す。
「ええ。あくまでもあなたの資質をね。でも、あなたの人間性や生き方までは知らないわよ。初対面だったんだもの。
まさか特別なスキルがあるってだけで、人より成り上がった存在だとでも思ったの?もしそうなら、あなたは悪い意味で他の転生者と同じね。」
―言葉の全てが体の芯の奥深くまで貫いてくる。
ルカがあわあわしながら俺とミリアの顔を交互に見合わせ言葉を必死で探していた。
「でっ、でもっ、ミコトも頑張ってたっス!己の危険を顧みず他人を助けるために一生懸命だったっスよ。」
「ふぅん・・それで?頑張ったのにその他人が自分を評価してくれなかったり、自分より評価されている他人を見て惨めになったと?
あなたはあなたの意思で後悔の無い選択をしたんじゃないの?その結果に他人がどう関係するのよ。」
―――完全に核心を突かれた。
そうだ。俺はなんだかんだ言って、自分は特別だという期待感を持っていたんだ。
それが現実を目の当たりにしただけで、勝手に裏切られたといじけているだけだ。
――いい加減に俺は目を覚ますべきだ。
現実に夢を見るんじゃない。
現実を変えるんじゃない、俺が変わるんだ。
俺の人生は、俺が動かさなきゃ何も変わらない。
やっと自由に動かせる命を手に入れたんじゃないか。
―そうだ。こんなところで惰眠に耽っている場合じゃない。
何もできずにベッドの上で死ぬだけなのは嫌だって、生き抜いた証が欲しいと望んでいたのは俺じゃないか。
それに、年下の少女たちに気を使わせてばかりなのを黙って良しとするほど俺は子供じゃない。
そうして俺は、まだ気怠さが残る体を無理やり意地で叩き起こした。――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜 第一部 完 〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ここまで拝読いただき厚く御礼申し上げます。
ここまでがチュートリアルのような内容のつもりでおります。
次は一旦閑話になりますが次章からが本題に入っていくような流れで考えております。
拙作ながらお付き合いいただけると大変幸甚でございます。




