第15話 異変の主
朝目が覚めると、既にルカが朝食を食べ終わっているところだった。
「足はもういいのか?」
「もともと大したケガでもないんで大丈夫っス!
それより今朝がた王国騎士団がぞろぞろと毒草地帯に向かっていったっスけど、なんかあったんスか?」
ルカは屈伸運動をしながら訪ねてきた。
「俺も詳しくは分からないんだけど、やっぱりあれだけの大所帯だと真魔が絡んでるんじゃないか?活発化してるとか言ってたし。」
するとルカが難しそうな顔をする。
「そうなると厄介っスねぇ。あの辺なら間違いなく毒を扱う真魔ばっかりっス。今のミコトでは厳しいっスよ。」
そうなるよな。俺のHPでは毒によるスリップダメージなんてもっての他だし、ましてや解毒薬は聖属性アイテムだから飲めば死ぬ。
「スキルを試す為に簡単に考えてたけど、選択ミスったかなぁ?」
「そんなことないっス。依頼目標は毒草地帯の入り口すぐの場所なんで、報酬に目がくらんで深入りしなければ厄介な真魔とは遭遇しないはずっス。」
「そうか。なら、必要最低限だけこなしてさっさと退散するか。」
そうして俺たちはクエストの目的地へと向かった。キャンプ地を出てから目的地に差し掛かると、見るからに毒々しい見た目の植物や池などが目に付くようになった。
「しかしすごい見た目の景色だな。自然にこうなるもんなのか?」
「実はこの毒草地帯をもっと先に抜けた場所は危険区域になっていて、王国騎士すらまともに立ち入ることが出来ない未探索エリアになってるっス。
前の国王の時代にそのエリアの奥深くで天災認定された真魔が暴れたことがあって、その影響でこの毒草地帯が出来たと言われてるっスね。」
おいおい嘘だろ。地形ごと変えて、それがそのまま残り続けるってどんだけヤバいんだそいつ。
「でもそれだけの真魔をどうやって抑え込んだんだ?」
「そこで活躍したのが、その当時の転生者パーティなんス。今となっては王国の伝記にもなって語り継がれてるっスよ。
そういったことがあって、王国は国防対策として転生者を囲い込むようになったっス。」
国レベルで対処できないものをたかだか数人でどうにかするなんて、ステータス完ストとかチート並みのスキルでゴリ押しが出来ないとそこまではいかないだろう。
別の見方をすれば真魔以上の脅威と評価できるわけだし、そりゃ何を与えてでも味方にしようとするよな。
「まぁ今の俺たちには縁のない話だし、さっさと依頼の毒草駆除を完了するか。」
「そっスね。」
それから俺たちは依頼の毒草駆除を始めたのだが、どうにもおかしい。ギルドの話ではD~Cランク程度のものと聞いていたのに、群生している毒草を採取するとどれもB~Aランクである。
「これじゃ俺のスキルでも毒を無効に出来ないな。というかどうなってるんだ?放置されてたらこうなるもんなのか?」
「いやぁそんなことは無いはずっスけど、今朝の騎士団の話からすると、もしかしたらヤバいかもっス・・。」
・・・言われてみれば真魔が活発だという話のはずなのに、遠くを見渡してもそれらしいものは一切見つからない。すると奥の方から叫び声が聞こえてきた。しかもその叫び声はだんだんとこちらへ近づいてくる。
「急げえっ!!とにかくやつの戦闘エリアに入らないよう離れるんだぁっ!!」
よく見ると昨日の騎士団の隊長らしき人物が、集団を率いてこちらに逃げてくるのが見えた。その後ろからは、明らかに尋常では無いサイズの大蛇が追ってきている。
「なんだアレ!?」
「なんっスかアレ!?」
俺とルカは同時に驚嘆の声を上げる。
騎士隊長らしき人物はこちらに気づくと大声を張り上げる。
「お前たち冒険者かぁっ!?ここはもう今から災害指定区域だぁっ!!早く逃げろぉ!!」
大蛇も俺たちの存在に気付くと一度身を縮め、信じられないことにその巨体で飛び上がった後、俺たちと騎士団の間に着地する。その直後に今までの戦闘では見たことが無いメッセージが出現した。
【地を這うヴィシャ・パーパ(幼体)との戦闘を開始します】
メッセージが出た直後、半透明の結界のようなものが周囲を覆うように現れた。実体験は初めてであっても、この展開には強烈な既視感を覚える。
「まさか、ボス戦ってやつか!!?なんでこんなところで!?」
するとルカが即座に反応した。
「もう気づいてると思うっスけど、あいつ倒さない限りこの結界解けないっス!」
最悪だ。騎士団員は昨日見た時よりはるかに人数が減っているので、つまりはそういうことだろう。それに対し、大蛇は消耗している様子が何一つない。
俺たちはアイツにとって敵以下の、狩りの対象でしかないということだ。
「こんなのにどうやって勝つんだよ!?」
俺が呆然としていると、騎士隊長が鬼気迫る様相で声を発する。
「お前たち遠距離攻撃は可能か!?出来るのならば我々で突撃し、一点集中で奴の柔い部分を切り裂く!そこに追撃をすかさず叩き込んでくれ!!」
「っ、分かった!!やってみる!!」
返答を聞いた騎士たちは深く頷き、呼吸を整えてから一点をめがけて突撃をかけた。それなのに大蛇は、自身の弱点を突こうとしている騎士たちを眼下に見据えながら動こうとする気配が無い。
「でぇりゃぁぁぁっ!!」
騎士たちの剣が大蛇の横腹を裂き濃紺の血が飛び散る。すかさず俺とルカで魔法攻撃を行おうとしたその時だった。
「こっ、これはっ!?ぐわあぁぁぁっ!!」
見ると飛び散った返り血が、おぞましい蒸気を発生させながら騎士たちの装備や肌を溶かしていった。
――ふしゅうぅぅぅっ!!
大蛇は相手がまともに動けないのを見るや否や、退路を断つようにどす黒い液体を吐き散らし、瞬く間に毒沼を作り出した。
「っ・・!!これじゃ攻撃も救助も出来ないぞっ!?」
先ほどまで勇ましかった騎士たちの顔が、瞬時に死への恐怖を露わにする。そして敢えてそれを待っていたかのように、大蛇は大きな口を開けて騎士たちへ迫っていった――。
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