第11話 王女と女王
――豪華なカーペットが敷かれた貴賓室を通り過ぎて久しぶりの自室に戻る。
ミコトと出会った辺境の町から王都までは1週間以上はかかってしまう。
普通であれば道中危険な長旅を超えなければならないのだけれど、転生者のスキルを応用した転移装置で僅か数分足らずで王宮まで連れ戻されてきた。
「いくら王族だからって、希少な転送装置をこんなことで使うのってどうなのよ。」
完璧にベッドメイキングされたシーツの感触に、安心感を覚える。それと同時に、一介の冒険者では味わうことなど出来ないこの特別対応に苛立ちも覚える。
「何が王族よ。そんなの今のこの国にどれだけの価値があるのよ。」
スキルが息づく世界。その世界の大陸中心に建国されているセントリア王国。
この国ではスキルランクによる階級制や職業統制が導入されている。徹底した管理によって治安も良く、大陸各所に存在する勢力の中では1、2を争う大国として名を馳せている。
――コンコンッ。
「こんな守りの厳重なところで鍵なんか必要ないんだから、勝手にどうぞ。」
扉が開くとそこにはどことなく私と似た美しい女性が佇んでいる。
「相変わらず戻ってくるたびに機嫌が悪いわね、ミリシア。」
―ミリシア・デュ・セントリア。
それが冒険者ミリアのもう一つの顔、第2王女である私の本当の名前。
「姉さん・・・。」
―エマ・デュ・セントリア
王なき後の国政を担っていた母が急死したため、急遽女王として即位した私の実の姉である。
久しぶりの家族との再会だというのに素直に喜べないのは、セフィリアとの言い争いをしているとき、つい姉を悪く言ってしまった罪悪感があるからだろう。
「あなたには自由に生きてほしいとは言ったけれど、あまりセフィリアを困らせてはだめよ。
彼女も将軍として今何かと忙しいのだから。」
「セフィリアは過保護が過ぎるのよ。自由にしていいならほっといてほしいわ。」
「そうねぇ。私もあなたから聞く話は新鮮で、いつも楽しみにしているけれど、危ないことまでは大目には見てあげられないわよ?
戻ってくる前にセフィリアから少し聞いた話だと、真魔が出る場所に同行したんですって?」
「そうなの!!聞いてっ、今までではありえないスキルの転生者が居たの!!彼ならっ、」
最後まで言い終える前に、離れた通路の奥から近衛騎士の声が聞こえる。
「陛下!!エマ女王陛下っ!!どこにおいでですか!?」
「構ってあげられなくてごめんね。即位したばかりでまだ私も忙しくて・・、そろそろ教皇が訪ねてくる頃合いだから。」
「っ!?、姉さんっ!!なんであんな奴と会う必要があるのよ!!」
聖サントマルク教会の頂点に座す、ミハエル教皇。
聖職者の頂点と言えば聞こえはいいが、実質のところ国内のライフラインに関わる主要なスキル保有者と、その権利を独占している。
そうすることで得られる利益を教会の意のままにしており、名声も権勢も王室に迫る存在である。
「貴族連中だって半分近くはあいつの派閥に入ったって話じゃない!!なんで正面から糾弾しないのよ!!」
「だからこそよ。今、真っ向から挑んだって世間知らずの娘が感情だけで叫んでいるだけと、まともに相手にもされないわ。
同じ土俵で話せる相手と思わせるところから始めないと、取り入る隙は生まれないのよ。」
国としては転生者を抱え込むことで先ほどの転送装置のような革新技術の開発や、危険区域の開拓、真魔たちの対応などでなんとか権威としての存在感を維持している。
だけど基礎の生活面での支えというのは万人に与える影響が比にならない。その名声と勢いは王族の権威を上回りつつあった。
特に王室を支える貴族の中には成人したばかりのような年齢の女が、国の代表を務めることを快く思わない者も少なくない。
「私が感情任せで考えなしだって言うの!!?」
そんなつもりはないのに、セフィリアと言い争った時のように、たった一人の家族につい口調を強くして言葉を漏らしてしまう。しかし姉は、微笑みを絶やさないままなだめるように言葉を重ねた。
「むしろあなたにはいつでもそうあってほしいわ。それじゃあね。」
姉は振り返ると先ほどまでの態度とは打って変わり、近衛兵たちにこの後の対応をてきぱきと指示しながら通路の奥へと消えていった。
そういう姿を見ると、私はまだわがままを止められない子供なのだということを痛感させられる。
「とにかく、姉さんの手が塞がっているうちに抜け出さないと。
でももう一度ミコトを探すのが手間ね。セフィリアがさっさと連れ戻すものと思ったのに、なんで一緒に来なかったのかしら。」
ぶつくさ言いながら、自由な王女は旅支度を進めていた。―――
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
―――コツっコツっと小気味のいいリズムで、靴を鳴らす音が響く。
「さて、今日は何を吹っかけてくるのかしらね。」
先ほど妹の相手をしていた時とはまるで別人の、女王らしい表情で堂々と従者たちの前を通り過ぎる。
ただ、愛する妹との久しぶりの再会を思い出し妹のこれからの行動を想像すると表情が不意に緩む。
「あの子も私の暇がないと知ったら、今頃抜け出しているでしょうし♪」
するとそばに仕えている近衛騎士が気を利かせたつもりか提案をしてくる。
「連れ戻しますか?監視も必要であればこれからは厳重に対応させますが。」
すると女王は少女のように可愛らしく頬を膨らませて答える。
「たった一人の妹よ。なぜ犯罪者のように扱う必要があるの?
それにあの子には外で色々経験してもらって、いつか私の隣に立ってもらわないとだもの。あなただって世間知らずの相手ばかりは嫌でしょう?」
「もっ、申し訳ございません!!決して他意があったわけではっ・・!!、ですが、その・・大切な妹君に何かあったらどうするおつもりですか?」
再び大人びた穏やかな表情に戻り、優しく答える。
「ふふっ。それこそ今さらな質問ね。私たち王族の生来スキルはこの世界において絶対の力よ。
それに、いざというときのお守りを持たせているもの。ミリシアはお守りの中身にまではまだ気づいていないようだけれど。」
近衛騎士がはぁと気の抜けた返事をするのを正し、応接広場へと向かう。
「それにしても、あの子が転生者のスキルではしゃぐのはいつものことだけれど、それだけならセフィリアがとっくにあの子と一緒に連れ帰っているはず・・・。」
(セフィリアにも何かあったか、それともその「彼」そのものに何かあるのかしら。
戻ったらセフィリアから詳しく聞いてみないといけないわね。)
アフタヌーンティーの楽しみが出来たと言わんばかりに少し笑うと、これから面倒を押し付けてくるであろう相手の元へ足早に向かうのであった。
拝読いただき厚く御礼申し上げます。
応援、評価頂けると幸甚です。




