第12話 小さな案内人
――街道外れの岩場で予期せぬ戦闘をしたことにより、俺たちは一つ目のキャンプ場で早めの休息を取り、二つ目のキャンプ場で食料の補充をして目的地へと出発した。
「三つ目のキャンプ場に行くまでには、森林地帯を超える必要があるっス。稀に真魔が徘徊してることがあるので注意っス。」
ルカが軽快に説明する。ここに至るまでの間、現在滞在しているセントリア王国のことや周辺情勢のことも色々と教えてもらっていた。
「だけど本当に良かったのか?ルカはCランク冒険者なんだろ?Fランクの依頼に付き合ってもらっても払えるものは無いぞ?」
戦闘の後も引き続きパーティを組みたいとルカの方から申し出てきていた。もう何度目かになるこの確認を改めてルカに尋ねる。
「クドいっスねぇ。そもそも最初に巻き込んだのは自分っス。あの騎士戦ではたんまり稼がせてもらったんで、そのお礼みたいなもんっスよ。」
ルカはにししっと屈託のない笑顔を見せる。
(それに、転生者の近くなら美味しい話にありつけるチャンスがあるに違いないっスからねぇ。
恩を売っておけば、盗賊稼業から足を洗って特権階級での暮らしも夢ではないっス!!)
あの騎士戦を経て、俺も戦利品を山分けしてもらっていた。しばらくは普通の暮らしが維持できるほどの金銭的余裕が出来たことは大きい。
それでも分けてもらう量は3割程度にした。ルカのサポート無しでは、あの戦いを潜り抜けることはできなかったからな。
「んで、さっきの続きっすけど、ミコトは真魔と遭遇する道の方がいいっスか?
戦えば戦うほどスキル覚えるんスよね?」
「いや、それは遠慮しておくよ。今は依頼を優先したいし。」
一つ目のキャンプで万が一に備え装備は更新したものの、基本的なスキルすらないのに未知数の敵の相手や燃費の悪いスキルを乱用していられない。
騎士からドロップしたラーニングアイテムも、まだ使用できるランクではないとウィンドウで阻まれたため、そのアイテムもルカにあげたくらいだ。
「了解っス!ならさっさと突っ切る道で行くっス。」
「当然ルカの方が詳しいだろうし、道案内は任せるよ。」
「バッチリっス!!仮に真魔に出くわしても自分の【隠密】があれば、見つかるなんてことはまず無いっス!!」
戦闘時にも思ったが、盗賊スキルは生存に有効なスキルが多そうだ。俺も職業に就けるようになったら、率先して取ってみようか。
そうこうしているうちに森の入り口へとたどり着く。森の中は比較的に陽光が多く差し込み、視界は広く、いわゆるハイキングコースのような雰囲気だった。
「なんだ、もう少し薄暗くて悪霊の類でも出るかと思ったけどそうでもないのか。」
「そりゃ、ここは普通の人も町への連絡路として使う森っスからね。王国も真魔が湧かないように定期的に巡回してるっス。」
とはいえ油断は禁物だ。ルカに安全な木の実や薬草について、教えてもらいながら出口を目指した。道中で天然の湧き水が出ている場所を発見し、出来るだけたくさん水筒を満たす。
・・・スキルで状態異常にならないとはいえ、泥水を啜るのはゴメンだ。ひと休憩を取っていると、ガサガサと近くから音を立て見知らぬ男が現れた。
「あんたら冒険者か?すまねぇがポーション持ってねぇか?金なら多めに出す。頼むっ!結構傷が深ぇんだ。」
見るとその男の肩から肘にかけて裂き傷があり、事態は深刻そうだ。俺はポーションを持っていないので、ルカが手持ちのポーションを分け与えた。
「何かあったんですか?傷を見る限り何かに襲われたとか・・。」
「いやそんなはず無いっス。この辺はついこないだ王国の巡回が終わったばかりなんで、そう簡単には真魔は湧かないはずっス。」
すると男は礼を言いつつ、訳を話し始めた。
「それがな、その巡回中にこの辺じゃ発見されたこともねぇタイプの真魔が出たとかで騒ぎになったんだ。
当然見回りの騎士も対抗したらしいんだが、討伐にまで至らなかったみたいでな。この辺りに潜んでいるところに遭遇しちまったってわけだ。」
「真魔ってのはどんなだったんだ?」
「あぁ。ぱっと見は、普通の鹿なんだが近づくと頭から半透明の4本角を出すんだ。これを振り回してスゲェ斬れ味の真空刃を飛ばしてきやがる。」
普通の動物にしか見えないもんが、急にそんなもん振り回してくるって恐怖だな。俺なら油断した瞬間に即死だろう。
「まぁ俺は運が悪かっただけだが、迂闊に近づかなければ好戦的な方じゃないらしい。あんたらも特別用事が無いならさっさと森を抜けた方が良いぜ。」
「あぁ、そうするよ。忠告ありがとう。」
男はポーション分の代金を置いていくと、足早に俺たちとは反対方向へと向かった。
「それにしても一人とはいえ王国騎士を退けるなら、最低でもCランクの上澄みの方っスねそいつ。」
「まぁ出くわしても迂闊に近づかなきゃ良いって話だし、改めて道案内はしっかり頼むよ。」
ルカは警戒を強めつつ、俺の前を先導し始めた。俺も奇襲だけは避けるよう、周囲をよく見まわしながら進む。ある程度進んだところで、ルカがこちらを振り返った。
「あの道を抜ければ森を出るっス。」
すると脇の獣道から1匹の動物が飛び出してくる。
「・・・鹿だ。」
「・・・っスね。」
もしかしたらただの鹿かもしれないが、先ほどの男の話を聞いていたからか、俺もルカも体を強張らせる。
鹿は微動だにせずこちらをひたすら見つめてくる。心無しか俺の方を注視しているような気がする。
「どうするっスか?一旦退却っスか?」
「そうするか。近づかなければって話だし、それでやり過ごせるに越したことはないだろ。」
俺たちが一旦後方へ引き返そうとすると、鹿は俺たち・・正確には俺に向かって深々と礼をした後で静かに森の奥へ去っていった。
「今の何だったっスか?なんかスキル使ったっスか?」
ルカは不思議そうに尋ねてくる。
「いや俺に動物使いのスキルなんか無いよ。単純に敵扱いされなかっただけだろ。
まぁ、何にせよこれで森を抜けられるならそれで良いじゃないか。」
思いがけない事態に冷や汗をかかされたものの、俺たちは森を抜けることができた。
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